班決め
毎日投稿はここまでだと思います(多分)
それでも二日に一回以上のペースで出せるように頑張ります!
「来週は宿泊研修でーす!」
若い副担任の女性教師の一声で、朝イチのクラスが大いに湧く。
この学校には、5月末に宿泊研修なるものが行われ、山にある宿泊施設にて、二泊三日でレクリエーションや自然を楽しむ。
目的は、寝食を共にすることで、クラス内でのコミュニケーションを深めることと、自然の良さを知り、後世に残したいという意識を持つこと。
もちろん普通の授業も行われるが、基本的にはレクリエーションやアドベンチャーをメインとするらしい。
「五人一組を作って、できた班から先生に伝えること!」
担任の体育系のおじさん先生が紙を取り出し、「早速組めー」と班決めが始まった。
ーーーその瞬間、クラスの男子が一斉にこちらを見た。
チラ見する人もいれば、ガン見している人もいる。
その目線の先は俺ーーーではなく、その隣にいる咲良さんだった。
俺もそちらを見ると、少し震えながら咲良さんは俯いていた。
「しーちゃん!もちろん三人で組むよね!」
宮前さんと高良さんが目の前に立ち、ブラインド代わりになったことで、咲良さんは安心して前を向いた。
俺がホッとしていると
「怜斗ー組もうぜー」
翔太が前から歩いてきた。
俺が返事をしようとすると、スマホのバイブレーションが鳴る。相手は咲良さんだった。
『よろしければ、一緒にどうですか?こちらの二人はいいと言ってますが、ご迷惑じゃなければ』
俺は目の前の翔太に手招きをし、近くに寄るように誘う。
事情を説明し、驚きを隠せていない翔太の了承を得た俺は、隣を向いてこくりと頷いた。
「決定だね!私書いてくるー」
宮前さんが一番乗りで先生に伝え、黒板の表の一番上の欄に五人の名前が書かれる。
咲良さんの名前が書かれた時に、クラスの男子が「あぁ」という声を出している。
翔太の言った通り、男子人気が高いのは本当だったのか。
確かに、咲良さんはこのクラスの中⋯いや、学校を含めてもトップクラスに可愛いだろうけど、そんなに落ち込まなくても⋯。
「⋯帰る時は後ろに気をつけた方がいいのかな」
ボソッと言うと、翔太がぷふっと吹き出す。
「そこまではしねーよ」
それからほかの班が決まり終えるまで、翔太はツボに入っていた。さすがにゲラすぎないか?
班を決めたとはいえ、自由行動をするわけではないので、特に話し合う必要は無い。
班行動をするのは二日目のアドベンチャーコースと三日目のモノづくりの時間のみなので、宮前さんを班長に任命した時点でこの時間にやることは無くなっていた。
残り、俺たちは互いに軽く自己紹介をして、授業が終わるまでは雑談で時間を潰した。
翔太が何度か咲良さんに話しかけるチャレンジをしていたが、全て顔を背けられて失敗した。
そこそこ落ち込んだ様子だったが、軽々しく口にしていい事情では無いため、「どんまい」と慰めることしか出来なかった。
その日の放課後、俺は高良さんに呼び出され、渡り廊下の階段下に来た。
俺より先に高良さんが到着しており、何かやらかしたかと内心ドキドキしながら声をかける。
「お待たせしました」
「急に呼び出してごめんね」
高良さんは穏やかな顔でこちらを向く。どうやら怒られるなんてことはなさそうで安心した。
「シオのこと、ありがとね。あの後も色々としてくれたみたいで」
クッキーを貰ったあの日から、俺は咲良さんとラインを送りあっていた。
お互いに漫画が好きということで、漫画の話を中心に、互いの趣味について毎日二、三通のメッセージを交わしている。
最初は事務的な敬語だった文章も、最近は柔らかい敬語になってきて、心を開き始めてくれていると勝手に嬉しくなっていたりする。
「俺も楽しくてやってるから、気にしないで」
「いや、心からありがたいと思ってるよ。あたしが、音無となら仲良くしてみなって持ちかけたから⋯」
「帰って部屋に戻ったあと、音無の迷惑になってたり、シオにとって逆効果になったりしたらって想像したら、怖くなっちゃって⋯」
穏やかで優しかった表情が強ばり、不安に変わっていくのが見て取れる。
「俺は感謝してるよ。実は、俺も少し女の子を敬遠してたところがあったから」
そう言うと、高良さんは一先ず胸を撫で下ろした。
「咲良さんも、迷惑がってはいないんじゃないかな」
「そう⋯かな」
「咲良さんが男性と話せなくなったのって、いつ頃か聞いて大丈夫?」
「うん。中学二年生くらいからだったと思う」
「約二年、関わろうとしなかった男性に、自分のラインを教えたのも、ラインを最初に送ってくれたのも咲良さんからだった。彼女なりに、勇気を持って決意した結果だと思うんだ」
俺は言葉を続ける。
「だからもし、無理をしたり、辛そうな顔をしてたら支えてあげてほしい」
何目線だ、と思われるかもしれないが、高良さんは真剣な眼差しで話を聴いてくれていた。
その目は、少し潤んでいたようにも見えた。
「傘を差し出してくれたのが音無でよかったよ。いや、音無だから差し出してくれたのかもね」
高良さんはいたずらっぽく笑う。
「そんなことないでしょ。普通だよ」
俺は特別なことはしてないと言うも、「なかなかできる事じゃないよ。そんな王子様ムーブ」といじられてしまう。
宮前さんの天然っぽさとはまた違い、高良さんは知的な言動で掴みどころのない人だ。対等に話しているつもりが、いつの間にか相手のペースになってしまう。
「そういえば、一緒の班になれてシオも喜んでたよ。宿泊研修もよろしくね」
そう言うと、高良さんは玄関へ歩き出す。そして後ろを向いたまま「ついでにこれからもよろしくしてやってね」と頼まれたので
「期待してもらうのは構わないけど、変わらず普通に接するだけだよ」
俺の言葉に、高良さんは片手をヒラヒラと振って応答する。
女子の中でも身長が高めでスタイルの良い高良さんのその姿は、赤い夕陽に照らされる舞台の主役のように俺の目に映った。