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一回目の花火大会



 持ち物よし、場所よし、時間よし、髪型と服装は⋯多分よし。


 花火大会当日、会場から少し離れたコンビニの看板下で待ち合わせの相手を待つ。


 家を出た時は冷静だったはずなのに、ここに来て冷や汗を伴う緊張が表れる。


 なぜこんなにも緊張しているのか。二人で遊んだことは何度もあるし、この規模の花火大会だから人の量なんてたかが知れている。

 久しぶりの花火大会だから?徐々に闇に包まれていくこの時間だから?⋯そんなことは無い。今になって思い出してしまったからだ。予定が決まった日の帰り際、蒼ちゃんから言われたあの一言を⋯




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「それではそろそろ⋯」


 花火大会に行くことが決定した後、お腹が落ち着くまで談笑してからお暇させていただき、俺は帰宅の準備をした。


 咲良さんも立ち上がり、いつものように玄関まで見送りに来てくれる。そして今日は珍しく、蒼ちゃんも咲良さんの後ろからついてきていた。


「音無くん。週末、楽しみにしてるね」


 靴を履いて二人と向かい合うと、咲良さんがそう言ってニコッと笑う。そして由希さんに呼ばれ、咲良さんはリビングに戻って行った。


「お兄さんっ、私も楽しみにしてるからね」


 蒼ちゃんも小悪魔的に微笑み、一歩こちらに歩み寄る。


「お姉ちゃんとの花火デートも存分に楽しんでくださいね」


 リビングに聞こえないように小さな声で囁かれた言葉に、俺は背中にピリッと衝撃が走る。


 “デート”。俺と咲良さんの間でこれまで一度も出なかった言葉だ。意識しないようにしていたわけではなく、お互いがそれをデートだと認識していなかった。


 そもそも、付き合ってもいない男女でもデートと言うのだろうか。例えば、互いに恋人が居る幼なじみが遊びに行く時もデートと言えるのか。


 その後、俺は無言で頷いて咲良さんの家を出た。それから帰宅するまで俺たちの関係について考えたが、何も答えは出なかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 結局、当日になった今でも答えは出ていない。


「咲良さんはどう思ってるんだろうなぁ⋯」


 俺がそんな言葉をこぼすと、後ろから聞き覚えのある声が届く。


「音無くん、お待たせ」


 そこにはお出かけに行った時と同じように、外用に着飾っている咲良さんがいた。そう、俺たちは今日、私服で花火大会に臨む。


 定番は浴衣と甚平だろうが、この規模の花火大会で浴衣を着る人の方が稀で、気合を入れると逆に浮いてしまう⋯と由希さんに言われたからだ。


「待ってないよ。それじゃ、行こうか」


 俺は独り言が聞かれていないかとヒヤリとしながらも平静を装い、歩き出した。






「いいところ見つけたね。ここならゆっくり見れそう」


 俺と咲良さんは()()()()()()()()()()()()と、砂浜と歩道の境目にある段差に腰を下ろして、両腕を上にあげてひと伸びした。


「早めに着いたのは正解だったかもな」


 俺たちが会場に着いたのは、花火があがる三十分以上前だった。


 今から屋台で買い物をするのは早いということで、周辺の人が少ない場所を探すことにして、浜辺沿いに歩いてきた結果、今いるこの場所を見つけた。


 特に離れていなければ隠れてもいない。実際、ここから目視で屋台が並ぶのを捉えることが出来るし、ぐるりと見渡しても遮るものは見当たらない。


 しかし、数個の街灯しかなく、夜の闇で包まれているこの場所は、屋台で明るいあちらからは見ることが出来なかった。


 そんな穴場(?)を見つけた俺たちは、一旦屋台のある方へ戻り、いくつか買い物をしてこっちに戻ってきたのだった。


「始まるまで数分あるけど、少しずつ食べようか⋯咲良さん?」


 きょろきょろと周りに視線を動かす咲良さん。周りには数組しかいないが、どこか落ち着かない様子だった。


「えっ、あ、うん。食べよっか」


  挙動不審ながらこちらを向く咲良さんだったが、会話を進めていくうちにいつもの調子に戻っていったため、気にしないように努めた。




「あっ、始まるな」


 たこ焼きとポテトフライを共有してつまんでいると、開催の合図の音が鳴る。そして一発、また一発と小さめの花火が上がっていく。


 打ち上げ花火から仕掛け花火、そして二つのコンビネーションと繋がる。


「わあ、とってもキレイ⋯」


 咲良さんはポテトを掴んだまま花火に見蕩れる。結局、おわるまでの15分間、ずっと咲良さんは花火の上がっている方を見つめていた。


 花火の光に照らされた咲良さんの横顔は、辺りの暗さも相まって、大人の艶やかな美しさがあった。俺の目は自然に咲良さんに吸い寄せられ、なんとか顔を正面に戻して見る花火は、どこか物足りなかった。





「⋯くん、音無くん。終わったよ?」


 花火が終わり、そのままぼうっと虚空を眺めていた俺は、咲良さんの呼び掛けで意識を戻す。


「終わっちゃったね。⋯帰ろうか、送っていくよ」


「えっ⋯?今終わったばかりだし、もう少しゆっくりしていっても⋯」


「夜遅いからね。由希さんに心配されちゃうよ」


 俺はすぐに解散することを押し、渋々ながらに咲良さんも了承してくれる。


 このままは危ない。闇夜の中で映る咲良さんの顔は、妖艶的な魅力があり、小悪魔的とも言える表情は俺の失敗体験を彷彿とさせる。勘違いしない為にも、直接家に送っていくのが最適解だと結論付けた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「また来週、お願いします。おやすみなさい」


「それじゃ、またね。音無くん」


 咲良さんと由希さんに見送られ、俺は自宅へ向かう。最後に目が合った咲良さんの表情はどこか寂しげで、なにかと葛藤しているようだった。


(このままでいい。このままでいないと)


 俺は心の中で何度も反復し、頭に強く刻み込む。ゲシュタルト崩壊するほどに、頭痛がするほどに強く、強く。


 ーー関係を壊すのは、もう懲り懲りだ。


 三年前の失敗を繰り返さないために、もう一度自分を戒めた。




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