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トラウマ再び

ブックマーク4件目ありがとうございます!

嬉しくて明日までに書こうと思っていたものが終わってしまったので、遅くなりましたが投稿させていただきました!



 期末テストが終わり、ジメジメとした梅雨も早めに明けて、全国の学生待望の時期がやってくる。


「「夏休みだー!!!!」」


 そこかしこで盛り上がりを見せるクラスメイト。そう、今日は一学期の最終日。つまり明日から夏休みがやってくる。


 部活の大会に注力する人、青春を謳歌する人、海や花火などの風物詩を楽しむ人、補習で前半が潰れた人など、それぞれが喜びや悲しみを顔に表している。


 帰宅部でインドアな俺と咲良さんは相変わらずのテンションで、湧いた教室を眺めていた。


「みんな元気だねー」


「夏休みだもんな」


「音無くんはなにか予定ある?」


「特に。早めに課題終わらせて後半はのんびりしてる」


「じ、じゃあ⋯」


 他愛のない会話を続けていると、咲良さんが不自然に会話を切って、スマホを操作する。間もなくして、俺のスマホに通知が届く。


『よければ、また遊びにきませんか?』


 声に出すのが難しかったのか、ラインで遊びに誘われる。


『もちろんいいよ。いつにしようか』


『えっと、今日⋯この後はダメですか?』


 想定外の返事にリアルの咲良さんに顔を向ける。スマホを壁にして表情は見えなかったが、咲良さんも顔が赤くなっている。


『いい⋯けど。宮前さんか高良さんは?』


『二人とも部活だから、二人だけかな』


 俺は返事を躊躇った。前回は二人がいたから会話が続いたし、二人がいたから咲良さんものびのびと話せていたが、今回はいないという。


 しかし、咲良さんがトラウマに立ち向かおうとしている最中、断るのも心が痛く、選択肢は初めから決まっていた。


『わかった』


『ありがとう!じゃあ、家まで一緒に行こ!』


 一度アクセルを踏むと歯止めが効かなくなる咲良さんはご健在なようで、今回も例に漏れず次々と挑戦する。


『オッケー。先に校門で待ってるよ』


『⋯それなんだけど、教室から一緒に行ってくれないかな⋯。理由は言いにくいんだけど⋯』


 咲良さんの表情を見ると、困ったかのように眉間を寄せていた。それを見た俺は詮索することなく静かに頷いた。




「みんな全力で楽しんで、二学期全員元気な状態で揃ってください!」


 担任の先生の長々しい⋯もといありがたいお話が終わり、一学期の全ての課程が修了した。


「飯食いにいこーぜ!」「なにして遊ぶ?」「先輩海行きましょーよ!」


 HRが終わり、カバンを置いてトイレに向かうと、いつもの何倍もの人が廊下で立ち話をしていた。中には先輩もいるようで、トイレ間を往復するだけでも精神的に疲労した。


 トイレから帰り、教室の前のドアから中に入ると、教室の後方に人だかりができていた。


 男子ばかり残っている教室の中で特に人が多いその場所は、咲良さんの席だった。


 それを見て危機を感じた俺は急ぎ足で近づきつつ、今の状況を把握する。宮前さんや高良さんは教室にはいない。動けるのは俺だけだった。


「ライン教えてよー」「カラオケとか行かない?」「ご飯だけでもさー」


 名札の色を確認すると、どうやら一つ上の先輩のようだった。三人の先輩に二人の同級生。恐らく咲良さんの()()()()()()()()()()で、お近付きになろうとしているのだろう。


「すみません。この子は俺と帰るので」


 俺は咲良さんの隣に立ち、自分よりガタイのいい五人に対峙する。震えた手は机を握ることで隠し、精一杯の強がりを見せた。


「なんだ彼氏持ちかー。ごめんな、取る気とかはないんだ」


 逆上されるかと身構えたが、想像に反してあっさりと退いてくれた。俺は安心して、机を握った手を緩める。


「咲良さん、だいじょ⋯」


 ここまで固まっていた咲良さんに目をやると、咲良さんは下を向いたまま震えていて、俺の裾をギュッと握っていた。


「遅くなってごめん。そのままでいいから、とりあえず学校を出ようか」


 咲良さんは小さく頷く。ほんの衝撃で壊れそうなほど弱々しい咲良さんになるべく負担がかからないように、人気(ひとけ)の少ない道を選んで校門から学校を出た。




「昼ごはん、どうしようか」


 咲良さんの家へ向かう途中、俺は無言を避けるように質問した。しかし、咲良さんから返事は返ってこない。


 さっきの先輩たちは、悪い人ではなかった。すぐに引き下がってくれたし、威圧的な命令口調でもなかった。()()ラインを知りたかっただけ、()()遊びに誘いたかっただけだった。


「家に用意してある?」


 咲良さんは首を横に振る。


「コンビニ弁当にする?」


 次は首を縦に振る。俺は信号の先にあるコンビニに向かうことにした。




 コンビニで弁当を選んでいる間も、レジを済ませている間も、会計はそれぞれで済ませながらも咲良さんはずっと俺の裾を握っていた。


(恋愛強者とか漫画の主人公なら、ここで男性の方から手を握ったりハグしたりするんだろうな)


 現実は、その全てが逆効果だ。その男が原因でこんな状態になってるのに、こちらから接触を試みようものならこれまでの努力が全てパーになってしまう。


 八方塞がりな現状を目の当たりにしながらコンビニから歩き出そうとすると、一方から光を差すような通知が届いた。



『音無くん、話は聞いたよ!しーちゃんの様子はどう?』



 それは、咲良さんの状況を聞いた宮前さんからだった。




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