テスト期間
宿泊研修から少し時が経ち、連日どんよりとした曇り空が広がる6月下旬。
梅雨真っ只中で気分の上がらないクラスメイトに追い打ちをかけるかの如く、テスト期間に突入した。
テスト一週間前の今日から部活動停止となり、教室の前の方で陸上部の坂下くんが友達と嘆いている様子もうかがえる。
俺は帰宅部なので、依然として変わらない日常を過ごしていた。
「咲良さん、おはよう」
「おはよう。音無くん」
と思ったが、変わったことがいくつかある。そのひとつは、咲良さんとの挨拶だった。
宿泊研修が終わってから、咲良さんが挨拶に対して声を出して返事をしてくれるようになった。表情を変えずにうなずくだけの以前と比べれば、大きな進歩だ。
「オススメしてくれた動画、笑いすぎて親に変な目で見られたわ⋯」
「ふふっ」
進歩と言えば、最近咲良さんと普通に日常会話をすることに成功した。一度成功すると自信となり、二回目以降は順調に慣れていった。最初はぎこちない会話も、今ではスムーズにオススメの動画を教えあったりしている。
そういえば、立花さんとも仲良くなったようで、教室で会話をしているところを度々目にするようになった。
「⋯⋯くん。音無くん、聞いてる?」
俺は短期間の急成長に感慨深くなっていて、現在の咲良さんとの会話を聞きおとしてしまった。
「ごめん。えっと、なんだっけ」
「今日からテスト期間だけど、勉強どうかなって話」
「苦手科目だけしっかり押さえるかな。赤点だけ取らなければいいかなってスタンスだから」
「そうだよね⋯赤点だけは避けなきゃ⋯」
「咲良さんは心配な教科があるの?」
「現代文⋯というより、国語全般かな」
意外だった。どこか勝手なイメージで、咲良さんは全体的に高得点を取っているイメージがあったが、現実は違うらしい。
「国語は得意だから、分からないところあったらいつでも聞いてよ」
「ありがとう。ちなみに、音無くんの苦手な教科って?」
「⋯数学。公式は覚えられるけど、応用がどうしても苦手で⋯」
基礎問題はできる。公式も覚えられる。どの公式を使えばいいかもわかる。だが、大問の後半にある応用問題だけはどうしても分からなかった。これを分かる人がいることを信じられない
「数学なら私教えられると思う。中間テストで学年一桁だったから⋯」
訂正、目の前にいた。それを聞いた俺は、即座に頭を下げてお願いをする。後半の応用は配点が高いため、一つ理解するかどうかで点数が大きく上下するからだ。
「わっ、頭あげて。私も教えてもらう立場だし」
咲良さんが両手を開いてあわあわとする。色んな表情を出してくれるようになった咲良さんは、日毎に魅力的になっていく。
「じゃあ、分からない問題があったらラインで聞いてね。俺も聞くから」
「それなんだけど、私、勉強会をしてみたい」
そう提案した咲良さんは、不安と羨望の入り交じった視線でこちらを見る。
「勉強会か⋯。正直難しいかもな」
翔太はサッカー部の自主練、高良さんもバスケ部で毎日勉強会があるらしく、宮前さんも吹奏楽部で勉強会に誘われているらしい。
みんなで集まれない以上、誰かの家に集まってすることは不可能。
そして定番の図書室だが、定番すぎてこの時期になるとみんなが使い、最終下校時刻までほぼ満席になっている。
「確かにそれは厳しい⋯」
その事実を伝えると、咲良さんも頭を悩ませる。近くに図書館もないので、対面をして教え合うのはできない状況だった。
「⋯⋯通話ならどうかな」
悩んだ末に俺が出した案は、ラインの機能を用いた通話でのテスト勉強だった。
この方法なら、互いの家で話しながら勉強できる。我ながらいい案だと思い、咲良さんの様子を見ると、咲良さんも「そうしよう」と言ってくれた。
「さっそく今日からやる?さすがに急すぎるかな」
「今日からで大丈夫だよ。モチベーションが高いうちにやらないとね」
咲良さんはうきうきと身体を揺らしている。
「了解。全部済ませたらラインするよ」
「わかった。私もできるようになったらラインするね」
そう約束を交わし、今日の始まりを告げるチャイムが鳴った。
表に出さずとも勉強会を楽しみにしている俺は、その日の授業がとても長く感じた。
苦手と思っているものの中には、一度体験してみたら平気に感じることってありますよね。僕的にはアスレチックのジップラインがそうだったりします⋯。




