拳マン第2部 11話
ウケ「か、かみださ..ま」
爆弾の魔物とブラッドがこの国から離れた直後の場面。別の地獄が始まっていた。
受付の首根を掴んでいる神田が映し出される。
神田「...」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
神田王国の門の目の前に佇んでいる1人の影。
神田「来てしまったか。あいつが言うには合図を送る時に来いとか言ってたが」
ドォォォォォォン!
先程の爆発音が響き渡る。
神田「これは合図って事で..いいんだよな?」
スタスタと爆発音がした先に行く。
激しく爆発した割には、焦げ跡が少し散乱しているだけで、辺りの被害がそこまで出てはいなかった。
神田「音がした割に規模が見合ってないな..チッ、あの野郎、騙したな」
眉間に皺を寄せ、舌打ちをして、明らかにイライラを抱えている。ブラッドに信頼を置いていない事が見て分かる。
神田「なんであいつがいねぇんだよ!俺をバカにするのもいい加減にしろよ!」
「か、神田様..?」
背後から声がした、神田は聞いた覚えのある声だ。
神田「う..受付ちゃん...」
ゆっくりと振り向く。
ウケ「神田様..神田様なんですよね?身体が...」
神田「..」
ウケ「神田様..逢いたかったです..」
理性が飛んだの如く、スタスタと神田に駆け寄る。その瞳は潤んでいて、涙が零れそうなほどだ。
神田「ッッッ」
ガシッ
反射的に伸びた神田の腕が受付の首根を掴む。まるで重力が消えたかのように簡単に宙に上がる。
ウケ「カッ!?ハッ..か、かみださ..ま?」
神田「...殺月がいない今..こんなもの、ガラクタに過ぎない」
冷めきった声、既に愛想は尽かしていた。
片方の空いた手を手刀の形へと変える。目元目掛けて、貫くつもりだ。
ウケ「か..みぃ..さっ、ま...」
宙ずりでも必死に読み取れるか読み取れないかの声量で神田に訴える。
だが、それすらも神田には煩い雑音にしか過ぎないのだろう。
神田「チッ..もう、どうにでもなれ」
その一言に彼の中でまだあった迷いを払いきった瞬間であった。
一思いに受付を貫こうする。
フィー「『狂え』!」
神田「..あ?」
受付の首を掴んでいた手が言うことを聞かず、ブルブルと痙攣させて、受付から手を離してしまう。
フィー「オラァ!」
ドスッとそのまま神田に向かってタックルを食らわせる。わずかではあるが、着実に距離を離す。
神田「..まさか、俺に狂言が通るとはな..」
ウケ「カッ..ハァ...ハァ..フィー..ダ」
タッタッタッタッ
遅れて生憧が来て、険しい表情を浮かべ、崩れ落ちそうな受付を介抱する。
生憧「キュウミちゃん、もう大丈夫...」
ウケ「生憧さん..」
涙混じりの声で生憧の名前を呼ぶ。
受付の首にはくっきりと指の跡が見える。ついさっきまで、命を奪われかけた跡だ。
神田「..あぁ〜、よりにもよってなんでこいつらが..」
ポリポリと頭を掻きながら面倒くさそうにため息をつく。
生憧「何故、キュウミちゃんを絞めたのですか..どうしてそんな姿に..」
神田「...」
虚ろな目で生憧を見ているようで見ていない。
フィー「答えてください!」
生憧は涙目になりながら質問を繰り返し、フィーダは怒りの表情..それと他の感情が渦巻いている。
神田「君達はさ、俺が帰ってきてどう思った?」
問いかけだけは優しい口調だ。だが、冷たい目つきからは変わっていない。
生憧「どうって..嬉しかったですyもがっ」
横からフィーダが腕を伸ばし、慌てて生憧の口を塞ぐ。
フィー「黙れ生憧、質問に答えるな」
神田「..フィーダ君はどうだったかな?俺が帰ってきて」
フィー「お前は神田様じゃない、化け物だ」
神田「酷いなぁ、化け物?」
フィー「俺様の神田様は...あの時、俺様を助けてくれた。村に襲ってきた魔物
の群れを撃退してくれた..ヒーローだ。お前にはそんなの微塵も感じな
い」
神田「...あぁ〜、初めて出会った時か..俺が魔物を殺したって勝手に仕立て
てくれたのもフィーダ君だったね」
フィー「仕立て?..え?死体の山を作ったのは神田様じゃ..」
神田「俺じゃねぇよ、ていうかやっと今気付いたの?2年も経ってるのによくもまぁ
...」
フィー「そんな..嘘だろ」
神田「今だから言える事だけど、それをやったのは恐らく殺月だ。あの時不自然に
いなかったし」
フィー「..で、でも神田様は俺様を..俺達を!救ってくれたんじゃ..なんで
ですか!」
生憧「もがっもがが(質問に答えないんじゃなかったの?)」
口を塞がれながらも言葉発する。
神田「あんなのついでに決まってるだろ」
その瞬間、空気は冷めきった。
神田「..もういいや、話し合いはここで終わり」
シュン タッ パシッ
フィー「ぐッ!?(み、見えなかった..)」
ウケ「フィーダ!」
案外近かったとは言え、音を立てず一瞬でフィーダの首根を掴まえる。
神田「狂言は言葉を発して、やっと発動する。いくら成長したからって、声を封じ
られる状況になれば、ただの少年だな」
フィー「カ、カハッ....」
生憧「やめてください神田様!」
しがみつくように神田の手首を掴んで止めようとする。
生憧「こんなことしても何も起きませんよ..だからもうやめましょうよ?ねぇ、
神田様!神田様ってば!」
神田「ッッッ、耳障りだ!」
掴んでいた生憧の手を弾き飛ばす。
神田「アバズレが!」
ドガァ!
裏拳が生憧の頬を捉え、綺麗に放物線を描くように数mも吹っ飛ぶ。
ウケ「さ、生憧さん!?..」
神田「まずは1人と..そして」
上に持ち上げて、ググッと、フィーダを締める力をもう1段階高める。
フィー「かッ..はッ...」
ウケ「か、神田様...や、やめ...」
生憧が殴り飛ばされた光景が脳裏から消えず、助けに行くどころか、神田を直視する事すらもができない。
ただ、震える手で胸元を押さえながら祈るように呟く。
ウケ「(誰か..誰か助けて...)」
神田「これで2人目と..うん?」
視界の奥に誰かの影が見える。手には吹き矢を持ち構えていた。
エシ「フッ!」
グサッ!
掴んでいた手に矢がピンポイントに刺さる。
神田「あ、針マッサージみたいできもちぃ..あっ」
予想外の刺激に力が抜け、離してしまう。
フィー「カッハッ!..ぐ、狂え!」
喉が酸素を求めている。だが、それでも、無理にでも声を振り絞り、狂言を発動させた。
神田の手を狂わせる。
神田「クソ、手元が狂っt」
ドガァ!
制御が効かなくなった手が、そのまま神田の顔面に直撃する。空気が強ばる。
神田「ぁあ〜、痛てて..増援か?」
刺さった矢を取りながら、面倒そうに首を回す。
エシ「フッ!フッ!」
神田「2度も同じ攻撃には」
キンキンキン!
指先や手の甲で正確に矢を弾き飛ばす。
神田「引っ掛からないよ(あれぐらいなら一瞬で近付けれるな..殺るか?)」
エシ「今です!社さん!」
神田「あ?」
社「『光拳』!」
ドガドガドガドガドガドガァ!
社が接近している事に気付けず、拳の連撃が全て顔面へと叩き込まれる。
鼻血による血飛沫が霧のように散る。その血は赤黒く、禍々しさを肌が痛感するほどだ。
神田「..(考え過ぎて周りを見てなかった..)松本社ォォォ!」
社「『獣力』!」
ガシッ!
神田のパンチを真正面から、両手で掴み止める。ズズッと、後ろへ押され始める。
社「ぐぐぐ..(獣力でも押されるのか..)みんな!一旦離れて!」
神田「よそ見をする事は既にテンプレの内だ」
片方の拳が社の目線を過ぎる。
社「あやばっ」
エンシャ「撃ち方初め!」
ドドドドド!
背後から不意打ちの如く、訓練された銃声のリズムが一斉に重なった。
神田「ぐッ」
エンシャ「このまま撃ち続けろ!」
「はい!」
「相手が誰だか分からないけどいっけぇぇぇ!」
兵たちは神田王国の住民の生き残りであろう。
神田「ぐぅぅ..」
エンシャ「撃ち方止め!」
全員、撃つのをやめる。
エンシャ「..どうだ?やったか?」
神田「あ〜..面倒」
神田は掴めるだけの弾丸を片手に収めていた。
足元には弾の破片が散らばっていた。全てをはじき飛ばしたのだろう。
エンシャ「え..はっ?(ノーダメ?)」
「..ん?あれって神田様じゃ..」
「本当だわ..随分と体付きも変わってるけれど...」
「あの凛々しい顔立ちは..間違いない!神田様だ!」
ざわめきが徐々に広がる。敵として向けていた銃口が、かつては一生を捧げると誓った王の面影に、皆は次第に銃を下ろされていく。
エンシャ「おい!動くな止まれ!ちょっ..」
1度、神田を連想したら止まることはもうない。
皆は武器を放り投げて、神田の方に歩み寄る。ここまでこれば信頼や純情とかではなく、皆の縋る理由のような。
神田「..めんどくせぇ」
スッ、と構えを取る。
社「ッッッ!?皆、伏せ!」
警告は、ほんの一瞬だけ早かった。
神田「『神連銃!』」
エンシャ「ッッッッ!?」
ババババババババババババッッッッッ!!!!!
耳を裂く連続音。まるで爆発音。
指で弾かれた弾の幅は一直線ではなく扇状に広がり、空間を薙ぎ払う。
エンシャント率いた軍団の人々は一瞬にして肉片となり、地面に降り注ぐ。
神田「..大雑把だけど、これで9割強は殺れたかな?」
ウケ「みんなッ!?ァァァァァァァァ!もう嫌ァァ!」
今まで話し合い、国を発展させた仲間達の肉片が無惨に広がる。
フィー「あ..ぁあ...なんで..こうなって...」
呼吸は浅く、どこに焦点を合わせるのかも分からない。戦意は完全に消失した。
神田「..それで?何をしたかったのだ?」
エンシャ「い、いや..」
先程の惨劇を無関係だったように落ち着いた口調に底知れない恐怖を抱く。
社「私に任せてくれ」
ポンポンッとエンシャントの肩を叩く。励ましでもあり、「下がれ」という合図である。
エンシャ「旦那..」
社を巻き込みたくないのがエンシャントの本音だが、その本音すらも覆い隠してしまう程に、ただ社への安心感に縋る。
社「..神田神壱で良いのだね?」
神田「いつも通りの呼び方でいいよ、松本社さん」
社「..神田君、ようやくというかなんというか..まずはおかえり」
言葉を探り探りで絞り出して、なんとか神田に伝える。下手に刺激を与えたら何をしでかすか分かったものじゃないからだ。
神田「あぁ、ただいまです。そして俺からも一言、俺が来るまでによく持ちました
ね。この国」
皮肉ともお労しにも聞き取れる。
社「..純粋な褒め言葉として、受け取っとくよ」
神田「まぁ、俺がここで全て終わらせますがね。さっきみたいに」
社「...ここから離れる気がないのなら..私だって私なりに、君を止めて..
みせる」
弱々しく、今にも消えそうな声だった。情けなさで心が押し潰されそうだ。
それでも、戦わないとみんなが死ぬ。エンシャントやエシス..社には守らないといけない者がいるからだ。
社「..来なさい...」
神田「逆に俺からで良いのか?」
社「..男に二言は無い」
神田「ひゅ〜、痺れるな」
シュンッ、空気が靡いた。
神田の姿は既に社の目の前に位置していた。
神田「何発まで耐えれるかな?」
社「ッッッ!『光拳』!」
パシッ ドガッ!
光拳が放たれるのを完全に読まれた防御と的確かつ確実な一撃を与えた。
社「アガッ!?」
神田「あと1発かn」
エンシャ「オラァ!」
キンッ!
横合いから振り下ろされた剣を、神田は反射的に受け止めた。刃は掴まれ、抜けないようにがっしりと抱え込まれる。
社「エンシャント君!?」
神田「(さぁ、どう出る?)」
神田はこんな状況でも相手の力量を測っていた。
エンシャ「旦那から離れろォォ!」
神田「おっおぉ..」
ググッと、社から距離を離す為にそのまま押し進む。神田も予想外だったのか彼の行動に一瞬だけ、驚きが滲む。
神田「..力の押し付け合いだな。すぐに終わらせてやる」
エシ「私も忘れないで!フッ!」
パシッ
神田は咄嗟に吹き矢を掴み取る。
神田「粗末な物を..(ん?なんか違和感が...)」
腕全体が痺れる感覚に襲われる。
エシ「その吹き矢の先には、たっぷりの毒が塗った私特製の毒よ!解毒するのは困
難よ!(さっき危うく触りかけたけど..)」
神田「..なるほどね」
腕が徐々に痺れるのを理解している。それでも呼吸すらも乱れない。
こんな事態ですらも神田は焦る素振りすらも見せなかった。
エンシャ「(なんであんな冷静なんだ?気色悪ぃ..)」
エシ「エンシャント!あの腕を中心に攻撃を!」
エンシャ「あ、あぁ!(確かに攻撃は通るかも!)うぉらァァァ!」
僅かな隙すらも見逃してはならない。狙いは痺れた腕、刃を振り下ろす。
神田「..ハァ」
パシッ!
振り下ろされた刃は、おかしなことに痺れた方の腕で受け止められる。
エンシャ「はっ?」
痺れているはずの腕で止めた事実に理解が追いつかない。
神田「ハァ..つくづく..体は人間だと思い知らされるな」
ただ、ため息を付くだけだった。
エンシャ「(人間の体..なんだよな?)..クソ、離せ!」
引き抜こうとしても、刃は微動だにしない。握られている感触は生身の腕のはずなのに、まるで万力に挟まれているかのようだった。
神田「はい、次」
エンシャントには既に興味がない。攻撃を仕掛けて息の根を止めようとする。
エシ「エンシャントから離れなさい!フッ!フッ!フッ!」
有耶無耶に飛ばした吹き矢が場の空気を張り詰める。
神田「遅ッ」
パシッ
吹き矢が届くよりも早く、神田の視線はすでに軌道を捉えていた。降り掛かる吹き矢を手の内に全て収めた。矢には毒が塗られているのに、何食わぬ顔だった。
神田「フンッ」
次の瞬間、溜めもなく腕が振られる。動作は単純で、無駄がない。掴んだものを、そのまま返すだけ。
エシ「嘘..」
言葉が漏れた時には、すでに空気が切り裂き、エシスを貫く矢がすぐそこに..
社「『ビー無』!」
ビュンッ!ドォン!
光線をエシスの真横を横切り、矢を撃ち消す。
死を覚悟していたのか、エシスの力が抜け、膝から崩れ落ちる。そして生きていることをやっと理解した。
エシ「社さん..」
神田「ぉおまだ立てるか..」
社「『ビー無』!『ビー無』!」
ビュンッ ビュンッ! ガッ
二条の光線がほぼ同時に走る。狙いは正確で、逃げ場を与えない角度。神田の両手を的確に撃ち抜く。
痺れと衝撃が重なり、咄嗟に力が抜け、エンシャントの刃先を離してしまう。
神田「(高度だな..)」
エンシャ「バカが!」
大きく剣を振りかぶる。全身の力を乗せ、迷いを振り切るような構え。
だが、その動きはあまりにも分かりやすかった。
神田「(バカはどっちだ..能力を使うまでもない)」
カウンターを狙うべく次の一手を構えていた。これは能力に頼らずとも、現在の神田が持つ、研ぎ澄まされた動体視力で成せる判断力と身体能力。
エンシャ「ハァッ!」
剣を振る。
神田「(受け流してすぐに喉を刺すか)」
ピタッ
寸前に止まる。
神田「はっ?」
エンシャ「バァカ!フッ!」
ガッ!
剣を宙に向かって投げたと同時に神田の顔に思い切り頭突きをする。少なくとも数秒は頭が眩む。
神田「ッッッ..タチが悪い..」
エンシャ「ッッッ!旦那!」
社「あ、あぁ!」
タッ パシッ! スタッ
飛ばされた剣を掴み、神田の目の前に着地する。
神田「(体制を立て直さないt)」
その瞬間、片足が痺れ、跪いてしまう。これには神田も困惑してしまう。
神田「(何が起きて..ぁ)」
片足の太ももにエシスの吹き矢が刺さっていた。先程エンシャントが頭突きをしたと同時に刺したのだろう。
神田「あのクソガk」
社「『獣力』!」
シャキンッ シャキンッ!
社はまだ素人の斬撃で浅はか..だが、しっかりと神田にダメージを与える技術は持っている。
社「(エンシャント君と特訓してて良かった..)」
エンシャ「(旦那のビー無で俺の方に矢を飛ばしてくれなかったら、こんなチャンス
は生まれて来なかった!)このまま押し切れ!」
社「あぁ!(頼む、このまま死んでくれ..!)」
希望の瞳が宿る。押し切れると断定した。
そう、断定したのに..
神田「殺月、使うわ」
背に回された手。次の瞬間、引き抜かれる満月斧。その動作はあまりにも滑らかで、誰も反応が追いつかない
社「ッッッ!」
..まずいと思った瞬間には、
シャキンッ!
もう、遅かった。
社「グワァァ..アァ...」
神田は剣諸共、通り斬る。腹から内臓の一部がさらけ出され、腹から出血する血が地面を残酷に塗り潰す。
エンシャ「旦那ッ!」
社「だ、大丈夫..私の心は折れてないから..」
斬撃の瞬間、社の剣がわずかに軌道を逸らしたのだ。
完全に受け切れたわけではないが、僅かな抵抗が即死を回避した。
神田「そのガキを守る為に自分を犠牲にしたのか。抵抗なんて虚しいものなのに」
社「そりゃ..大人が子供を守るのは当然だろう..」
呼吸は荒く、胴から溢れ出る血を抑えるのに必死なのに..社は、口を開く。
社「それに..部下を守る為に...抵抗はするものだ」
神田「やっぱり、かっこいいな..でも本当に残念だ。あと1太刀で貴方の頑張り
が全部無くなっていく事に」
称賛の形をしたその言葉は、あまりにも無情だった。努力も覚悟も、この一撃で終わる、ただそれだけの事実。
満月斧を横に構える。
神田「『全能伐採』」
空気が裂ける一撃、死の空気が充満する。
ドッ
神田の顔に石が当たり、振り下ろされるはずだった攻撃が不意に止まる。
生憧「ハァ..ハァ...」
そこに立っていたのは、先程神田が叩き飛ばしたはずの生憧だった。本来なら立ち上がれる状態ではない。頭から流れる血が顔を伝い、視界すらまともに保てていないのが見て取れる。
その頭はまるでバケツから血を被ったようだ。
神田「殺り切れなかったか..」
受付「生憧さん..」
生憧「えぃ..えいっ!...」
弱々しい声がそのまま投げる石へと連動するかのようなお粗末な物だった。それでも、生憧の足は止まらない。倒れそうになりながら、一歩だけ前へ出る。
神田「..醜い..醜すぎる...そこまで俺に殺されたいか?あのまま死んだふり
でもなんでもしとけば..もしかしたら俺は気付かずにこの場から離れたかも
しれないのに..」
生憧は首を振る。
生憧「私は..まだ死にません、逃げません..少しでも皆の役に立てるなら..」
言葉は弱々しく、頬から滴る血を地面に落としながらも、その心は折れてはいなかった。
神田「役に立つ?..もう笑わせないでくれ、心が乱れる。お前のやったことは時間
稼ぎの行為だ。だが、俺に刃向かえる者はいやしないだろ..」
生憧「それでも..それでも、貴方様相手に1秒でも稼げてる..これほどまでに光栄
な事があるのでしょうか?」
フィー「生憧...」
押し殺した声が漏れてしまう。自分はとっくに戦意を喪失したのに..彼女は諦めていない。
神田「..俺も甘やかせ過ぎたな。殺るか」
斧を生憧に向ける。瞬きすればバラバラにされる、この場の皆がそう理解した。
神田「けどまぁ、恨みはないし、楽には殺してやる..ん?」
その瞬間、神田の視界の奥で『何か』が煌めいた。
周りの空気が一瞬で歪む。その異変に気付けたのは、神田だけだった。
ドガッ!
神田「ッッッ!?」
衝撃が内臓を揺さぶる。音速を超える速度で、何者かが神田の懐へ突進してきた。
青龍魔「ウォォォォォォォォ!」
神田「ッッッッ!?青龍の魔物ォォォォォ!」
シューーーーン!
彗星の如く放たれる突進に防ぐことしか出来なかった。衝撃波が鳴り響き、地面を削り取る。社達から遠い距離にまで離される。
社「..助かっ..た?み、みんな..ぐッッッ!?カハッ..」
声に安堵が混じった直後、身体が限界を迎え、皆の安否を気にする前に、膝から倒れ込んでしまう。
即死は避けれたとは言え、致命傷には変わりない傷。吐血し、命の秒数が短いと悟る。
エシ「や、社さん!」
社が死んでしまう。そう感じ取ったエシスは震える足を持ち上げ、社を治療しようとする。
エシ「止まって!早く止まって!」
必死に応急措置をする。血は止まりつつあるが、既に社は死を覚悟していた。
社「エシス君..ありがとう...でも」
エンシャ「喋らないでくれ旦那..もう終わったんだ...俺達の出番は終わった
んだ!..だから..安静にしててくれ..」
出番は終わった、この言葉は社や自分にも言い聞かせるような言葉だった。
社「..ぁあ...うん..良かった...君達が無事で..」
散った者達の死骸がそこら中に転がっている。被害の規模だけで言えば、最悪中の最悪だ。それでも、彼の1番守りたいものだけは守り切った。
生憧「安心するにはまだ早いです..もしかしたらまた戻ってくる可能性g...」
言葉の途中で、ユラユラと眩暈が起き、視界が大きく揺らめく。今にも倒れ込みそうだ。
受付「生憧さん!」
考えるよりも先に、手が伸びていた。受付がギリギリで頭を支える。
受付「うわ、血だらけ..生憧さん..」
生憧「ごめんキュウミちゃん..物凄く眠いの..少しだけ寝かして欲しい...」
そう言い、眠りにつく。それが永遠の眠りかは分からない。
フィー「..」
その沈黙は言葉に出来ない感情が蠢いている。
ザッザッと、恐怖で動けない足を無理やり引き摺るかのように歩く。
フィー「..これで本当に良かったのかよ...」
受付「...もう、嫌..」
ドォォォォォォォォン!
神田と青龍の魔物とは真逆の位置から爆発音がした。
エシ「今度は何!?」
エンシャ「爆発音..そうえば、爆弾の魔物見てなかったな...」
社「それを言うならエンジェ君も見てないな..うん?」
エシ「嘘..」
◇◇◇◇◇




