拳マン第2部 9話
松本「殺しにきた..ハハッ」
ググッ
拳「ッッッ!?痛い痛い痛い痛い痛い!?」
肩を掴んだ松本の手を全力で振り払う。掴む力強すぎやろ..
松本「俺そんな強くやってたか?」
拳「なんかお前...優しくないぞ」
ブラ「仲間割れか?」
松本「..お前は正義か悪どっちだ?」
松本は、こぶしを振り払い、ブラッドに問いかける。
ブラ「私?う〜んそうだなぁ..強いて言うなら」
タッタッタッタッ キンッ!
先程飛ばされた神田が戻って来て、松本に満月斧を翳すが、片手で止められる。
神田「状況考えて言った方がいいぞ、松本くん!」
松本「おぉ、神田さんじゃん。久しぶりッ」
ブゥン!
槍投げのように神田諸共、満月斧を投擲する。
神田「グワァァァ!?」
パシッ
ブラッドが神田の腕を掴む。
ブラ「神田よ、そう簡単に投げ返されるな。手下の株が下がるだろう」
神田「黙れ..」
ブラッドの手を振り払う。嫌悪感を露わにしている。
神田「いつお前の手下になったんだよ。俺は誰からも縛られたりなんかしない」
ブラ「まぁ、自分を持つ事は良い事だ」
松本「..(強かったかな?)」
あまり実感をしていない様子。
拳「お前..やっぱり優しくないな」
泥沼な展開の中、ブラッドが切り出す。
ブラ「今回は、お開きとしよう。お互い、消耗しあっているからね」
松本「はっ?俺はまだいけ..」
足がつったかのように跪く。
松本「あぁ?んだこれ..」
ブラ「君の心は望んでも、体は望んでいないようだね。自己管理を怠らず」
神田に指で手招きをする。
神田「あっ?なんで引き下がるんだ!」
ブラ「状況を把握しろ。私が全力を出せない中、君1人で巻き返せる状況じゃない」
神田「そんな訳ないだろ!どー考えてもあっち側が痛手を負っている!あの最強2人
を同時に殺せるチャンスなんだy..ガハァ!?」
突如、神田は悶絶をし出す。ジタバタと苦しんでいる。誰かに仕掛けられたようだ。
ブラ「自分を持つのは悪くは無い。ただ、私の言う事ぐらい聞き入れろ」
神田「...クソがァ」
結局、それを受け入れるしかなかった。
ブラッド「次に逢う時、それが最期の瞬間だ。拳マン、松本」
そう言い、ブラッドと神田は去ろうとする。
松本「ま、待て!正義か悪を...正義か悪を..」
去ろうとする歩みを止めるように問いただす。ブラッドは止まり、後ろを振り向き、口にする。
ブラ「私は、常に中立者でありたい。1つ1つの言葉に意味を持たせたい性分でね」
っと、決まり文句かのように、口々に言い、去っていく。松本が望む答えじゃなかろうが。
松本「おい!待てや!おい!..まぁ、後で殺ればいいか」
意外にも、松本は納得?したかのような言い回しだ。
拳「ハァッハァ..」
ダメージの蓄積か..息が上がらない。過呼吸になっているんだ。
松本「まずはお前からだ、こぶし」
拳「..冗談だろ?」
松本「本気なのは今まで見てきたお前が1番分かっているだろ」
拳「...なんでどいつもこいつも..」
俺を殺そうとするんだよ...
というか、もう体は動かせん。言う事を聞いてくれない。意識も遠のいてきた。
拳「俺達を無差別に殺して..何になる?」
松本「今まで殺して来た正義と悪の命が無駄になろうが関係ない。全ては2人の為に
掲げるんだ」
拳「...変わったな、松本」
松本「..目的が変わらなきゃ、何も変わりやしない『れっきーパンチ』」
松本が腕を大きく上に振り下ろす。
シュンッ
超高速で何かが松本の前を駆け抜けた。松本の視界からは俺の姿は見当たらなかった。
松本「え、どこ?」
既に、この場に残されているのは松本だけのようだ。
松本「ぁぁ..ハハッ、これ多分疲れてんだなぁ。久しい気分だ」
バタンッっと、倒れるように寝込む。そしてすぐさま寝息を立てた。
顔面はニヤけていた。満足そうな寝顔だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「..きよ」
声が聞こえる、聞こえるだけだ。意味として捉える事が難しい。視界はまだ暗闇だ..
「起きよ、拳マン」
ピクピクっと、指が地面を触れている事が分かる。そうしてその声は、意味までもが理解できる。
視界がどんどん明るくなる。網膜の1つ1つに伝達する、そんな感覚だ。
拳「..何が起きた?」
視界に映ったのは、青龍の魔物だった。
拳「お前..なんで、生きている?」
青龍魔「..まぁ座れ、切り倒しておいたから」
居座れる程度の丸太が横たわっている。こんなご丁寧に..重大な話でもする気か?
拳「..話の前に、俺はどれぐらい寝てた?」
青龍魔「夜明けまでは寝てたな」
拳「そうか..」
まだあの時の時点では、真夜中だったよな?
逆算して2時間ぐらいは意識飛んでたか。
拳「..待たせたな。話はなんだ?」
青龍は重々しい雰囲気を漂わせ、話を進める。
青龍魔「..私は死の間際、人間の頃が走馬灯のように流れる事が多々ある。時々
思うんだ、人間としての生涯、魔物としての生涯、どっちを全うすべきな
のか」
拳「...何の話?」
青龍魔「貴様に長話似合わないな。この腕を見よ」
そう言って、腕を突き立ててくる。
その腕は、人間のような細々しい腕であった。
拳「え、そこの腕って」
青龍魔「..前にも言っただろう、まだ再生が難しかった箇所だ」
拳「お前、再生出来たのか?」
青龍は黙りとした重い表情になる。覚悟を決めたかのような顔付きだ。
青龍魔「昔に、剣の魔物となるものがいただろう?」
拳「あ〜、剣ね。あれから姿を見なくなったけど、お前がその話を切り出したって
事は、お前が直々に...ってのはなんとなく予想は出来てる」
青龍魔「貴様に隠し事など通せないのは分かっておる、私はその魔物を殺した」
拳「..だろうな」
知っていても、いざ敵対すべき対象を見ると、如何せん力が湧き出る気がする。
拳「罪滅ぼしか?松本も神田さんも、こんな状況になったのも、元はと言えば全て
お前のせいだからな?」
青龍魔「認識出来るほどの殺意を向く前に、最後まで聞け」
拳「..なんだよ」
青龍魔「あの魔物が言っていた「人間の尊さ」を思い出した。それを私は聞く度、
思い出したくもない過去が脳裏に溢れ出すのだ」
拳「..って、結局何が言いたいんだよ、説明下手か?」
俺は足をゆさゆさと貧乏譲りしながら、苛立ちが加速する。
青龍魔「私の話は巻くものでは無いのだがな..まぁ、今回は特別に!手短に!
教えてやろう」
拳「はよくたばれ」
青龍魔「 ..これからは、魔物としてだけではなく、人間として...人としての
『アオシス』で余生を全うしたい」
拳「はぁ..そんだけか..うん?お前人間だったん?」
青龍魔「..言ってなかったか?」
え、魔物って元は全員人間なんか?
拳「いやいやいや、初めて聞いたんだが?」
青龍魔「...魔物細病を知っているか?」
拳「いや知らん。始まりの粒子なら神田さんが前言ってたけど」
青龍魔「始まりの粒子..始まりの魔物か..」
拳「始まりの魔物?」
青龍魔「魔物細病は、元は始まりの粒子と負のエネルギーが合体して、魔物が生まれ
る。恐らく、それがウイルスのように蔓延して、人に感染する、って言った
所だろう。まぁ、私のように感染する者は滅多に無いから、無知な者も存在
しているのもやむを得ない」
長々と魔物細病?の説明を受けさせられている。構造は理解した。
拳「ふぅ〜ん、なるそゆ。魔物細病は良いけど、始まりの魔物ってなんだよ。明らか
に全ての始まりみたいじゃん」
青龍魔「詮索はあまりしない方が良い。あの魔物は私が殺した。これ以上は何も言わ
ないでくれ」
青龍は何故かそれだけ強く釘を刺すように言ってくる。思い出したくない過去とかあんのか?
拳「わかったわかった、そんなにお前の過去とか興味ねぇし。それだけ聞けて俺は満
足だ」
青龍魔「言い方よ..」
拳「それより、お前はこれからどの道を歩むんだ?人として生きていくんだろ?」
実際、前の話も、過去で人間といざこざがあったんだろう。こいつが人間を守るとは到底思えないんだよなぁ..
青龍魔「少し勘違いをしているな。私は人として生きるとは言っても、人間を救う
ほど、心優しい者ではない。この腕も、決意の証を示しているだけに過ぎ
ない。貴様の味方でも無いからな」
拳「まぁ、だろうな」
予想は的中だ。的を得すぎてるレベル。
青龍魔「今だから協力関係になっているだけだ。ブラッドさえ仕留めれば貴様とは
決別だ」
拳「はぁ?誰がお前と協力とかしないといけないんだよ。そっちこそ勘違いしてん
じゃねぇよカス」
口調を荒くして、自ら突き落とす発言をする。冷静に考えたら、こいつが全ての原因だし。このまま殺してもいいぐらいにイライラが募っている。
青龍魔「私が居なくて、貴様は1人で守り切れるか?いつブラッドが襲来してくるか
分からないのだぞ?」
拳「余計なお世話。急に人間っぽいとこ真似してんじゃねぇよきめぇな。俺は1人
でなんとかする」
青龍魔「死の物狂いで救った命なのに..」
拳「俺は傷の癒えが早い体質なんだよ。サポートとか要らん」
頑なに、青龍と組むことを拒否る。関わったら、負けかなって。
青龍魔「まぁ、いいだろう。その代わり、あの魔物の面倒ぐらいは見てやれ」
拳「魔物?お前以外に誰が..あっ」
目線の先には、倒れ込んで項垂れている岩の魔物の姿が映し出される。
拳「やっべ、全然気付けんかった」
青龍魔「私も今思い出した。介抱はしてやれ」
拳「お前が連れてきたんか?」
青龍魔「片手空いてたし..」
拳「ついでかよ」
青龍魔「意外と役立つかもしれないぞ?」
扱いよ..一応同族だそ?
拳「岩には嫌な思い出ねぇし、助けたるか」
青龍魔「それでは、一旦分散だな」
拳「だから組むだとか協力とかの関係にはなんねぇつってるんだろ」
青龍魔「強情だ。いつかまた会える日を」
バサバサッっと、翼を広げ、空の彼方へ飛んで行った。俺は手を振る事は愚か、青龍を見送る事もしなかった。
拳「..もう起きろよ」
ペチペチと岩をビンタする。
岩魔「..ハッ!?おいどんは何をしてt」
ペチペチペチペチ
岩魔「くぁwせdrftgyふじこlp!?」
拳「あ、起きてたわ。おは〜」
岩魔「また意識失うとこだったわ!..目覚めが悪すぎるて..」
拳「ごめんて〜」
岩魔「てかここはどこなんだ..」
岩は意識を失ってからの記憶が無いのか..
拳「お前が意識失ってからの話..聞きたいか?」
岩魔「あぁ、聞きたいとも」
拳「..おっけ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
社「..ハァ」
ここは神田王国。社は自分の部屋で、下を向き、頭を抱えさせながら、丸1週間も物事を考え込んでいた。
拳マンがいなくなった今、神田王国は、まさしく絶体絶命だ。
社「..どうすれば..」
コンコンコン
ドアからノックが3回聞こえた。
社「..はい」
緑川「失礼します」
緑川が入ってきた。社はすぐに、顔を上げ、話をする。
社「あれから、体の方はどうだい?」
緑川「えぇ、おかげさまで。あれから1週間経っていますから、元気はあります」
社「そっか、なら良かった」
話は可能が、声は掠れ、顔は疲れ切って窶れている。
緑川「..悩んでいるんですか?」
社「..すまないね、君には何回この姿を見せた事やら...」
どうやら、緑川にこの姿を目撃されている事は少なくないようだ。その為、あまり隠そうとはせず、どちらかと言えば、堂々としているようだ。
緑川「皆の前に出る時は表情の1つは変えるクセに、こうして私と話している時は、
ずっとその顔」
社「エシス君達はこの世界の住民だけど、緑川君は、本来私と同じ住民だ。だから
かな、安心感があるんだ。実家のオカンのような安心感とでも言おう」
緑川「ふ〜ん、変な人」
社「フッ..そうかもね」
軽く鼻で笑うが、また下を向いてしまう。
緑川「..拳マンは今頃何しているんでしょうかね..」
社「...」
分単位での無言の時間が続く。
社「緑川君、質問をしていいかい?」
緑川「質問..ですか?」
社「私は拳君がいない今、皆の期待に応えれているか?安全を保証出来てるか?」
緑川「..No..ですね」
社「やっぱり、そうか」
この回答も、社には想定済みか、潔く受け入れる。
緑川「ただ少し、貴方は勘違いしている」
社「..勘違い?」
これは想定外だったようだ。
緑川「数万人規模の期待を誰が応えれるのですか?無理に決まっているでしょう」
社「...」
緑川「貴方がそうやって落ち込んでいる間にも、仲間のみんなはどんどん強くなって
る。拳マンがいなくても私達でどうにでもなります。それに、貴方が指揮して
いる間は、当分安泰です」
全てを否定する訳ではなく、また、前に進めさせる1歩を踏ます。補助輪のようだ。
社「(君にどれほど助言を貰えば気が済むのだろうな)..それならまた..もう
ひと頑張り..してみようかな」
顔を上げ、この部屋から出ていこうとする。
ドアノブから手をかざそうとした瞬間。
緑川「そうだって、みんな」
その言葉を聞いたと同時に、ドアを開けた。目の前の光景は、エシス達がいた。
社「え、今の全部聞いてたの!?」
エシ「なんで..私に相談してくれなかったんですか!」
エシスは頼ってくれなかった事に怒ってくる。
社「そ、相談って程でもないから..」
エンシャ「旦那はいつもそーいうとこがあるからよぉ、いい加減飽き飽きしてるだ
わ」
エンシャントは意外にも呆れている。
エンジェ「社さん!元気出して!むぎゅ〜!」
ピタッと、社にくっ付く。
社「ッッッ..エンジェ君」
体が一瞬で温まった。ポカポカして、社はほわほわとした表情を浮かべた。
爆魔「あぁ、爆のエンジェちゃん..爆だけにするはずじゃなかったのか..」
エシ「って、誰があんたのものになったのよ!」
エンシャ「エンジェはテメェのもんじゃねぇよ!いい加減気味悪いぜ」
爆魔「はぁ..お兄様とお姉様がこんなシスコンだなんて..胸が痛い」
エンシャ「あぁ?おいごら一旦表出ろやァ」
エシ「半年は薬漬けにしてあげようかしら?かしらかしら?」
爆魔「ちょ、こんなとこで戦力削りたくないんだけどなぁ..」
相変わらずのやり取り。社はこの光景をいつも見ているから、からこそ、安心感も湧いてくる。
社「..」
緑川「..どうですか?気分の程は」
社「晴れたよ、雲ひとつない」
緑川「そう..なら良かった」
社「ありがとう、緑川君。よし、みんな!私の背中についてきな!」
自信満々に立ち上がり、皆を引き連れる。
エシ「はい!」
エンシャ「おう!旦那はこうでなくちゃな!」
それでも、私達は強くなって、拳君をまた引き留めてやる。何度だって、私は立ち塞がるからな。1人になんかさせるものか。
死んでいった者の為にも..松本君の為にも..
爆魔「..社のやつ、仲間がいて良かったな」
緑川「えぇ、そうね。魔物のくせに良い事言うじゃないッ」
ドガッ!
思い切り振り下ろした手のひらが、狙いを外し、爆弾の魔物の頬に直撃した。
爆魔「うわッ痛ッ..何をするんだ?」
緑川「ぇえ!?わ、私は背中を叩こうとしただけなのに..私の意思では殴って
ないよ!」
爆魔「爆の事そんなに嫌い?」
緑川「そんな!嫌いだなんて言ってないよ!」
爆魔「はぁ..だとしても顔面は無いだろォ..」
不満げに頬をさすり続ける。あからさまに疑いの目を緑川に向ける。
緑川「本当に私の意思じゃないよ!」
爆魔「...うん」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
松本「..グガ..ナーコ...ぁあ」
目に光が舞い込んだ、もう朝か。今日も相変わらず酷い頭痛だ。
松本「んぁ..ハハッ」
昨日の嬉しさがまだ残っているようだ。生きる希望がまた1つ、生まれたからな。
俺の足取りは今にもバランスを崩しそうだ。だが、よく分からんが、紙一重で耐えてる。
松本「...顔洗いたいな」
俺の命が尽きようが、この余生の間に、こぶしを殺して、グガとナーコに出会えたりすれば、後悔などない。2人が死体の状態でも構わない。俺は喜んで抱き締めて、自殺する。
1度、人生を諦めた命だ。死に際など考えてもいない。ただ、グガとナーコに会えて..こぶしを殺せれば、それでいい。
松本「確か..海とかあそこにあった気がするな」
バキッ!バキバキバキ!
向かう先が森林であろうが、お構い無しに破壊して前へ進む。
「ウ〜..」
奥から声が聞こえた。人か?
松本「..いや」
魔物の気配だ。だが、この微弱な気配、どこかで..
松本「あぁ..なんとなく思い出した」
タッタッタッタッ
突如、背後から足音が響いた。
松本「うん?」
キンッ!
すぐさま、攻撃を弾き返した。攻撃をしてくるのはわかっていた。
松本「お前、誰だっけ?」
ゲシッ!ヒューン ドシャ!
「グワァ!?グォォォォ!?..」
松本「あれ?」
小突くつもりだったけど、凄いノックバックしたぞ?ドタドタと地面を這いつくばってるし。強く蹴り過ぎた?俺そんなつもりないんだけどなぁ..
ゾン魔「...2年の間で驚くほどに変わったな、貴様。まさに別人」
松本「誰お前」
ゾン魔「..貴様に1度殺された、ゾンビの魔物だ!」




