拳マン第2部 8話
あの時に死に切れば、俺は幸せだったかな..
◇◇◇◇◇
松本「...ぁあ」
ここは、あの世か?なんか木が生い茂ってるけど。
俺は、こぶしに殴り飛ばされて、遠い彼方へ飛んで、それで...いや、もうやめよう。
ここはあの世なんだから、こぶしには会えない。何言っても無意味だ。さっさと地獄に行って罪を償お..
重い足を上げながら、地獄に行く準備を整える。つーか地獄なんてどこにあるんだ?
松本「..ていうか」
森じゃね?森すぎじゃね?
松本「...ぁあ」
俺の姿はいつも見る、黄色い、れっきースーツだった。
松本「..死ぬ事すらも、許されないのか..クソッ!」
ドォォン!
ッッッ、いけんいけん。近くの木を蹴り折ってしまっ
..バキバキバキバキバキバキ!
..はぁ?なんで奥の奥の先までの木が折れるんだ..
風圧か?ずっと思っていたが、マジでどうなってるんだこのスーツ。着るだけで今みたいに有り得んほどのパワーが出るし、こぶしに斬られた生地もいつの間にか縫われやがる..いや、再生してる?
こんなの恐怖すらも湧くレベルだ。れっきースーツ、まさに呪いだ。
脱ぐ事は出来るけど、脱いだら前の脆弱な俺に戻ってしまうかもしれない。前のようにはなりたくない。
松本「そもそも俺、何しようとしたっけ..」
色々頭が抜けてるようだ。少し頭を冷やさなきゃ..
松本「何も考えられねぇ..ッッッ!?」
目の前の光景に取り乱してしまう。
松本「あ、あれは?」
そこには破れた衣服が落ちていた。
松本「...見た事のある服だ」
スンスンッと、匂いを嗅いだ。
松本「..ッッッッ!?」
再度、次は深く匂いを数回ほど嗅いだ。俺は察した。
松本「これはグガ..これはナーコだ!まだ2人は生きてる..絶対に生きてる!」
ある程度分かった、俺を生かした理由を。
尚更、この道を進むしかない。暗い暗い、未来のない道を。
松本「ッッッッ!グガ!ナーコ!」
ドォォォォン!
衝撃波を発しながら走った。その周りにあったはずの木々は粉々に粉砕された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それからまた1週間の月日が経過した。
我を忘れる程、グガとナーコを探していたようだ。ポーションを飲んで、無理やり足を動かしている。
松本「うぅ...」
見かけたものは問いを投げかけ、俺の望む答えじゃなきゃ殺す。それの繰り返し。
松本「うッ!?」
ハッとした時には、動かしていた足を止めてしまっていた。それと同時に、空腹にも襲われた。この1週間は水と自作ポーション以外、何も摂取していなかったから。
松本「...食い物..」
視界はどこかぼんやりとしていて、自分の声すらも聞こえづらい。
松本「ポー..ション」
ポーションを生成する事が出来なかった。
松本「く..そがッ」
運も尽きたのか..まだ死ねねぇのに...グガとナーコが、まだ生きているかもしれねぇのに..
松本「運なんかに見放されてなんだって言うんだ..俺には何もいらない..グガ
とナーコ以外、何いらない!...でも」
腹が減った、やっぱり食わねば生きていけん。
ガサッ
隣で音がした。枝を折る音がした。
松本「あ?」
もしかしたら、いやもしかしなくても動物だ。食える動物だ!
松本「待て..ゴラァ!」
無我夢中に音のした先に突っ走った。
空腹のあまり、周りが見えてなかったが、動物らしきものは捉えた。
松本「飯!飯ィ!」
獲物に追いつき、見境なく、切り刻んだ。
松本「よっしゃ!久しぶりの肉...だ」
その瞬間、言葉を失った。目の前にある肉は、肉は肉でも...
松本「なんで..これなんだよォ!クソが!」
だが、俺の腹も限界地点だ。ここで食べなきゃ餓死するかもしれない。
松本「..あぁもう!」
俺は腹を括った。
松本「とりま焼かないと...」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺はその後、火起こしやら何やらして、魔物の肉を焼き終えた。
松本「...まぁ初めてにしちゃ上手に焼けたかな?..んじゃ、いただきます...」
魔物の肉を口にしt
松本「オェェェェ..」
すぐに嗚咽が襲った。完全に身が腐っており、尚且つ食感は肉なのにめちゃくちゃパサついてる。とにかく食えたものじゃない。
松本「ぁぁ..こんなの食いもんじゃねぇ...まぁ食いもんじゃねぇか」
だが、多少なりともその肉を飲み込んでしまったから..魔物の肉を食いたくて仕方ねぇ...
味はどうだろうと肉は肉。俺はまた、魔物の肉を食らった。
松本「..ウグッ..オェ...ウグ..」
嗚咽を催しながらも、魔物の肉を食らい続けた。大体3分の2は食らい尽くした。
松本「...もういいや」
口に入った肉を吐き捨てながら、食べるのをやめた。ある程度腹は満たされた。その後が怖いけど..そこはれっきースーツに頼ろう。
松本「よし..行くか」
俺はまた、グガとナーコを見つけるべく、足を運ぶ。
スタスタスタスタスタ
松本「..あれは」
数十歩歩いた先には、村があった。
松本「なんで魔物なんか食ってたんだ..」
こんなの食わずに、村からある食料を貰えば良かった..でも無駄に腹も満たされてるし、あ〜もう!ガチ腹立つんだけど..
でも、こんな事言ったってしゃーねぇ。とりま身を匿う事が最優先。状態的にも無理は出来ないし、村に行くしかない。
スタスタスタスタ
村の中に入った。来た事はない村だ。
松本「...気味が悪い」
人の気配はしない。
松本「あれは噴水か」
これはこの村のシンボルか?前の世界にもありそうなデザインだ。
松本「横に人がいる..」
俺は早速、その場に行ってみた。なんか赤いなあそこら辺...
タッタッタッ
松本「おー..い...」
言葉が失った。その人は頭が無かった。頭が吹き飛んだかのような跡が残っている。
松本「マジかよ..ッッッ..」
目の前には先程の人と同じ状態の人々が次々と横たわっていた。
周囲には血痕により赤に染まり、地獄絵図で表すほど生温くはない光景だった。
松本「な、なにが..起こって」
シクシク グスッ
赤黒く染まる血の海の奥から泣き声が聞こえる。女の子の声だ。
俺はすぐにその声まで駆け付ける。
松本「どこだ..」
ここら辺で声がしたはずだ。
目の前には小さな箱があった。
松本「まさかな..」
箱を開けたらそのまさかだった。箱の中には女の子が丸くなってカタカタと震えていた。
女の子「ぅぅ..ぅう」
彼女は萎縮したまま、ずっと下を向き俯いている。
松本「君、大丈..夫か?」
女の子「..ぅぅ..んぅ?」
女の子が顔を見上げた。
松本「ッッッ..」
俺は咄嗟に彼女の顔を手で覆った。ここら辺一体、血痕で染まっているからのだから。見せる訳には行かない。
松本「あぁ悪い!驚かすつもりはないんだ!そこだけは分かってくれ!..」
女の子「うぅ、グスッ..」
松本「うん?」
女の子「痛い..痛いよぉ...」
どうやら、周りに構うほどの余裕はこの子にはないようだ。
松本「..ちょっと腕見せて」
俺は女の子の腕を優しく掴む。
女の子「痛い!や、やめて!」
松本「ダメだ、ちゃんと見せなさい!」
女の子「...はぃ」
半ば強引に腕を伸ばさせる。酷い切り傷だ。今すぐに応急処置しても治らなさそうだ。
松本「足までも..」
足も同様に酷い切り傷だった。
松本「でもポーションなら...」
さっきは生成出来なかったけど、どうだろうか..
松本「...よし!」
今度はしっかりと生成出来たようだ。
今更だけど、多分俺のコンディション次第で生成出来るか出来ないか変わるタイプだわ。
空腹の時は、腹減り過ぎてエネルギーとかが足らなかったし、きっとそれかも。
松本「これを..」
ジョロジョロと、女の子の負傷した腕や足ににポーションを掛ける。
女の子「うッ!沁みる!...」
松本「我慢だよガ・マ・ン」
背中を摩りながら女の子に言い聞かせる。まるで親が子供を宥める図。
女の子「うぅ..あれ?痛くない..」
腕の傷がみるみると治ってゆく。ポーションの効果エグいな。
松本「これで立てるかな?」
そう言い、彼女を立たせた。
女の子「ひゃッ」
少々無理矢理立たせてしまい、バランスを崩してしまった。
松本「あ、ごめんごめん!」
すぐに手を伸ばし、抱き締める感じで支えた。
松本「ッッ..」
この構図、また思い出してしまった。
女の子「(温かい..)」
ギュッっと、俺の体が強く抱き締め、顔を埋めている。余程安心しているのだろう。
松本「...君、名前は?俺は松本だ」
エレナ「エレナ..エレナです」
松本「エレナちゃんか..おっけおっけ...」
可憐な名前だ。何かの縁を感じた。
...この子にあれを言うべきか、言うべきではないか。いや、縁を感じたからこそ、聞くんだ。
でもその前に..
松本「とりま、場所を変えようか」
シュンッ
エレナが酔わない程度にこの場から高速で離れる。
村の入口付近まで移動した。
エレナ「何が起きた..の?」
松本「大丈夫、何も起きてないから」
そう言い、エレナの頭を撫でながらエレナを解放しt
エレナ「まだ..このまま..このままで」
松本「お、おぅ。ま、まぁ寒いもん..な?うん」
...
エレナの怯えはまだ完全には止んでいない様子。カタカタと、振動が伝わってくるのを感じるほどだ。
けど、抱き締め合う行為、これに懐かしさを強く感じる。こうやって抱き締め合うのはシキ以来だ。
...シキ..
松本「..はぁ..ふぅぅ...」
エレナ「..泣いてる?大丈夫?」
震えてるのは彼女だけではない。俺も既に身も心も限界だ。
松本「うん、大丈夫、大丈夫だから...ごめんね..」
涙を濡らしながらも見栄を張るような嘘を付く。
松本「..それよりも、確認したい事がある」
エレナから離れ、面と面で話す。
松本「君は..君は、正義か悪、どっちを..信じる?」
エレナ「...」
この問いの答えが、俺の望む答えじゃなかったら..酷だけど..殺a
エレナ「どっちもエレナ嫌い」
松本「ッッッッ...」
エレナ「だって、正義は何もしてくれなかった。ママとパパは箱に入ってなさいって
言ってから、声も消えちゃった...なんで皆居なくなちゃったの?なんで
正義は守ってくれなかったの?なんで悪はエレナを生かすの?..嫌い..
大嫌い」
エレナは大粒の涙を溢れさせながら、思いを口にする。 あの時に目を覆ってても、状況を察してたのか。
松本「...エレナちゃんは、君は正義と悪を信じないんだね?」
エレナ「「信じない」じゃない、「嫌い」なの」
松本「..合格」
エレナ「え?」
初めてだ。グガとナーコ以外に、俺の望む回答をしてくれたのは。
この子は大切にしておきたい。いつか、2人に逢えた時に、友達として、紹介したい。
松本「...行く宛てが無いなら、俺と一緒に来ないk」
?「まだ生き残りがいたのかな?」
松本「...誰だ」
俺の後ろから声を掛けられた。
恐ろしい事に、声を掛けられるまで気づけなかった。この気配、こぶしを彷彿する。故に、そいつはこぶしクラス..
体中、望遠鏡で微生物を見たような血色だ。気味が悪いってもんじゃない。
?「うん?君は..」
松本「..誰だって聞いてるんだよ」
俺は心を落ち着いて、その怪物に再度問う。
エレナ「あの声は...」
松本「..エレナちゃん、隙を見て逃げろ」
そう言ってエレナを後ろに追いやる。
エレナ「ダメ!逃げて!」
エレナは俺のスーツをガッチリ掴んで怯えている。
松本「エレナちゃん..」
パァンッ!
松本「...」
理解に時間が掛かった。そして解った。
松本「...は?」
俺の体には血がこびり付いていた。エレナの首が吹っ飛んだんだ。
松本「お、おい..お、お前...何をした?」
ここで我慢を切らしたら、俺という自我が戻らなくなる。そのせいか、足が今まで以上に痙攣をしている。
?「なにって、君と僕との邪魔が入ると思っただけさ。これで話せるね」
松本「お前..どうして、平然としていられるんだ?」
?「さっきからお前お前って、そんな呼び方でするのやめて欲しいな。僕は細胞マン
っていう名前なんだから。いや、活動名だっけ?あれ?なんだか記憶が..」
活動名?さっきから何をほざいているんだ?
松本「話を逸らすんじゃねぇ!..ハァ..ハァ...」
細マン「落ち着け落ち着け、気持ちは分かる。僕は君少し世間話をしたくて」
松本「何が分かるだ!ふざけるのは体だけにしとけy」
細マン「松本サン」
松本「ッッッ..なんで、俺の名前を」
おかしい、こんな奴関わった事なんて1回も。
細マン「っを、知っている2人が君の事を話していてね」
松本「..2人?」
心があらぬ方向に揺らぎ始める。もしかして、もしかしなくても、きっとそうだ。
細マン「松本サン?なら、僕をイチコロで倒せるとかいるとか言っていてね。特徴か
らして君とそっくりで..いやぁ、心が踊るなぁ」
松本「その2人は...幼くて、護ってあげないといけない、尊い子供か?」
細マン「う〜ん、僕にそこまでの価値はその子には感じなかったかな。まぁ確かに子
供ではあるね」
松本「...その2人は何処だ?」
細マン「..さぁ?何処に行ったか、僕には見当が付かないかな」
松本「嘘つくなよ..ぉぃ」
細マン「って言われてもねぇ..本当に分からないんだy」
シュンッ
細マン「え?」
松本「死んどけ」
ドガァ! ドガァァァン!
音すらも置き去るスピードで細胞マンに近寄り、衝撃波が先に綺麗に響いた。だが、妙に感触がおかしい。まるで固定されたような..
松本「..な..んだと?」
細マン「もう少しで首が討られる所だったよ。だけど君は優しすぎた」
ビシャァ!
細胞マンに何かの液体を頭から掛けられた。
松本「なッ!?」
俺はすぐさま一定の距離を取る。
松本「なんだこの白いの..ぁぁぁ..あっ?」
なんか頭が..ぼーっと..あれ?俺...あれ?あれ?ぇっ?ぇあれ?
松本「あっ?ぁ?ぅぁぁ..ぅぅっわぁぁぁぁぁ!?」
頭が..脳髄がおかしくなる感覚だ。まるで..脳に虫がいるかのような..
細マン「『アメーバフラッシュ』、これは僕の奥義だ。こんなに早く奥義を使用す
る事になるとは..君が最初から僕を本気にさせたのが悪いんだ」
松本「あっぁあぁ..うっうぅうあッ!あ?」
何かが壊される..何かが壊れる...次に見る光景が変わるような..見方が変わるような。
..嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!..嫌..だ?
松本「あぁ..」
松本は上を見上げた。真っ暗な空を。
細マン「うん?どうしt」
シュンッ!
松本の拳が細胞マンに向けられる。
細マン「(速ッ)」
ドガァ! バァァァン!
松本の拳は細胞マンの顔面に直撃し、地面に叩き付ける。
細マン「かッ!?(僕の奥義を食らったはずだよね?なのに、なんで、さっきよりも
速く動けるんだ!?)」
松本「...」
ドガァ! ドガァ! ドガァ!
地面を優に割る一撃を何度も何度も叩き込む。
細マン「(そうか..これがが本来の君か...言わば優しさの無い、残虐な人間の
完成d」
ドガァァァァァ! ブォォォン!
強烈な一撃により、天変地異を巻き起こした。細胞マンは音を上げる暇もなく、肉片になった。
松本「...ウァァァァァァ!?」
ブチッ!ブチッ!
れっきースーツの頭部の一部を千切った。髪が露出するまで剥げてしまった。
松本「ぁあ..グガ..ナーコ」
スタッ スタスタ スタタ スタッタッ
今にも転倒しそうな、理性の無い歩きを晒し上げる。
まるで亡者を彷彿とさせる動きだった。




