大魔術とアカシックレコード
いよいよ三章に突入です。
いや、ルーナちゃん強すぎですね。
ギルドの入り口に立ち、作戦を練る。
それは俺の仕事だった。
「まず俺達はイランテン王国の大体西側から、入国した。つまり北門までそう遠くはない。城もここから北西に建っている。北からは城を攻めやすいんだろう」
「それはわかってるよ。そんで、どうやってお姫様を救って千人もの兵士をとっちめる?」
指をパキパキと鳴らしている。
きっと妃一人でも、時間はかかるがなんとかできるのだ。
でも今は俺を入れて、四人も戦力がいる。
しかも俺以外の二人は、妃に戦闘力で一歩も引けをとらないだろう。
さて、どう配置する。
俺は逃げ去っているお姫様を追いかける自信がない。
だとしたら、兵隊たちを門の上から狙撃する足止めくらいが妥当だろう。
「私が……ヘルミ王女を助けます。女の子が攫われているなら、可愛そうですから」
一番先に名乗りをあげたのは梓紗だった。
確かに<鳳凰>の力を使えるのなら、上空からの追跡は容易だろう。
「だったら、蓮夜が連れ添ってあげなよ。<鳳凰>を顕現してる間は、他の能力が使えなんだよね?」
「そう……です。蓮夜さんが居てくれると、助かります」
言われてみればそうだ。
そういえば全員に共通しているのは、同時に別の力を発現さていないことだ。
それが故意か、どうかはわからないが少なくても梓紗の<鳳凰>を出している間、誰かがお姫様を助けなければならない。
「なら一千の兵は我が引き受けよう、共に戦ってくれるな? 妃=マルチネス」
「おうともさ」
「ならその作戦通りに、二対二で別れよう。梓紗、悪いが乗せていってくれ」
「……」(コクコク)
「皆、幸運を祈る」
「我は死なない」
「あたしは大丈夫さ」
「私は連夜さんを守ります」
って、十三歳の女の子に守られる俺って……
いやそれも仕方ながないことだ。
能力に差がありすぎるのだから。
今回も俺は補助に徹するだけだ。
まわりの民家は、さっきまで露店を広げていたのに、忙しくそれを畳んでいた。
戦争が来ることを聞いたのだろう。
今なら、誰もこちらを気にかけないはず。
「蓮夜さん……行きますよ!」
梓紗は大きく息を吸い込んだ。
「『朱雀』!来て『鳳凰』」
大きな風を伴って、どこからか鳳の鳴き声が木霊する。
それが俺と梓紗を攫い、天へと運んだ。
ルーナと妃はすでに姿はなかった。
◇
蓮夜と梓紗はギルドの前で何かを話しているようだ。
我は我の選んだ道を征くのみだ。
「行くぞ、妃」
「あいあいさー」
軽い返事をした彼女は、すでにテレポーテーションをして姿を消していた。
我が到達速度で負けをとるわけにはいかない。
となれば選択肢は一つ。
「Curre, Hermes. Per meae! ..(駆けろ、ヘルメス。我が命により!。)」
金色の魔法陣が、即座に足元に展開されそれが風を纏う。
その甘美なる風を受けて、空高く駆ける!!
一度の跳躍で、五十メートルから百メートルの移動を行う。
重力はもはや紙一枚ほどしか自身にかからない。
ヘルメスの加護だ。
空駆けた後に順々に消えていく魔法陣。
空中着地点には、広がる魔法陣。
その跳躍はまさに神速。
これがあれば、我はどこにだって行けるのだ。
誰も阻むことのできない空駆ける魔女の姿は、村人の認識速度を越えていた。
ギルドから向かった冒険者たちも誰も到達していない。
今は巨大な門を閉ざして、防衛に徹しているようだ。
神速を持ってして、十数秒で北門とやらの上空が見える。
上から見晴らす景色は、壮大だった。
一千と言われた兵たちは、それぞれ十人単位で列をなしたものが十個。それが更に十個。
その数の人間を見ると、何かしらの儀式で使う虫のようにも思える。
「我を相手にするのに、この数……笑わせてくれる!」
我は魔女だ。
それも世界最強の。
その由来は、魔術を極め、その先へ行き、更にそれを極めた先に降り立ったから。
その先に待っていた壁は……魔法、だった。
魔法は神の領域。
世界樹を冒涜することになると言われた。
とても人に扱える品物ではない。
そもそも人間には認識できないのでは、とも。
少なくても我々の世界では。
それを、我は超えたのだ。
錬金術と占星術を組み合わせた我の魔術は、とうに魔法の粋を凌駕していた。
その時、世界樹を守る機関からの連絡が入った。
『世界を守るため、別世界へ渡ってくれ。最強の魔術師である、君しか頼めない』と。
あの世界は、我を最強と言った。
だから今、一千の兵を相手に戦を始める。
見ているが良い、この世界の神、『世界樹』よ。
我の勇敢さを!
「なんだ、先についてたのか」
「我よりも疾いものなど、存在せんよ」
兵士たちは巨大な門に攻めあぐねている様子。
「そうかい」
妃と二人で北門に向かってくる兵を一敬する。
「妃よ」
「なんだ?」
「誰も殺してはならぬぞ」
「梓紗ちゃんの願いだもんね。わかってるよ」
幾人であろうと、殺めるのは容易い。
しかし生かしたまま、戦意を喪失させるのは至難の業だ。
……我以外の魔女は、だが。
「我は詠唱に入る。お主は万が一にも兵士が門を突破せぬよう、策を打ってくれ」
「あいよ!」
妃は低所にテレポートすると、兵士たちの中心の上空へと向かった。
魔術も使わず、よく空中を闊歩できるものだな。
そこでなんの能力かは知らぬが、空間の振動を増幅させすべての兵に向かって声を届かせ、こう言った。
『お前らの相手は、この最強の超能力者、妃=マルチネスが引き受けた。殺られたくなけりゃ、あたしを殺ってみな!」
すぐさま指揮をとるものが、射撃を指示。
長銃隊が大量の銃弾を浴びせるが、それを妃はケラケラと笑いながら防いでいる。
勝機!
北門の上に駆け、空中で駐在する。
これには門番のイランテン王国側の兵士も混乱していた。
「案ずるな、我らはお主らの味方だ。そこで見ているがいい」
脳内に七芒星の形を象った黄金の魔法陣を思い浮かべる。
その陣を裂く!
その先にあったのは、万物の書庫。
そしてそれを具現化した大型本だ。
アカシックレコードの一部を具現化しただけだ。
それが左手に収まる。
高速でページが揺れる。
「Hoc est!(これだ!)」
一枚のページがピンと、立ち上がる。
さあ、ここからが本番だ。
右手に持っていた箒を銀の魔法陣を走らせ、魔術効率の高いプラチナの杖に変換する。
この形状は、元の世界で使っていた杖剣である。
『Magnus Mago Luna-Williams praeest mihi.』
我、偉大なる大魔術師ルーナ=ウィリアムズが命ずる。
『Da illis vivum malleum sanctum in nomine diaboli.』
この生きとし生ける者たちへ、魔の名に於いて聖なる鉄槌下す。
『Ostendo, calamitas. Colligite me spiritum illum.』
示す、災いたれ。その精気を我に集め給え。
『Contra me ire non convenit.』
我に逆らうことは、理が許さぬ。
そして杖剣を抜き、左の手首に当てる。
そこから滴る血液は、魔術師である我の所有物だ。
数秒で地面に数滴落ちる。
最後の一滴が、落ちる――
――その瞬間、一千の兵の下全体に赤黒い血液が広がる。
『Exsequi.(遂行する)』
ボトリ、ボトリと、兵たちは皆、順に武器を落とした。
そのまま、白目を剥き倒れ伏していく。
その光景を嘲笑ないがら、杖剣を見る。
そこには、精気と呼ぶべき生きるために必要なエネルギーが兵たちから徴収され、集まってくるのだ。
その精気は、白い光を放ち、杖剣は振動する。
この程度のことでは、我の相棒は壊れたりしない。
「かっかっかっ! 見たかっ、我の魔術を、魔導を! これが世界の、我の理なのだっ!」
爽快な気分だった。
これほどの人数から精気を集めたことはない。
それだけのエネルギーがあれば、何でも出来る。
そう、この世界を我が物にして、すべての生ける者達を生贄にするのだ!
――否。
それは、魔術に呑まれた感情だ。
そうやって、世界を自分のモノにしようとして、自我を失い狂気と化した魔術師を幾人も見てきた。
だからこそ、我は呑まれない。
魔術に我が支配されるのではない。
我が、魔術を統べるのだ。
『魔を扱うものは、決して魔に呑まれてはならない』
この鉄則を架したのは、錬金術を最初に極めたものが残した言葉。
そう、だから我は、決してその感情に屈しない。
その心こそが、自分たらしめるのだ。
「やるじゃねえか、ルーナのやつ」
遠くで妃の声がする。
「造作もない、これで兵士共はしばらくはまともに動けまい」
精気を吸い取ったのだ、戦意など幾ばくも残っては居ないだろう。
「これで、こっちはかたがついたな。蓮夜達は上手くやってっかな~」
「では、向かうか」
「そうだな」
集めた精気は……まあ、いつか使うだろう。
再びヘルメスの加護を纏い、王女と蓮夜たちのところへ向かうのだった。
次話は今日中に更新します。
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