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恋と黒竜


 とてもじゃないけど、俺の力でどうにかできる範疇を超えていた。

 どんな重火器を使っても、あんな火力は出せない。

 黒竜は起き上がり、魔法陣とともに蒼い炎を吐く。

「(むりだむりだむりだむりだむりだむりだ!)」

 逃げたい!

 でも……この感情はなんだ。

 そうだ『恋』

 俺は恋していたんだ。

 仲間と言ってくれた、三人に。

 そんな皆の勇姿から、逃げるわけにはいかない。

 戦えなくても、援護くらいはできる!

「この距離なら、アサルトライフルだな」

 看守が用意してくれた武器を思い出す。

 正直様々な武器を分解させてくれたのは、助かった。

 あの経験があったから様々な武器を生成できる。

 右手に世界樹を、その力を感じ取る。

 すぐさま、それを空気に纏い、物質を生成する。

 ほら、アサルトライフルの完成だ。

 たしかこれは、命中精度の高いH&K416(ヘッケラー&コッホ416)だ。

 といっても、銃弾はエネルギー弾だが。

 それでも経験上、実弾と同じだけ効力を発揮してきた。

 スコープで狙いを定める。

 途中で何度か叫び声が聞こえた。

「『朱雀』!」「『白虎』!」

『我から逃げることなど、不可能だと知れ!』

 見えた!

 雷が落ちた今だ!

 トリガーに手をかける。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

パァァァン!

 黒竜の開いていた左目に着弾する。

 これで目が潰せたはず!

『あたしの全力、受け取りな!』

 その瞬間、黒竜の首が飛んだ。

 殺れたのか……?

 妃が、二人のとこへ駆け寄る。

「(俺も、少しは役に立てたかな)」

 蓮夜も三人の元へ向かうのだった。


「んで、俺達は、異世界にいるってことか」

「そうであろうな」

 ルーナは先程の紅蓮の炎で薙ぎ倒した丸太に腰を掛けている。

 その横に座っているゴスロリ少女の梓紗が言う。

「あの龍は、殺しても良かったんでしょうか……」

「あそこまで襲われておいて、よく言うよ」

「神木は見てただけじゃね―か」

 その辺りから採ってきた草を敷いて、のんびり座っている妃が図星を付いてくる。

「いや、俺だって援護射撃はしたし……」

 確かにあの状況だと、一発撃ったことくらい気づかれないかもしれない。

 でもいいと思った。

 彼女たちを守れるのだから。

「私は……気づいてましたよ? 左目に銃弾が当たっていました」

「そうなのか、なんかありがとうな」

「?」

 梓紗は何に対してのありがとうなのかわかってなかった。

 いや、単なる感想だからわかって貰う必要はないんだけど。

 しかし彼女の戦闘能力には目を見張る物があった。

 まさかこんなに可愛い少女が、二刀の刀を持ち華麗に急所を狙うことができるとは。

 途中、尋常ではない動きをしていた。

「なあ、さっきの戦いでなんか口走ってたよな。あれ、なんだったんだ?」

「あれは、四神の力を借りていたんです」

 四神といえば、青龍、白虎、朱雀、玄武だ。

 昔本で読んだことがあった。

 それぞれが東西南北を守っているのだとか。

「そういえば、なんか薄っすらと色違いの炎に包まれているように見えたな」

「それが朱雀と白虎の守護炎です。それぞれの四神には別々の力があって、朱雀は俊敏性を高めてくれて、白虎は強力な力を与えてくれます。それがあるから、私は接近戦でも有利に戦えるんです」

「それがお前の最強たる所以なんだな」

「えーっと……それは違います。私の本来の力は、精霊を扱うものなのでそれのことだと……」

 絶句した。

 あの力が、本命じゃない?

 それなのに、あの戦闘力。

 一体最強の人類ってのは、どこまで強えんだよ。

「我の使った地水火風も、本来の力ではない」

「じゃあルーナは、なにが本命なんだよ?」

「くくくっ、よく聞いてくれた。我は大魔術師! すべての魔術を司る魔女だ。そして、その中には錬金術も含まれる」

 魔女と錬金術といえば、魔女狩りで有名だが、その認識でいいのだろうか。

 それにしては、バカでかい炎の塊や一瞬で雷を呼び寄せて、単なる魔術では語りきれないだろうに。

「じゃあなにか、その辺の枝を剣に変えることもできるってか?」

「出来るぞ」

「え?」

 挑発のつもりで言ったのだが。

 本当にその辺の枝を拾ってきて、渡してみた。

「これを剣に、だな」

 すると瞳を閉じて、なにか言っている。

「Primum ramum, deinde gladium.(元は枝、その後は剣)」

 言葉を発した直後、手と枝に水平に一メートルほどの七芒星を象ったような銀色の魔法陣が出現する。

 次の瞬間、形が変わり、それは西洋の剣へと変貌を遂げた。

「これ本物だ! 重いし、刃先も整えられている」

「だから言ったではないか。剣にできると。まあ、あくまで物質変換と形状操作を与えただけだがな。しかし侮るでない、変換された物質の効果はきれることはない」

「つまり、このまま剣として使えるんだな!」

「ああ、そうだ」

 だったら、腰につけていこう。

 何かの役に立つかもしれない。

「ちなみにあたしも、さっき見せた能力だけじゃないぜ」

 妃は言った。

「へえ、じゃあ何が出来るんだよ」

「それは、その時のお楽しみってことで」

「この期に及んで、出し惜しみかよ……」

 しかしその戦闘能力は完璧だった。

 あの黒竜を簡単に押さえつけ、あまつさえテレポートなんて離れ業もやってのけたのだ。

 それしかできないと言われる方が、逆に不自然だろう。

「では、そろそろ戦略を練ろうではないか」

 ルーナの言葉で、今までの情報をまとめた。

 結局のところ、ここは同じ世界樹のある異世界で、その世界樹は生きている。

 つまりその管理をしているものから、なんとかして雫をもらってくればいいのだ。

 どうやって元の世界に帰るのかと聞いたら

「我だけができる。心配するでない」

 ルーナが育ち盛りの胸を張っていた。

 それだけ自信があるなら大丈夫なのだろう。

 そして今後どうするかを考えた結果、世界樹の近くならばそこに街があるだろうという推論がでて、そこにとりあえずは行ってみようということだった。

「なら、あたしの遠視クレヤボヤンスで街を探してみようか?」

「そんなこともできるのか?」

「侮るでない。我も行方のわからぬものを探す手法なぞ、いくらでもあるわ」

「私も……式神を飛ばせば、すぐに見つかると思います」

 それぞれが別の力を使っても、結果は全く同じことができるということか。

 なんて汎用性の高い能力たちだろう。

 俺には到底真似できることではない。

「俺の能力だと、そんなことはできないから、誰かに任せたいところだな。でも別に全員がやる必要はないだろう? 誰か一人で十分じゃないか」

「決める必要はないよ? だってもう見つけたから」

 妃が言う。

「なんだと?」

「ここから北西に十五キロって感じかな。途中、道が付いてるから歩いて行く分には迷うことはないね」

 北西に十五キロって……そんな細かくわかるのかよ!

 さすがです、妃姉さん。


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