【読み切り】婚約破棄を宣言されたら何故か大魔王まで出て来て大混乱に陥りましたが、幸せになれそうです!
背の高い男が、芝居がかった仕草で一人の令嬢に告げた。
「君との婚約を破棄する!」
突然のことに周囲が騒めく。
「何だって!?」
聞き返したのは、本人ではなく、たまたま居合わせた男だった。
「正気か?」
周囲の注目に気をよくし、男は格好つけて答える。
「当然だ。私にはもっと相応しーー」
その言葉の続きは、誰も聞いていなかった。
皆、令嬢を取り囲んで口々に婚約破棄を祝う。どさくさに紛れてデートに誘う者もいる。
「あらあら」
突如始まった喧騒に、困り顔で頬に手を当てる件の令嬢シア。
そこに助け船?が入った。
「くくく、憐れだな!シアた…さん!婚約者に捨てられた貴女を、是非とも我が貰い受けてやろうではないか全力でな!はーっはっはっは!」
雷鳴と共に現れたのは、黒色の豪華な衣装を身に纏った男だった。頭に角とか生えている。
「どなた?」
見知らぬ男に、首を傾げるシア。
「我こそは魔界の大魔王ルシフェル!特別にルーさんと呼ぶことを許すので呼んでくれ是非!」
満面の笑みでルーさんは名乗った。
周囲は伝説の存在、大魔王の来訪に大混乱だ。
「ルーさんと仰るのね」
のんびり頷くシア以外は。
パタパタ揺れる尻尾が幻視できそうな勢いで首を何度も縦に振る大魔王。
「そうだ!我はずっと貴女のことを見てきた。貴女のことなら何でも知っている!見た目に反して寝起きがよく、勉強より罠づくりが好き。星柄のパジャマがお気に入りで同じ物を10着持っている、など何でもだ!だから我と結婚してくれ!」
突然現れた大魔王は、お早ようからおやすみまで、暮らしを見つめるストーカーだった。
当然、そういった声が周囲からあがる。
しかし、
「ストーカーではない!見守りだ!」
ストーカーの例に漏れず、本人に自覚はなかった。
シアはそこには触れず
「ルーさんには婚約者ーー」
「いない!我の伴侶は生涯貴女一人だ!」
食い気味のその返事に、シアはおっとりと微笑んだ。
「では、末長くよろしくお願いいたしますね?」
予想外の反応に、ルーさんは顔を真っ赤にして固まった。
「何故!」
周囲の当然の疑問に、即断即決のシアは答える。
「だって他の方は全員、婚約者がいらっしゃるんだもの」
身も蓋もなかった。
確かに、婚約者のいる相手に手を出す奴はクズだ。
婚約者がいるのに他にちょっかい出す奴もクズだ。
「それに…愛された方が女は幸せだって言うでしょう?」
深すぎる愛には問題を感じないタイプのシアは、ふふふと嬉しそうに微笑んだ。