初めてが苦手な生体兵器が至る末路
覚悟を決めて基地施設からの通信を受領、想像通りの混乱が発生しておりこれをなだめるのに多大に時間を消費。
『……それでこれからどうするの?』
交渉役であるアイの発言に対し、最終的な行動指針に変化は起こりえないと全員への伝達を行う。
最終目標、すなわち当方が生体兵器として帰属し命令を受領できる立場への転身。
アイによる当方の身を危惧する発言を遮断し当面の目標を開示する……私が配属するにふさわしい国造りだ。
……そうだ、まともな国がないのなら一から作り上げるほかあるまい
リキの国営に助力した経験の元に熟考して出した結論。
そのために必要なものを集めることを優先事項として伝達、土地に住居に生活物資……何よりそこに住まう住人、ともに暮らす仲間だ。
『……要するに、皆で一緒に暮らせるように頑張ろうってこと?』
アイの発言に致命的な間違いがないためこれを肯定、また全会一致でこの提案に対する支持が得られる。
『……お、俺たちも、住人も一緒にいいのか?』
個体名がラトとシウであると判明した四天王の言葉を条件付きで肯定、弱気を虐げること及び能力を持つ者のサボりは厳禁。
『……つまりその国が完成した当日こそが、暴力を主軸に据える私との決着の日というわけですね。これは頑張らねばなりませんな』
チスイの言葉を条件付きで肯定、意思に変化が見られ国で暮らす要望が発生した際はその限りではないと説明。
『……そ、それでその国ができたらほ、ほのかは俺と結婚……』
リキの言葉を否定……する前にアイ及びチスイ及びギリからの叱咤が発生し意気消沈を確認。
……結婚か、いずれ考えてもいいのかもしれないが今はあいつのことしか……
先の話として思考を打ち切る、早速行動に移るため一度空軍基地への帰投を行う旨を伝達。
四天王全員より失望が発声され同行要求が発生するが各人には国営という重要課題があることを説明。
……そこの住人も住まわせる予定だからな、というかチスイまでなんだその態度は
近日中に再来することを約束し、アイとの物理的接触状態になりエネルギーフィールドを展開……する前に魔術的接触により製造した魔術的遠距離通信物資をチスイに提供。
『……これは懐かしいものを、ですが旧来の形状は指輪型だったはず……何故水晶型なのですか?』
説明は不要と判断し回答を拒絶、帰投を開始する。
『……待ってるからなーっ!! また来いよーーっ!!』
リキの言葉を受領し、高度を地上3000mに上昇し最大速度100%にての飛行移動に移行する。
帰投に掛かる予定時刻を計算の上、遠距離通信にて通達。
『……はい、御馳走を用意して待ってますっ!! ほのか様が帰ってきたらみんなで一緒に食べましょうっ!!』
敬称は不要であると伝達、飲食もまた不要であると……士気向上を考慮しこれを受領。
連絡を終了、アイによる対話要求を精神的負担の軽減のため肯定する。
『……ほのかさぁ、ちょっと吹っ切れた?』
全力での戦闘行為に高揚したことは事実、またかつての仇敵との決着に感情が高ぶったことも開示する。
『……本気で暴れてすっきりしたってこと?』
認識に違いがないことを伝達、アイから精神状態の向上に対し称賛が発せられる。
同時にアイ自身は無力さを感じた旨を開示し、当方に戦闘能力の師事を求むもこれを拒絶。
『……戦闘能力は当方とチスイによって事足りると判断、むしろアイには当方が苦手とする交渉術を磨くことを提案』
アイによる自身の手柄を疑問視する発言を否定し、頼りにしていることを伝達し称賛を行う。
アイは当方の発言にも疑問を表明し証拠として自身が望む褒美の受領を要求、これを快諾する。
『……じゃあ私にだけ、ーーのこと教えて』
一転する表情の変化と生態スキャンによる感情の解析により、またしても精巧なる誘導尋問が仕掛けられていた事実を認識……交渉役としての成長が著しいが非常に困った。
発言内容及び褒美の訂正を求めるも却下、当方に最大の危機が発生するが対抗策は不明瞭……ど、どうすればいいのだ?
『……ほのかが話せることだけでいいよ、正確じゃなくてもいいし何でもいいの……本当はほのかのことがもっとしりたいだけだから』
……ああ、そんな顔をしていうな……あいつだってそんな顔はしてないぞ
生体兵器として要求を受領した以上は果たす義務が発生、可能な範囲での発言……私には判断が付かず最初から話していくことにした。
『……あいつはな、私が成果を出したご褒美に新兵の補充を頼んでやってきた一人だった……無能だった……いくら教育しても使い物にならないと判断して直接告げた、が私に懐いて離れなかった……』
……あいつはいくら私に冷たくされても、笑っていたなぁ
『……あいつはな、私の後ろについて回っていた……施設内でも……戦場にも命令違反をしてついてきた……手柄を立てさせて論理的に処罰を回避するのが大変だった……』
……戦力の保持のためという口実、当時は本気でそう思っていた
『……あいつはな、私の世話をするのが嬉しそうだった……不要だと思ったが士気の向上のために任せた……何かを頼むと嬉しそうにした……何でもやらせてくれとお願いしてきた……受け入れるとやっぱり喜んだ……』
……あんな無邪気な笑顔を見せられたのは初めてだったから戸惑った、私は初めてに弱いようだ
『……そのうちに戦況が悪化して未熟なあいつも戦場にでることになった……未熟な兵士だが頭数ではあったから減らないように近くから離れないよう何度も伝えた……本当に離れなかったあいつは最後まで一緒に生き延びた……』
……怯えながらもどんな時も、それこそ四天王との戦闘中でも必死についてきていた
『……だからずっと隣にいると、居るのが当然だと思い込んでいた……ずっとしゃべり続けていた、声が聞けるのが当たり前だと思っていた……私の頼みは何でも聞いた、私の言葉に逆らうわけないと確信していた……』
……だから踏ん張れたのだろうか、だからあいつの意志を無神経に踏み付けたのだろうか
『…………あいつは、命令違反をした……私以外の全員と一緒に命令違反をした……私の言葉だけ聞かないで他の奴と一緒に……私がいくら話しても……いくら頼んでも……あいつはもう、頷いてくれなかった……笑ってくれなかった……』
……ああ、もしも、あの日に戻れたら、私は、あいつの言葉を、初めてだけど、受け入れられる、気がする
『……そして……だから……規定に従い……………………私は殺した』
アイの感情に異常発生するも原因はつかめず……つかめるはずない、異常が発生しているのは私のほうなのだから。
『……後で、一人になって、辛いことをしたのだと、愚かな行いだと、理解した』
言語化することで意識して、言葉にするために考えて、伝えるために思い出して、心に去来する思いを理解する。
『……多分、私はあいつのことが…………』
思考及び胸部に異常を検知……苦痛の正体が判明、締め付けられる思い、どんなに科学が進歩してもどれだけ素晴らしい魔法を使っても治療不可能な病が原因。
『……強くて自称感情が無いほのかが耐えられないわけだね……恋の病は苦しいもん』
アイは自らのことのように発言、これを訂正……する余地が見られず肯定する。
……多分あれが初めての、初めてが苦手な私は気づくのに1000年もかかってしまったがあれが私の、初恋だったのだろう。
初恋は即座に失恋へと変化、苦痛は収まらず……収まるはずもなく軽減のための対処法が求められるが生体兵器には何も思い浮かばない。
『……ほのかぁ、苦しい時は泣いていいんだよぉ……私もいっぱい泣いたら、ほのかに出会えたんだよ……』
論理的にあり得ない回答、だけれども私はその言葉に縋るように……多分やっぱり初めてだから上手くできなかったけど……沢山の涙を流した。
この瞬間に私は生体兵器では無くなったのだろう、涙を流す兵器など存在しないのだから。
これがくだらない命令に縛られて、やりたくないことをやり続けた、愚かな兵器の末路だった。
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