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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編作品

フロックス

作者: 伊勢

その場の勢いで書いてます。

拙い文ですがよろしくお願いします。








きっと、上手くいきますよ!多分、大丈夫…大丈夫です…


ゆっくりと深く息を吸い込み、緊張で高鳴る胸を押えます。そして、自ら望んだ縁談相手のその美しい瑠璃色の瞳をしっかりと見つめ意を決して私は口を開きました。


「実は…私、女性が好きなんです!」


「は…?」


美丈夫と名高い麗しの侯爵様に私は自身の秘密を暴露しました。



※※※※※※



私の名前はリリアナ・クラウド。クラウド伯爵家の長女です。今年18歳に成りまして、両親に沢山の縁談を進められ、結婚の催促を煩わしく感じる今日、この頃。


私の国では15歳に社交界デビュー。女性は20歳までには結婚し子供を産むのが普通とされています。

18歳で未だ好いた相手もおらず、結婚に乗り気でない私に両親は気が気出ない様子。

そんな両親には申し訳ないとは思うのですが…実は私、結婚する気なんて元より全くないのです。


というのも…私、異性に魅力を感じないのです。

元より家族以外の男性が苦手ということもありますが、異性よりも何故か同性の方に魅力を感じてしまうのです。

私自身、これが普通でない事くらい分かっております。


両親にはこのことは内緒にしております。こんな事伝えても理解してくれるはずがありませんから…。

知っているのは2つ上の兄と私の乳姉妹で幼なじみの私付きのメイド、ナーラだけ。

彼等はこんな私を気味悪く思う事も無く、ありのままの私を受けいれてくれました。感謝してもしきれません。

なので、次期伯爵家当主の兄は無理に結婚しなくてもいいし、いつまでも家にいて大丈夫だと言ってくれています。


ですが…そんな事、いつまでも言っていられないこと位わかっています。貴族の女として生まれたからには家の為に、他家へ嫁ぎ縁を結ぶ事はとても重要なことです。

ここまで育ててくださった家族にも悪いですし、優しい兄にそこまで迷惑もかけられません。


少し前迄は政略結婚が当たり前でしたが最近では恋愛結婚が多いこのご時世。私の両親も例に漏れず恋愛結婚で、今でもとっても仲が良いです。ですから、好きな相手と結婚すればいいと言ってくださっています。その気持ちは大変嬉しいものなのですが…残念ながらあなた方の娘は女が好きなのです…。


一応、私の国では同性婚は認められていますがそれをするのは基本的に平民のみ。貴族にもたまーーにいますが、その方達は周りから煙たがられ社交界を追い出され、その家族も立場を失う…という事はよくあります。

そこまでの覚悟を持って添い遂げてくれる相手は現状存在しませんし、そもそも私はこのことを公言していません。するつもりも、勇気もないからです。

それに、好きだからこそその相手には幸せになって欲しいのです。私では無理な事は十分に理解しておりますので、代わりに彼女を幸せにしてくれそうな方を探しさりげなく縁談を進めてあげたりといったお節介をさせて頂いております。


それで幸せになってくだされば私はそれだけで嬉しいですから。


とはいえ、今は自分のことですよね…

どうせ結婚するのならばこんな私を理解してくれる方と、もしくはそこそこ良好な関係を築ける方としたいと思うのはきっと、いえ確実に私の我侭なのでしょうね。


はぁ…しかし一体どうすれば良いのでしょう…


そんな時、ある噂を耳にしました。


若くして由緒ある侯爵家を継いだ文武両道、見目もよく我が国で一二を争うほどの美丈夫。今は宰相補佐として城で働くも、その有能さで次期宰相と呼び名の高い彼はなんと…男色家だと言います。

しかもそれはとても信憑性の高いものでして、先日行われた夜会では愛人(勿論男ですよ)と共に訪れその方に熱い視線を送り続け夜会の間はずっと、その方の腰に手を置き片時も離れなかったとか。また、部屋の隅で口付けを交わしていたとか。

彼の友人方からも彼は元より男色家であると話があり、本人もその言葉を事実だと認めているらしいのです。


彼の両親はそんな彼を認めず、早く結婚してくれと言い募っているそうですが…。


私はこの話を聞いた時、確信しました。

こんな私を理解してくれるのは同じく同性が好きな彼しかいないのでは無いかと。


私は早速、両親に彼に縁談を申し込むように話をしました。勿論、猛反対されましたが。

態々そんな男の元に嫁ごうとしなくてもいいと。

爵位は確かにあちらが上だが、領地運営は上手くいっているし自分の好きな相手のところに嫁いでくれていいのだと。

両親のその思いはとても嬉しかったです。

今まで無理に縁談を進めてこなかったのはこういうことかととても感動しました。

ですが1度でいいので彼に会いたいと無理を言うと両親は渋々ながら話を彼の家に通し、話し合いの場を設けてくださいました。あちらのご両親はこの好機を逃すものか!と言った感じです。







そして、その日を迎えました。


侯爵家の応接室で両親が話を交わす間彼はじっとこちらを伺う目を向けるだけで何も語ろうとはしませんでした


それに焦ったのか前侯爵様が彼に私を庭園に案内するように申し付け、彼は渋々といった感じで私をエスコートし侯爵家自慢の庭へ連れ出してくださりました。


「あ、の…美しい庭ですね」


「…」


何とか話しかけるも、視線もくれず彼は黙々と歩き続け東屋へと私を案内してくださりました。

そこにはいつの間にかお茶と可愛らしいお菓子が並んでいます。彼は私を椅子に座らせるとそこで漸く口を開きました。


その視線は背筋が凍るほど冷たく自然と背筋が伸びました。


「ねぇ」


「は、はいっ!」


咄嗟に返事をしましたが緊張で声が少し上ずってしまいとても恥ずかしいです。羞恥で顔を赤らめる私を彼は特に気にした様子もなく淡々と話を続けました。


「…今更、このアタシに縁談を申し込んでくる家があるとはね…何を企んでるのかしら?」


「えっ…と」


驚きました…彼は、オネェさんだったようです。

男色家とは聞いていましたが、これは初耳です…

ですが、男性が苦手な私にとっては好都合です。


普通に男性と話すより気が楽になり少しだけ方の力が抜けました。ほっと息を吐き出した私を彼…いえ彼女はどう取ったのか分かりませんがニヤニヤと嬉しそうな、私を馬鹿にしたような顔つきになりました。


「あら、なぁに?こんな話し方のアタシはやっぱり普通のご令嬢には気持ち悪いかしら?ならこの縁談はやっぱりなしに…」


「あの!」


「なによ…」


失礼を承知で彼女の言葉を遮り声を上げました。


緊張で胸がドキドキと高鳴り、胸をキュッと抑えます。

彼女に聞こえないかとても不安になるほどです。

それでも私は意を決して、彼女のその美しい瞳を見据えました。


「私、女性が好きなんです!」


「は…?」


彼女はその美しい顔を驚愕の色で染め上げました。

何を言われたのか訳が分からないと言った顔です。


「す、すみませんっ!こんな事突然言われましても意味がわかりませんよね…え、えっとですね…」


私は慌てて事の顛末を説明致しました。


「私、昔から男性が苦手と言いますか…異性に魅力を感じないのです。好きだと思うのは私と同じ女性で…私自身、これが普通じゃないことくらいわかっています。こんな私を理解してくれる人も少ないことも」


彼女はじっと何か言いたそうな顔で此方を見つめていましたが静かに私の話を聞いてくださりました。

口をけして挟むことなく、ただ只管に私の身勝手な我儘な願いを黙って聞いて下さりました。


きっと、とてもお優しい方なのでしょう…

漠然とそう思いました。


そんな彼女にこんな自分勝手な話を聞かせてしまうのが申し訳なくて、その綺麗な瞳を見続けることが出来なくなった私はいつの間にか俯いてしまっていました。


「18になり両親から結婚の催促が多くなりました。私自身家の為にも結婚はするべきだとは思うのですが…せめて、こんな私に理解ある人としたいと思ってしまいました。

そんなこと私のただの我儘だという事は十分に分かっています、ですがどうしてもこの愚かな考えを捨て切るとが出来ず…

その時、貴女の噂を聞きました。男色家の、私と同じ…あぁ、いえ私なんかと同様に扱われるなど気持ちのいいものではありませんね、本当に申し訳ありません。…あの、ですが同性がお好きという事実だけは同じです。なら、貴女なら私のこの思いを少しは分かってくださるのではと勝手ながら思ってしまったのです…」


「…そう」


「それで、なのですが…こんな事言うのは、何より貴女の大切な恋人の方にも貴女にも本当に、心底申し訳ないとは思うのですが…そもそも見知らぬ私から突然こんな申し出も甚だ図々しい話ですし大変失礼だということは勿論承知しております。気分のいい話では決してありません!

ですが、あの、お飾りでいいのです!3年、いえ1年でいいのです!私を貴女のお飾りの妻にしてくれませんか?!」


突然、興奮し叫び出した私に彼女はぽかんとした顔をされました。慌てて私は言葉をつけ加えます。


「あ…あの返事は今でなくて良いのです。恋人の方にもお話頂き、もしご納得頂ければと言う自分勝手なお話でしてっ!」


最早自分でも何を言っているのか分からないほど早口で思いの丈を彼女にぶつけました。話し方は女性とはいえ、やはり家族以外の男性は苦手で…変に緊張してしまいます。


「はいはい、わかったから少し落ち着いて頂戴な」


そう言って彼女は少し冷めてしまったお茶を勧めてくださいました。さすが侯爵家のお茶ですね、冷めていてもとても美味しいです。

私が一息付き落ち着いたのを見計らい彼女はテーブルに肘をつき手を顎に載せると私をじっと見つめてきました。少々、行儀の悪い姿勢ですが…何故か不思議と上品に感じられます。さすが、国で評判の美丈夫さんです。


「まずは…そうね、名前で呼んでも構わないかしら?」


「は、はい」


「ありがとう、えー…リリアナ嬢?確認だけれど、貴女は家族の為にも結婚はしたいのよね、自分のその想いに理解ある方と」


「はいっ!勝手ながらそれは貴女様だけだと思って…おりまして、その…はぃ」


言っていて自信がなくなりどんどん声が小さくなって言ってしまいました。


改めて、私ってなんて図々しいのでしょうね…

次期宰相と呼び名の高い、日々忙しく動き回っている彼を引き止めてこんなお話を聞かせてしまうなんて…時間の無駄ですよね。

本当に申し訳ないです…


私が勝手に落ち込んでいると、彼女はひとつに溜息を吐き出しました。


「まぁ、貴族は基本的に醜聞を嫌うしこうも公に公言して堂々としてるのはアタシくらいでしょうね。それに、貴女その想いを理解できるのも現状アタシだけでしょうね」


「…え、と。はぃ、おそらくは」


「正直、この話はアタシにとっても都合がいいのよね。

うちの両親も目を覚ませ~結婚して早く孫を〜って!アタシが誰を好きになってもいいじゃないのよ!たまたまそれが男だったってだけで全く、うるさいったらないわ!!」


随分と鬱憤が溜まっていたご様子。先程の私同様、興奮して叫び出していました。

しかしそのお気持ち、とてもよく分かります。

思わず同意の声を上げてしまいました。


「そ、そうですよね!」


するとガシッと手を捕まれキラキラしいお顔がぐっと距離を詰めてきました。


「わかる?!そうよね、わかるわよね!だって貴女も同性愛者なんですもの!」


「はいっ!」


彼女はブンブンと私の手を振りとても嬉しそうです。

そして彼女はにっこりと微笑みました。


「だから、貴女と結婚してあげても別にいいわよ」


私は思わず音を立てて席を立ち上がってしまいました。

貴族令嬢としては有り得ないくらいはしたない行為でしたがそれどころでは無いです!と言いますか、そんなもの今更です!


「ほ、本当ですか?!」


「えぇ、1年と言わず一生夫婦してあげてもいいわ。その代わり、お飾りと言えどもアタシの嫁になるつもりなら侯爵夫人として恥にならない程度にはちゃんとしてくれるのでしょう?」


「あ、当たり前です!わ、私こう見えても外では結構しっかりしているのですよ!」


彼女は途端、何言ってんのコイツみたいな残念な子を見る視線を私に向けてきました。


ほ、本当ですよっ!

今この場では、その、取り繕っても仕方ないですからこう…あれですけども。


「…」


「ほ、本当ですよ?!なのでそこは安心してください!あ、で、ですが一生は…そこまでご迷惑をお掛けする訳には行きませんっ!」


「別にアンタ1人養うくらいどうってことないわよ。

そこは安心してちょうだい。そもそも迷惑だと思ってたら最初っからこんな話受けないわよ」


彼女はクスッと苦笑をうかべました。


「そ、そうかもしれませんが…あの」


「何よ、まだ何かあるの?」


「そ、その…やはりこの場での決断は御遠慮いただきたいのです」


彼女は心底意味がわからないという顔をされました。

それはそうですよね。ですがやはり、此処で勝手に決めてしまうのは違うと思うのです。


「は?なぜ?」


「やはり1度恋人さんともお話いただいてからの方がよろしいかと…勝手に決めてしまわれるのは可哀想です。あ、いえ、私が言えたことでは無いのですが…好きな人がお飾りとはいえ妻を娶るのです。私でしたらやはり嫌です、せめて相談だけでもして欲しいと思ってしまいます…なので、あの」


このことが原因で彼女たちの関係を壊してしまうのは絶対に嫌です。好きあっている同士なら尚更、幸せになって欲しいです。…現状、私がその幸せを壊しにかかっていると思うと本当に申し訳ないのです。


「…分かった、彼にも聞いてみるわ。返事はそれからね。でも貴女、随分と優しいのねぇ…ふふ、気に入ったわ」


彼女は一瞬、その瞳をギラりと輝かしましたが私は下を向いていたので気づくことはありませんでした。


「優しく、なんてありません…ですがせっかく好きあっているのです、すれ違うことなく幸せになって欲しいです」


私には出来ない。その強さが羨ましいのです…私にはあの子を幸せには出来なかったから…だからこそ己を貫き通す強さを持った貴女には絶対に幸せになって欲しいです。


私には影でそれを見れればそれで十分ですから。



※※※



それから3日後。

彼女直々に私の家に訪れ結婚の申し込みをしてくださいました。

両親は彼の評判を知っていますので、嫌そうでしたがそもそも最初に縁談を望んだのはこちらですし今更撤回などできるはずもございません。


兄は「リリーがそれでいいなら」と、そう言葉を零しただけで特に反対はしませんでした。理解ある兄には感謝しかありません。

どうか兄は私の事は構わず義姉様とお幸せにお暮らしください。


前侯爵ご夫妻はやっと息子が正気になった!と喜び、この気を絶対に逃すかっ!と異例の速さで婚約、そして結婚を成立させてしまいました。


そんなことしなくとも、私は逃げませんよ…。


私は晴れて侯爵夫人となりました。

侯爵家の使用人の方々はとても親切で、親しみ易いです。

そもそも、ここの使用人さん達もなんと同性愛者の方が多く理解がある為今回の結婚に際しても本人たちが納得しているならばと、特に邪険に思われることもなかったのが良かったです。

まさか、同属の方々がいるとは思っても見ませんでした。

しかし、そのお陰かとても過ごしやすいです。


あ、肝心の恋人さんとの関係も私含めとても良好です。


恋人さん、改めクリス様はとても気さくでお優しい方でした。薄い白金色の美しい髪は肩まで伸び、片側でひとつに結んでいます。瞳は温かみのある琥珀色をしています。

お顔もとてもお美しく、侯爵様と並んでも遜色ない程です


クリス様も元は貴族だったそうですが、男色というそれだけの理由で家から勘当されてしまったそうです。

元々三男で、長男には既にお子様もいらっしゃった為跡取り問題にも特に問題が見られず、あっさりと親に捨てられてしまったそうです。しかしそれ幸いと、当時からお付き合いのあった侯爵様が恋人として家に堂々と置くこと出来ていますからまぁ、ある意味では幸せなことなのでしょうか?

今は侯爵様の恋人兼秘書として活躍されています。

お二人が並ぶ様はまさに絵画のようでして多くの女性の方々にとてもに人気です。


しかし、男色家と有名だった彼が突然私という妻を娶ったものですから社交界はよほど驚かれたご様子。男色を辞めたのかと思われたようですが、未だ恋人のクリス様との関係は続いていますのでどういうことかと皆様、頭を悩ませているようです。

まぁ、頭の良い方ならば私がただのお飾りの妻だということはすぐに分かることでしょう。


とは言うものの、私は侯爵夫人です。

旦那様となった彼女にこれ以上ご迷惑をおかけすることはできませんので精一杯努めさせていただく所存です!

私はお茶会や夜会でしっかりと社交をこなし、屋敷でも侯爵夫人としての采配を下し立派に務め上げました。


その姿に侯爵様はとても驚かれていたようです。


ふふ、私だってやれば出来るのですよ!

外面だけは完璧だと自負しておりますのでっ!


因みに、クリス様は初め別荘で暮らしていましたが、彼らの生活に私が無理やり割り込んでしまったのです。ですから遠慮することなく本邸でお暮らしください!と抗議したところクリス様と私、そして侯爵様の3人で暮らすことになりました。

勿論、私達は夫婦とはいえ仮ですから寝室は別です。

部屋は、仮にも夫婦という事で隣同士ではありますが…クリス様に申し訳ないです。部屋も変わりましょう!と言いましたが、それは断固として拒否されてしまいました…何故でしょう、不思議です。



彼らとの関係もよく、生活にも慣れてきた頃。

侯爵様こと、オネェ様(旦那様)が私に突然こんな事をおっしゃいました。


「ねぇ、リリー?」


「はい、オネェ様なんでしょう?」


「…せめてそこは旦那様か名前で呼んで欲しいわね」


「すみません…」


「外ではしっかりしてるのに、アタシの前だと結構ぽやぽやしてて、天然なの?このギャップは何なのかしらね、可愛いからいいけど…と、そうじゃないわ」


ナチュラルに可愛いと言われた気がします。

私は至って平凡なオネェ様と比べると地味な容姿のはずですよ?

可愛いとか絶対に有り得ません。きっと空耳でしょうね。


私は先程の発言は無視して軽く首をかしげ言葉を促します。


「?」


すると彼女はスっと目を細め、それはそれは美しいキラキラとした笑みを作りました。


「子供、作りましょうか」


…オネェ様は突然何を言い出すのでしょう。

私のオネェ様、いえ旦那様はお仕事がお忙し過ぎて頭がおかしくなってしまったのでしょうか?


私達はこれまで夫婦とはいえ体の関係を持ったことはありません。当たり前です、彼女にはクリス様という立派な恋人がいるのですから。

それに、元々男性が苦手な私は女性らしい彼女だからこそ、ここまで気楽に接することが出来ているのです。

跡取り問題についても、養子を取れば問題ないとの話でしたし…本当にどうしたというのでしょうか?大丈夫ですか?


「え…と、あの、どういうことでしょうか」


冗談ですよね?という気持ちを込めて聞いてみましたが、彼女は笑みを崩すことなくウキウキと楽しそうに語りました。


「言葉のままよ。アタシと貴女の子供が欲しいなって思ったのよ。ほら、アタシ達夫婦でしょ?そろそろいいかなって思ったのよ」


本当に、この方は何を突然言い出すのでしょう…

そもそもわ、私とオネェ様のこ、ここ子供、ですか??

いえ、確かに書類上は夫婦ですけど…あ、そうですっ!

クリス様はどうされるのですっ?!


「し、しかし…クリス様は…」


「彼の許可は特にいらないと思うけど…というか、早く作れってせっつかれたわ」


「な、何故?!ふ、普通恋人が自分以外と…その、体の関係を持つことは嫌なものでは?しかも、こ、子供など…そ、それに!跡取りは養子を、というお話でっ!あ、あと何より…男色の貴方があの、女の私と…その、嫌なものでは?」


「あぁ、それ嘘よ」


え、何が、どれが嘘です?

それとも嘘ということが嘘です?


最早、間の抜けた声しか出ません。


「ふぇ?」


「アタシ、正確には男も女もどっちも好きよ」


男性だけでなく…女性も?

あれ?どういう事です?

頭がこんがらがってきました…プスプスと煙が上がります。

そろそろ脳が思考を放棄しそうです…。


「ん、と…?」


「そもそもアタシは可愛いのや綺麗なものが好きなの。アタシのこの話し方も自分に合ってると思ってるからしてるだけで、口調はこんなでも心まで女になった覚えはないしね」


なんと、衝撃の事実です…オネェ様は心までオネェ様ではなかったようです。


「それに、アタシ貴方の事好きよ。1人の女性として愛してるわ。じゃなきゃそもそも嫁になんて貰ってないわ」


「えっ!」


「貴女は?アタシの事好きじゃないの?」


オネェ様の事を?私が好き?

いえ、勿論嫌いではありません。

どちらかと言うと好きの部類です。


しかし、恋愛的な意味でとなると…よく、分かりません。


オネェ様にはこんな私を貰って頂き感謝しています。

使用人の方々にも、義両親にも、そしてクリス様にも不思議な程にとても親切に大切に扱っていただいております。


男性ですが、オネェ様な彼女を…私は好きなのでしょうか?いえ、そもそも私は女が好きなはずで…


ですが、最近オネェ様と顔を合わせたりお話するだけでドキドキと胸が高鳴るのも事実です。その美しいお顔をずっと見つめることも、手を繋ぐこともとても恥ずかしくて、顔が勝手に熱を持ってしまいます。


名前を呼ばれると嬉しいです。

お仕事でお会いできない時は寂しいです。

恋人の、クリス様とお並びになっている所を見ると胸が苦しくなります…


これは…もしかして恋、なのでしょうか?


その事に今更ながら漸く気づいた私はサァと顔を青ざめました。

私…いつの間にかオネェ様の事が好きになってしまっていたようです。絶対ソレだけはいけない事なのにっ!

何よりクリス様に申し訳ありません!


「リー…リリー?ちょっと大丈夫?!」


「え…?」


「突然泣き出してどうしたのよ、それに顔真っ青よ?」


オネェ様は私の頬をその美しい指でそっと撫で涙を拭ってくれました。


「ないて…」


いつの間にか、私は泣いていたようです。

なんと、情けない。そしてこんな状況でも私の涙を拭ってくれたオネェ様に胸をドキドキと高鳴らせてしまっている自分がいて…


「…もう、し訳ありません」


そんな自分が嫌で、私は彼から距離を取ります。

これ以上、おそばにいる事は出来ません。

一刻も早くこの場から去り、いえ、その前にクリス様に謝罪をしてから姿を眩ませてしまいましょう。

彼らとの生活はとても楽しいものでしたが…こんな私がいていい場所では最初から無かったのです。


自分の事でいっぱいになってしまった私はその時、彼女の顔を見ることが出来ませんでした。そこにはとても傷つき悲しそうな顔をしたオネェ様がいたというのに。


「…そんなに」


ポツリと目の前から言葉が零れました。

それはいつもの自信に満ち溢れた声ではなく、とても弱々しいか細いものでした。

驚き、すぐに顔を上げ彼女の方に視線をやりましたが俯き長い前髪で隠されその顔を窺い知ることは出来ませんでした。


「そんなに、泣くほどアタシが嫌い…?」


「ち、違いますっ!」


咄嗟に否定の言葉がとび出ます。


その逆なのです!


「オネェ様の事は勿論好きですっ!こんな私を受け入れてお嫁にまで貰っていただきとても感謝しています!使用人の方もクリス様も皆様私なんかにとてもお優しくて、」


「なら、泣いたのはなぜ?」


私の言葉を遮ると空いた距離を一気に詰めて問い詰めてきました。その近さに慌てて視線を下に向けますが、顔を両手で包み込まれ無理やり視線を合わせられます。


「リリー、本当のことを言って頂戴。アタシの事どう思ってるの?好き?それとも…嫌い、かしら?」


その真剣な、けれど何処か悲しそうな瞳に見つめられ私は…自分の気持ちに嘘をつくことを、逃げる事を辞めました。


「お願い、リリー…本当の気持ちを聞かせてちょうだいよ…」


狡いです…そんな、悲しそうな表情で、声で言われたら…嘘なんてつけるわけないじゃないですか。


話したとして受けいれられるとは思っていません。

先程聞いた、愛しているとの言葉はきっと幻聴でしょう。と言うよりもやはり、私が愛し合うお二人の関係に罅を入れてしまったのでしょうね…責任を取ってここを去りましょう。

元々、そういうつもりでしたし。少し予定が早まっただけです。


その前にこの美しい私のオネェ様、いえ大事な旦那様に全て正直に話してしまおうと思いました。


「…好き、です」


ですが私の意志とは関係なくポロポロと涙がこぼれ落ちていきました。視界がぼやけて目の前の彼がどんな顔なのか見ることはかないませんでした。


「オネェ様の事、私。いつの間にか…絶対、ダメなのに、愛して、しまいました。クリス様に、も、申し訳ないです。ごめん、なさ、い。わ、私…本当に、ごめ、さい」


「リリー…」


「ごめんなさい…ごめ、なさい」


「リリー、聞いて頂戴?」


謝り続ける私に彼は優しく微笑みかけました。

そんな顔を向けられる資格なんてないのに。


「は、は…ぃ…」


何とか返事を返すも、泣きすぎて声が突っ変えてしまいます。彼はクスクスと笑いながら、私の目尻にキスを落とし涙を吸いとって下さいました。その恥ずかしい行為に途端私の顔は真っ赤に染まりました。今度は羞恥で瞳がうるみます。


「な、なな何をっ!」


「リリーが可愛いからつい、ね」


「へ?」


最早間の抜けた声しか出せません…


「リリー、さっきも言ったけどアタシも貴女のこと愛してるわ」


「あ、有り得ません!そもそもクリス様は…!」


「それもさっき言ったわね…本当はクリスとは恋人でもなんでもないのよ」


「え?」


ここに来て2度目の衝撃の事実。

クリス様と恋人でない…?そ、そんな


「そんなはずありませんっ!」


「本人が否定してるのになぜそんなこと言うのよ…」


オネェ様はスンと真顔になりました。

あれです、あの常にスンとした気の抜けるようなお顔が特徴の有名な狐さんのお顔のようです。


「で、ですがお二人の仲は明らかに普通の友人同士という感じではありませんでしたし、昔から恋人の筈で…」


なおも言い募る私にはぁ、ため息を吐くと何故かコツンと額を合わせてきました。


距離が…先ほどから距離感が何かおかしくないですかっ?!


「クリスとは元々幼なじみだったのよ。それに彼は確かに男色よ、それが理由で家を追い出されもした。それを拾って秘書にしたのはアタシ。そしたら何がどうしたのか、勝手にアタシ達が恋人同士だって噂が流れ始めただけなのよ。アタシはこれ幸いとその噂を利用して男色家として振舞ったのはご令嬢方から逃れる為よ。あの子たちしつっこくて嫌になっちゃってねぇ…」


そんなしみじみと語らなくとも…という少し離れてください。

息が顔にかかってくすぐったいです。ダメですか、そうですか…


私はとりあえず近すぎる距離を何とか無理やり無視します。

そして、たどり着いた答えは、やはりご令嬢方から逃れるのも本当はクリス様の為では?というもの。


「そ、それはやはりクリス様の事を愛しt」


「違うわよ、彼とは友人以上の感情は持ち合わせてないもの」


「し、しかし。先程男も好きと言っていたではありませんかっ!」


そうですっ!オネェ様が男色家なのは結局のところ事実なのです!


「それは本当。でも女が好きなのも事実よ。それに、クリスには別に本命の彼氏がいるのよ?」


今日は短時間のうちに色々と驚かされることが多くて…

頭がついに現実逃避を開始し始めした。


わぁ、今日もオネェ様の瞳はとってもキレイデスネー


オネェ様は私のそんな様子を気にもとめずにスラスラとクリス様について騙ります。


「その子、うちの使用人なんだけど平民でね…アタシも彼を利用させて貰ったから、アタシを隠れ蓑にして付き合ってるのよ。あ、でもほら。うちの国って一応同性婚も認められてるからそろそろ結婚でもするんじゃないかしら」


そうでした…私の国では同性婚が認められているのでした。

すっかり忘れてしまっておりました。

と、言うことは…そのお話が事実として、クリス様がご実家を出られたのはそもそも平民の彼と添い遂げるため…?

それをオネェ様は偽の恋人を演じることで2人をお守りし、それどころか寧ろ彼等の関係を応援していた、と言った感じですか?


え、ではやけにクリス様が私に好意的だったのは元々恋人ではなかったからとかそういう…?え、で、ですが…もう、わけが分かりません…


「彼等も結婚するいい機会だし、そもそもアタシが結婚した時にはこの関係も終わらせるつもりだったのよ?けど貴女、アタシ達が恋人って信じて疑わないし、お飾りの妻として一生懸命なんだもの…言うタイミング逃しちゃってねぇ」


それは、何かすみません…


「漸く落ち着いてきて、気持ち的にも余裕が出てくる時期かなぁと思って話したのだけど…大丈夫?ついていけてる?」


とりあえずその手を離して普通の距離になっていただければもっと冷静に考えることが出来ると思うのですが…

先程から顔を抑える手を掴んで押したり引いたりしているのですがビクともしません…。


渋々、私はその状態のまま返事を返します。


「な、何とか…あれ?あの、クリス様との関係はまだ納得いきませんけど…それはそれとして何故子供の話になるのです?」


「そこはそろそろ納得して欲しいのだけど…あれよ。子供作っちゃえば、貴女ずっとアタシから離れられなくなるじゃないの」


オネェ様はあっけらかんとそんなことを言い放ちました。


「え?」


「どうせそのうち出ていく予定だったんでしょ?」


…まぁ、そうです。


何故でしょうバレていたのか甚だ疑問ではありますが、元々この関係は長く続けるつもりはありませんでした。

結局、彼らの幸せを壊している状態です。それは本当に申し訳ありませんし、いつまでも私なんかに時間を使わせてしまうのも勿体ないです。一応、結婚するという義務は果たしましたのでそのうち離婚届と指輪を置いてそっと姿を消す予定でした。


その後は自由気ままに旅にでも出ようかと思っていました。令嬢らしく、護身術は習っていますし…実は変装が得意で昔からちょくちょく街に出かけてはちょっとしたお小遣い稼ぎ等やっていましたので、そこら辺はきっと大丈夫な筈です。

結構こう見えて私、貴族令嬢としては逞しいのですよ?

と、つらつらと頭の中で当たりますが実際は冷や汗を、ダラダラかいている状態です。

もはや図星をつかれ何も答えずにいる私に、オネェ様はやっぱりねという顔をしました。


「アタシ、自分が気に入ったものは手元に置いておきたい性分なの。初めて会った時に言ったでしょ?“気に入ったわ”って。その時から逃がす気なんてサラサラなかったんだから…それにアタシの事、愛してくれているのでしょう?」


オネェ様は美しいその瞳を獲物を追い詰めた肉食獣のようなギラギラとしたものに変え、舌なめずりをしています。恐ろしいまでの色気が放出されとても恥ずかしいです。視線をそらそうにも未だ、顔をがっちり掴まれている状態。逃げることはかないませんでした。


…私は、とんでもない方に捕まってしまったようです。





※※※※※※※※




あの後、クリス様には嘘をついていたことを謝られました。その数日後には意中の相手と結婚し屋敷を出た彼は今も私のオネェ様…旦那様の秘書として活躍されています。


私とオネェ様はと言うと、漸く本当の夫婦になり今では3人の子供がおります。自分でも驚きです。


オネェ様なのは本当に口調だけで…実はそこらの男性よりもとっても男らしい方だとは思いもしませんでした…はぃ。

あの後、オネェ様こと私の旦那様は出世して宰相補佐からこの国の宰相様になりました。仕事がより忙しくなり会えない日も多々ありますが…そういう日は後日、嫌になるくらいに愛を囁かれ、正直なところ精神的にも体力的にも辛いことになります。しかし、私は今とても幸せです。


愛する旦那様と可愛らしい3人の子供たちに囲まれることが出来たのですから。


結局、あの時お飾りの妻にしてくれと行動を起こした私は口調はオネェですが、とても素敵な旦那様の本当の妻になることが出来たのでした。
















お読み頂きありがとうございました!

そのうち書き直します。多分。

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