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だが、てっきり襲いかかってくるかと思っていた魔物は、先ほど倒した仲間の死体に飛び掛かった。
「なっ……!?」
俺は目の前の光景に思わず言葉を失い、目を見開く。
なんと魔物たちは、黒焦げになり死んだ仲間の死体を食い始めたのだった。
喧嘩しながら死体を貪るそれらは、ぐちゃぐちゃと生々しい咀嚼音を響かせている。
吐き気がするほどのグロテクスな光景に、俺は後ずさった。
「な、なんだよっ。…………これ」
「さあな。
……だが嫌な予感がする」
緊迫した声音のネロは、腰に巻いたホルスター(銃を入れておくケース)にある銃に手を掛ける。
共喰いしている奴らの1匹が動きを止めると、その紅い双眸が俺たちを威嚇するように睨みつけた。
なんだよ、俺たちも食おうって言うのか……?
見下ろしているはずのその瞳が恐怖に支配されている俺は、逆に見下ろされてるように感じた。
メキメキと音を立てて、姿を変え始める獣たち。
低く唸りながら激しく足を踏み鳴らし、皮膚が解けて金属の骨格があらわになる。
足の爪がさらに鋭くなり、背中に火砲が現れた。
「な、なんだよ……っ……」
もう何がなんだかわからない。
こいつらはただの魔物じゃなかったのか?
他の奴らも同様に、その異様な姿へと変貌して行く。
ただ、それぞれ背中から生えてくる武器が違う。
あるものはミサイルを、あるものはガドリング砲。
他にもビームキャノン砲なんてのもある。
周囲を見渡す時にチラリと目に入ったネロも、目を細めていた。
それは彼が恐怖を感じた時にする仕草だ。
流石のネロも状況には恐怖を感じてるんだな。
なんて、目の前に迫りくる砲弾をぼんやりと見つめながらそんなことを思った。
ーーーーその時、
「ジャンボシャボン玉!!」
「うわぁ!?」
俺たちの頭上から聞こえてくるはずのない少女の声が聞こえて来た。
その声の主が誰なのか認識する前に、俺の体は宙に浮く。
「うっ……!!」
透明な膜で覆われた球体の中で、うまくバランスの取れなくて回転してしまう。
吐き気がする。
それでもネロが無事なのか確認したくて、周囲を慌てて見渡す。
ネロは俺と同じように、ジャンボシャボン玉の中に包まれていた。
唯一異なる点は俺とは違って、ちゃんとバランスをとっている点だけ。
可能な限り見たが彼に外傷などは見当たらなかった。
………よかった、無事だったんだな。
安堵したのも束の間、すぐにまた今度は声の少女を探す。
「ミサ!?ミサなのか!?」
「ミサ……?」
ネロも俺と同じ気持ちのようで、お互いの無事を確認すると、すぐにその名前を呼んだ。
敵からの砲撃の音に負けないように。
シャボン玉は俺たちを今も続く攻撃から守ってくれている。
ゾット帝国総合学校の魔法科で習っているミサの魔法は、そっとやちょっとじゃ壊れないだろう。
「ネロ!!カイト!!」
ミサの声が聞こえて、そちらの方を向く。
ヒラリとコウモリの形をした黒いマントが、風に靡いている。
彼女はホバーボード(スケートボードのようなもの)の上に乗って飛んでいた。
「もう!二人の馬鹿!!」
俺たちの前にきたミサは、その可愛い端正な顔を怒りで真っ赤に染め上げた。
キーンと怒号が頭に響く。
敵からの銃弾の音にも負けないくらいに大きい。
彼女の頬はよく見ると涙で煌めいていた。
「あ、あたしっ、あたしっ……。
本当に……心配したんだから………っっ……」
「……ごめん」
泣きじゃくりながら途切れ途切れに言葉を紡ぐミサに申し訳なくなる。
本気で心配してくれてるんだな……。
ポツリと謝罪の言葉を漏らす。
それ以外になんと声を掛ければいいのかわからなかった。
ネロは黙ってミサを見ているだけで何も言わない。