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「でも、立ち止まったってそのまま襲われるだけじゃないのかっ…………!!」
息も切れ切れになんとか言葉を紡ぐ。
恐怖もあってか、少し責め立てるような口調になってしまった。
こちらを円で囲むように、近づいてくる魔物の様子を見ながらネロの返答を待つ。
いつどの角度から襲われても対処できるよう、彼に背中に自分のそれを隣り合わせる。
「大丈夫だ。策はある」
ネロは腕時計型の機械を弄ると、黒縁のメガネ越しに魔物の立体映像を見ていた。
「..........?」
特殊な眼鏡を通さないと見えないソレは、眼鏡を持っていない俺には見えないので、こいつが何をしているのか分からない。
俺は背中に斜めがけの鞘に収めた剣に手を掛けながら、ネロを待つ。
だが、彼から返って来た返事は俺を落胆させるものだった。
「ダメだ。
こいつらの正体がなんなのか分からなかった、悪い」
………はぁ。
思わず絶望のため息が出そうになって、口を噤む。
この状況でため息を吐きたいのはネロの方だろう。
ネロは俺がここまで無理やり付き添わせたようなもんなんだから。
先ほどから自分の中にあった彼に対しての罪悪感が胸を渦巻く。
「俺の方こそ悪かった。ここまで付き合わせちまって。
………俺が囮になる。だからお前はここから逃げろ」
ジリジリと飢えた獣がこちらに詰め寄ってくる。
俺は死ぬ覚悟でそう言った。
「……は?何を言ってるんだ、お前は。
まだ策は残ってるぞ」
「え?」
驚いた俺をよそにネロは黒いジャケットのポケットから、銀色の小さな球を二個取り出した。
後ろに手を回して、俺に手渡してくる。
なんだ?.......これ。
怪訝な顔をしながらも、得体の知れないそれを受け取る。
俺の手に渡ったことを確認するとネロは、
「水溜りに投げろっ!!!」
と普段の姿からは想像もできないような声で叫んだ。
驚いた俺は数秒遅れて、慌ててそれを水溜りに投げる。