2
俺はとっさに顔を戻して、必死に腕を振り走った。
靴が汚れるのも構わずに、水溜りを踏み荒らす。
隣からも同様の足音が聞こえてきた。
「ウォォォン!ウォォォン!」
「!?」
急に多くなった獣の叫びに驚き、周囲を見渡す。
「やはり先ほどの遠吠えで、仲間を読んだようだな」
ネロの言う通り、獣道の端からこちらを見つめる紅瞳が幾つも見える。
「マジかよ…….」
恐怖に怯えた俺からはその言葉しか出てこなかった。
奴らは腹が空いているのか、涎を垂らし鋭い牙を向けてこちらを睨みつけてくる。
苛立ったように足を踏み鳴らした獣は今にも襲いかかってきそうだ。
だが、不思議なことに襲ってこない。
それがまた不気味で、俺を恐怖に陥れていた。
「はぁはぁっ」
だんだんと息も上がってくる。足も疲労で動かなくなってくる。
「カイトッ!このまま闇雲に走り続けてもっ……はぁっ……俺たちの体力を消耗するだけだっ……」
俺の名前を呼びながら、先ほどより少し苦しそうにネロはそう言う。
「奴らはおそらくそれが狙いだ……..。
疲労して動けなくなったところを襲おうとしているんだっ………!!」
立ち止まったネロに合わせて、俺も走るのをやめた。