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学食へ行くふたり

2.


学食はカフェテリア形式で、レーンに従って進みながら好きなおかずの小鉢を取っていくと、神白のお盆はたちまち皿でいっぱいになった。


「そんなに食べるの?」レジでの支払いが終わった後、伊東が聞いた。


「取りすぎた」と、神白は言った。「まあ頑張って食べる」


「じゃ、それ半分ちょうだい」伊東はポテトの皿を指して言った。「あとその魚フライも」


「君はよく食べますね」


「最近、食べるようにしてるんだ」伊東は席のある方へ歩き出しながら言った。


「そうなの? なんで」


「健診で引っかかった。痩せすぎて」


「ええ……そんな人、初めて見た。普通は逆じゃない?」


「だってさ、ひとり暮らしだと、痩せない? 自分ひとりのためにさ、食べ物を用意する気力が湧かないんだよね」


「僕は逆に太ったよ。用意するの面倒だと、ジャンクフードばっかり食べるから」


7時台だったが、学食にはそれなりに人が出入りしていた。それに、ホール型になったその食堂は、ちょっとした講堂くらいの広さがあり、吹き抜けの高い天井と全面ガラス張りの壁のおかげで、爽やかな解放感があった。


「さすがに有名大学の学食ともなると、お洒落だね」窓に面して設置されたカウンター風の椅子に掛けながら、神白は言った。


「いや、最近はどこの大学もこんなんだよ。私大はもっと凄いよ」


「そうなの? なんだかイメージ違うなあ」


「メニューももっとお洒落ならいいんだけど」と、伊東は言った。「あと、この、皿と箸。このデザイン、昔から変わってないらしい。いかにも学食って感じじゃない?」


「どうなんだろう」


確かに、丈夫で洗いやすいということだけが最優先の、強化プラスチックの食器で、こればかりは非常に安っぽかった。

おかずの味も、可もなく不可もなくといったところだ。味が濃すぎると健康に良くないから、といった配慮があるのだろうか。だからといって明らかな薄味というわけでもない、中途半端な遠慮みたいなものが感じられた。


「次に出るのはどこだと思う?」食べ始めて少しすると、伊東はふと聞いた。


「怪獣が? うーん、君のスマホのことさえ無ければ、秋田に待機で間違いなかったはずなんだけど」


「だよな。やっぱり他の『チェイサー』たちは秋田に留まってるよな」


「そういうパターンだったからね」


一度、どこかの地域に出始めると、数日おきにその近辺で出現が繰り返される。そして、しばらく音沙汰がなくなった後、また別な地域に出現する。今までの4県ではそのパターンだった。今回の秋田での出現は約2週間ぶりで、初めての「日本海側」での出現でもあった。だから、神白もすっかり、この1週間を秋田で過ごすつもりでいたのだが。


「何か不測の事態があったのかもな」と、伊東は言った。


「不測の事態?」


「機器が壊れたとか、誰か怪我したとかさ。何らかの理由で急に本拠地に戻らなければならない理由があったのかも」


「とすると、やっぱり本拠地は宮城なんですかね」


「わからないけどな。ここではほんとに車を乗り換えただけで、実際にはもっと南へ移動したのかもしれないけど……でも、昨日行った、あのリーダーが関わってる別会社のオフィスがあそこにあったってことは、あのリーダー個人の本拠地はここらへんなんじゃないかな」


「うーん。確かに、縁もゆかりもない土地のオフィスとは関わりを持ちにくいだろうね。というか、結局あれは何の会社なんだろう」


「調べたけど、化粧品の輸入代行とかやってたよ」と、伊東は言った。「あと、サイト制作請負とか、データ収集とか入力代行とか、SNSのプロモーション用アカウントの構築とか。ちまちまと地味な感じだよ」


「よく、そんなことを調べてくるね……」


「会社情報って普通は公開されてるもの」伊東はスマホを出した。「あのリーダーの本名も、結局はこのどれかだと思うけど。……このページね」

伊東はウェブページのスクリーンショットを見せた。

「取締役の名前が公開されてるだろ。この2人か、あるいは代表者か、ってところじゃないかな」


「面白いね」と、神白は言った。


「面白い? 何が?」


「いや、伊東君が」


伊東はすごく薄く滲み出てくるような笑みを見せて、少し間を置いてから、


「もう飽きた?」

と、聞いた。


「いや別に、飽きるも何も、僕は暇を持て余すためにここにいるわけだからね。何でも構わないよ。それでこの後は動物園だっけ?」


「そう。そして水族館も」


「あんまり、1日にふたつとも見る人って居ない気がするけど。回りきれなくない?」


「だって象とかキリンとかはパスしていいだろう。イルカも違うだろうし。見なきゃいけないところは少ないと思うよ。基本的には爬虫類だけでいいはず」


「はあ……トカゲとかヘビとかですか」


「そう。まあ、腕があるからな、ヘビではなさそうだけど」


食べ終わっても、まだ8時前だった。このキャンパスから動物園は目と鼻の先なので、開園時間の直前までは、することがない。


「少し歩くよ」伊東は学食の建物を出て、駐車場を突っ切り、道路沿いの歩道を歩き始めた。


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