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キミへ世界最期の告白を!  作者: 戦告
第1章「レイとレン」
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第4話

「着いたー!ギリギリ間に合ったよー!!」

「途中からは知ってたくせに……はぁ」


 少し上がった息を整える。少女は少年に構わずどんどん先へ先へ、とりあえず、夜になる前に着くことだけを考えて本人目線では歩いていた。

 しかし、その現実は全力疾走にも等しいものであった。少年はグイグイ引っ張られ、どうにかこうにか体勢を立て直した時には全身が変に力んでしまっていて筋肉が痛かった。


「そうは言っても、着かなくて夜に道端で野宿は嫌でしょ?」

「僕は別にいつもの事だからいいけどさ……」


 少女はこつん、と少年の額を指で弾いた。

 軽いものだったため痛みはない。


「キミー。私は女の子だよ?」

「……あ、はい。嫌です。とっても」


 少年は少女の後ろから溢れ出ている何かに気圧されコクコクと人形のように頷いた。


「分かればよろしい。で、ここが私達が住んでいる場所、教会」

「教会?」

「そ。ここを管理しているのは神父様なの。神父様は教会っていう場所と食料を恵んでくださるの」

「ふ〜ん」

「だから、キミも神父様には感謝しなきゃダメだよ?」


 少年は神父様とは一体どのような人なのか皆目見当もつかなかった。

 神父、と言うからには十字架のペンダントを身につけているのだろうな、とは予想がつくのだが生憎とそれ以外に特徴として思い出せるものがなかった。


 ただ少年にとっては寝床と風呂さえあればよかったのだが。

 感謝しろと言われて感謝するのもどうかと思うが、少女のいうことはなるべく聞いておいた方がいい気がするし、何より先程の少女の背後より溢れ出るオーラを浴びたくないと何よりも本能が呼びかけているので、減るものでもないし感謝しようと誓う。


「玄関口で私のことを刷り込みしないでくれよ……」


 少女が扉を開けようと手を伸ばした時、中から一人の青年がでてきた。

 てっきりもう少し大人な、というよりは歳をとった貫禄のある人物を想像していたのだが、目前にいるこの人物は好青年に見えた。


 はっきりとした目と細い唇。

 天然パーマなのかふわりとウェーブがかかった茶髪の髪が肩ほどまで伸びている。

 優しそうな顔立ちとは裏腹に、瞳の奥に見えるのは確固たる意思のようなものだ。


「神父様!!」

「君は教徒じゃないのだから様付けは不要だというのに……」

「えへへ……あ、そうだ。はいコレ!頼まれてた食べ物とお祈りで使うやつ!」

「ただの菓子折だ。お祈りでは使わない」

「でも、いつも食べる前にお祈りしているのはどうして?」

「食べ物に、生き物に感謝するためだ。だからこそ感謝の心を忘れてはいけないんだよ。……で、隣にいるのは?」


 ここでようやく神父と目が合った。ふと、全てを見抜かれたような錯覚に陥った。ふわっと宙に浮いた気がした。


 が、しかし、それは少年に限ったことであったようで少女も、もちろん神父にも何も起こっていなかった。


 少年は気を入れ直し、それとついでにぺこりと一礼した。世界を渡り歩いてきた少年にはその時に盗み得た知識があった。

 だから、目上の人や知らない人と会った時にこれからお世話になる人は特にお辞儀をして礼儀を伝えるのも知っていた。


「神父様、この子は私が買い物をしているときに出会った子なの。一人で悲しく、辛そうに座っていたの。だから心配になって……。黙って連れてきてごめんなさい」


 思わず猫か何かなのかとツッコミを入れたくなるようなおねだりをする少女。けれど、言い方はどうあれ、少女は少年をここにいさせてもらえるように頼んでいることに間違いはない。

 少年は道行きを見守るしかなかった。


「キミはどこから来たのかな?」


 と、思ったが神父は少年に訊ねる。純粋な興味なのか、それともこの質問の有無でここで住めるのかどうなのかが決まるのか。


「……」


 迂闊なことを言えないと思うとなかなかどうして言葉が上手く発せないし、頭が働かなくって言葉がまとまらない。


「言えないのか?」

「神父様!!この子は人見知りで上手く言葉が話せないの、だから……」

「ならば君に聞こう。少年はどこから来たのかな?」

「……知らないわ。私が見たのは座っている可哀想な姿だけ」

「彼の名前は?」

「……知らな」

「ない」


 少年は少女が「知らない」というのに重ねて奪うようにしてそう言った。


 知らない、のではなく、ない、のだと。


 名前が無い。それは一体どういう事なのかと、普通の人なら問い質しただろう。

 生まれてきたのだから親がいる。親が子供を呼ぶ時に名前をつけないはずがない、と。

 だが、少年は名前が無い。それはどういう事か。


 答えは……。

 両親から付けてもらった名前を少年は捨てたのだった。

 神父は少年に話しかけることはなく、ただ静寂な時間だけが過ぎていた。

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