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キミへ世界最期の告白を!  作者: 戦告
第1章「レイとレン」
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第3話

「キミ、名前は何ていうの?」

「……知らない」


 何度目かわからないような問答。

 先程から少女は少年を呼ぶ時のための名前を聞いていた。だが、頑として少年は話そうとはしなかった。


 口では知らない、というものの、そうそう自分の名前を忘れることなどできない。 それが例え、人間が生きていける範囲外まで生きたとしても、親から貰った名前というのは案外忘れられないもので、かけがえのないものだ。

 とはいえ、少年には両親に裏切られたという過去があった。だからこそ、少年は「覚えていない」ではなく、「知らない」と答えているのだった。


「言いたくないならそれでもいいけどさ〜。この手は離さないよ?」

「……ふん」


 少年は初め、少女の後ろをついて行っていたのだが、どうしても不安が込み上げてきて逃げ出しそうになった。

 だが、逃げ出そうと一歩踏み出すその瞬間に少女がぱっと少年を捕まえるのだ。


 何度か繰り返していると、少女が「逃げ出さないように!!」と自分自身に言い聞かせているように大声で言ってから少年と手を繋いだ。


 今はその手を繋いでいる状態である。


 少年は繋がれた時、振り払うこともできずにただされるがままでいた。少年は幼くして“不老不死”になったために、他人に触れられる、ということに不慣れなのかもしれない。


「どこ……行くの?」

「私、というか私達が暮らしている場所。高いところにあるからこうして山を登っているわけ」

「何を……するの?」

「んー、生活?かな。キミはちゃんとした服を着て、料理を食べないとねー」


 あ、あとお風呂。と付け足した少女。


 少年もやはり、人間だということか。お風呂という言葉を聞いてワクワクするのを抑えられない。“不老不死”になる前は毎日入っていたお風呂だが、死なない身体になってからというもの、熱いお湯にじっくり浸かる、なんてことはしてこなかった。


「あ、ちょっと嬉しそうだね。お風呂が楽しみなの?」

「別に……そういうわけじゃ」


 全くの図星であったが、虚勢を張る。

 少女はくすくすと意味ありげに笑い、少年がお風呂を楽しみにしていることを確信した口振りで、


「大きいからねー。泳げちゃうくらい」

「お風呂が楽しみなわけじゃないし」


 そっぽを向いた少年は山の上に見えた大きな建物に目を奪われた。

 遥かに遠い山の上ではあるけれど、そこにあった建物は館のように大きく、この道を進んでいくと直感ではあるが、あそこにつくような気がしてならない。


 少女にぱっと目を向ける。

 少女は優しく頷く。


 自分はあそこにこれから向かうのだと確信した時、少年は心踊った。


 何という幸福なのだろうか。

 少女が話しかけてくれなかったら。いや、そもそも少年があの街に定住(?)していて、あそこでずっと座っていなかったら。


 この光景を味わうことなんてできなかったであろう。


「ちょっと急ごうか。これだと夜に間に合わないよ」

「うん、急ぐ」


 二人は手を繋いだまま少し急ぎ足で歩く。


 少年は初めて神に感謝した。

 彼は初めて運命に感謝した。


 “おせっかい”のせいで、真っ当な人生を送れなくなり、出会う人ほぼ全員に疎まれ、嫌われていた。

 そんな日は今日でさよならだ。

 ありがとう。


 少年は隣で早足で歩く少女に向けて心の中で礼を言った。


「ん?どうしたの?」

「な、何でもない」

「何でもないようには見えないけど、キミが話したくないなら深くは聞かないよ」

「……どうしてそんなに優しいの?」


 礼を言うことは出来なかったが、代わりに出会ったから常々思っていた疑問をぶつけた。


 すると、少女はう〜ん、と少し悩み。


「秘密」


 と、悪戯っ子のように笑った。

 少年は呆気に取られて言葉を失った。


 そんな少年に少女は繋いだ手をぎゅっと強く握った。


「でも、いつか教えてあげるよ」

「いつかは今にならないの?」

「ならないなー。キミが大人になったらね」

「それは……」


 少女が誤魔化しで言った言葉は少年の傷を無意識に抉った。


 少年は外見がこれ以上成長、または老けることがない。時間がぴったりと止められてしまったかのように、神様の“おせっかい”を受けた時から変わっていない。


 そして、どうやったら元に戻れるのか分からない。


 だから少年は現状として元に戻れる手段が分からなければずっと子供のこの姿のままなのだ。


「どうかしたの?」

「僕は……いや、何でもない」

「何でもない多いね、キミ」

「……ごめんなさい」

「謝らないでよ。私が気にしなきゃいいお話だから」


 少女は少年が急に元気をなくし少し落ち込んだようにも見えた。

 だがどうして急にこうなったのかは分からない。


 何とかしなければ。

 少女は少年の状態を理解したわけではないが焦燥感に駆られた。


 まだ、出会って間もないはずなのに。

 一週間ほどしか経っていないはずなのに。


 さらに言えば今日初めてようやく会話することが出来ただけだと言うのに。


 薄っぺらい関係。これなら分厚くしていくからだろうか。自分がここでくたばるのは違うと信じているからだろうか、と少女は思う。


「キミにはもう孤児みたいなことはさせないから。私がきっと……」


 それ以上は言葉にしなかった。

 例え、言葉にしたとしても少年の前で言うべきものでは無い。


 少女は山の上にいるある人に聞こうと決め、ともかくも少年をあそこまで連れていこうと少し引っ張り気味で山道を急いだ。

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