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キミへ世界最期の告白を!  作者: 戦告
第1章「レイとレン」
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第21話

 レイは風呂場にレンが来た時から一つ、大きな疑問を感じていた。会ってまもないのに、というか、会って間もないからこそ、というか。

 レイの確立している人間関係ではありえない事なのだ。付け加えておくが、これはあくまでも“おせっかい”によって人間関係が崩壊する前の話だ。

 曰く、


 男の風呂に女が入ってくることはありえない。


 まぁ、レイが男であるか、と問われれば、男であるのだが、どちらかというと少年や、子供と言うだろう。もしくは、男の子。

 レンも同じで女、と言うよりは女の子が正しいのだろう。


 だとしても、年齢からしてレンは思春期真っ只中だろうし、レイも人間関係は作り上げてこなかったとはいえ、風の噂や、そういう店の前を通ったこともあるので、知っているのだ。そういうことは。


 そんな男女が一緒の風呂に入っていることにレイは疑問を持っている。


 それでもレンに訊けないのは、レイが訊ねるという行為に慣れておらず、怖いからにほかならない。

 だから、レイは大人しくレンの話を聞くしかなかった。


 そんな言い方をすると、まるで聞きたくないものを嫌々聞かされているように聞こえるかもしれないが全くそんなことはなく、聞いていてとても楽しいものだった。


「私は神父様に代わって、みんなのお世話をしていたの。神父様はどこからか新しい子を見つけてきては保護しちゃうけど、全く家事とか出来ない人だから、私が仕方なーくやってあげてるの」

「あれ?今はここにいるだろ?」

「私の他にも誰かのお世話ができる子は増えてきたからね〜、もう心配いらないよ」

「ふ〜ん、懐かしいのはその子達と一緒に入ったお風呂のこと?」

「あ、正解!!このお風呂よりも大きいのよ!教会のお風呂は。そこで八人ぐらいと入ったわ」

「八人?!多いな」

「えぇ、でもみんな歳が二桁いってなくて、喧嘩するし、泣いちゃうし、困っちゃった」

「レンはお母さんみたいだな」

「えへへ、そう見える?見えちゃう?」

「見えるから肩でグイグイ押さないで」


 お互い背を向けて、湯船は広い癖に背をくっつけ合って話しているため、見えるわけはないのだが、そこは声の表情と、当たってくる感触で補う。


「さっき、懐かしいって言ってたけど、僕は誰とも喧嘩してないし、泣いてないし、何より、レンを困らせてないよ?」

「む、ちょっと恥ずかしいところをついてきたな〜」

「恥ずかしいところ?」

「いいかい、今から言うことは嘘かもしれないし本当かもしれないし、やっぱり嘘かもしれないけど」

「嘘が多いから嘘ってことかな?」

「嘘だと思って聞いてほしいのに……」

「なんか言った?」

「言ってない」


 小声で言われるといくら、風呂場が反響するとはいえ、向いてる方向が逆であり、口元も見れないので、音としては理解出来ても言語としては理解できないのだ。


 むー、とレンが唸る。


 唸るのはちゃんと聞こえた。


「あの子達も最初は孤児だったんだけど、その時の表情はレイと会った時と全くおなじだったの」

「ほぅ……?ほぅ」

「だからね、レイもあの子達みたいに私が助けてあげなくちゃって思っちゃったの」


 レンは一度ここで話を止めた。

 本人からすると心内を告白することになるため、恥ずかしいと感じるのだろう。


 レイも何となく話しづらくなり、そのまま黙って上を見上げていると、後ろからぶくぶくと音が聞こえてきた。


 あー、レンだな。


 湯船で泡を吹いているらしい。

 そんな子供らしさがレンのいう「あの子達」に通じて好まれるのだろう。

 レイはそんな風に解釈した。


 そして、こんな少女に不甲斐ない姿を見せていた、ということに初めて気付かされた。


 他人の視線や態度なんて、どうでもいい、と思っていて、今までを生きてきたのに。信条化していた醜い決意は背中にぴったりとくっついているこの少女に幸か不幸か粉々に壊された。


 幸か不幸か、なんて野暮だろう。


 少女に出会ってからというもの、毎日が新鮮で楽しいのだ。時には今日みたいに退屈することもあるかもしれないが、それでもレンと一緒に居ると一人でいたときよりも楽しく思えるのだ。


 この感情はなんて言うのかレイにはわからない。けれど、悪くない感情だと言うのは本能で理解している。


 そんなレイだがレンの言葉を聞いて少しだけモヤッとした感情が湧いた。


 レンの「懐かしいな」にどうしてか違和感がするのだ。

 そしてその答えはもう先程出た。


 レイはレンに「あの子達」と同じように見られたくないのだ。どちらかと言うと、隠さずに言えば「男」として見られたいのだ。


 こんなもの独りよがりのものだけれど。

 自分をどう見るかなんて他人のそれによるし、何しろ今までにはなかった事だ。


 レイはそんな新しい感情を理解すると隠すように、湯船に鼻まで頭を沈める。


 ぶくぶく。


 奇しくも二人共が同じ格好することになった。二人して泡を吹く。


「あははっ!二人で何してるんだろっ!」

「全くだ。人のこと言えないけど」


 音が響くと、レンの耳にも届いたらしい。

 ぷはぁっと顔を上げ肩を揺らして笑う。


「まぁ、レイはあの子達とは少し違う気がしてるけどね」

「少し違う気って?」

「さぁ、どうでしょうね〜」


 レンはそう言って立ち上がった。レンとお互いに支え合っていたので、レイはたまらずバランスを崩しかけた。


「キミがもう一回、一緒に入るって言うなら教えてあげてもいいけど」

「えっ?」

「今日だけって言ったら永遠に秘密かな〜」

「……む」


 レンはレイに背を向けるようにして話す。どんな表情をしていて何を考えているのか。湯気もレンに味方をするようで何一つ分からない。


 言葉通りに受け取って、返したとすると、レイがレンとお風呂に入りたい、という風にも聞こえるし、何より自分が今日だけと言ったことを悔やむように聞こえてしまう。


「キミが私を誘った時に私の反応で決まるんじゃないかな〜」


 どこか他人事の言い方にこれ以上は何を聞いてもはぐらかされるだけだと直感した。

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