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キミへ世界最期の告白を!  作者: 戦告
第1章「レイとレン」
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第1話

 新しい作品です。

 皆さんに読んでいただけると嬉しいです。

「何をしているの?」


 少年は声を掛けられたのが自分だということをはっきりと認識していたが応えようとはせず無視した。

 話す気がないと分かればどこかへ行ってしまうだろう、と少年は思っていたのだが、全く動く気配がなかった。


 そして、もう一度。


「キミ、そこで何をしているの?」


 少年の他に誰もいないこの状況で自分に向かって話しかけられているとわかっていながらも再び彼は無視を決め込んだ。

 関わりたくない、というのが本音だった。

 しかし彼は不器用で素っ気なかった。

 その所為で暴力で威圧することは勿論、言葉を交わして立ち去ってもらうことさえできなかった。

 ボロボロの服とボサボサの頭をしている自分に話しかけてくる奴は一体誰なのだと、鬱陶しいという感情で相手の顔をこっそりと伺った。座り込んで腕の間から覗く二つの眼光が捉えたのは美しい少女だった。


 薄桃色の髪はショートに着られていてさっぱりしている。肌は乳白色のきめ細やかなハリがあり、鼻筋が通っていてとても整っていた。

 左目の目元にホクロがあるのも少女の特徴だろう。

 そして、少年を心配そうに見ている二つの目があった。


 少年はその目を見た瞬間に顔を逸らした。そうした理由は彼自身もよくわかってはいなかったが、ともかく、見てはならないものだと判断したらしいと考える。


「こんな裏路地で一人。……もしかして迷子かな?」

「……」


 構わずさっさと行ってしまえばいいのに。

 少年は無機物のように座っている自分にどうしてそこまでおせっかいをかけようとしてくるのか、全く分からなかった。

 そして、こんな裏路地に来たことも分からなかった。


「んー……ここまで無視されちゃうとなー」

「……」


 どうにか話に乗って来させようとする少女だが、少年は黙りを続ける。

 どうして黙り続けているのか、どうして話さないのか、それには理由がある。

 少年は過去に酷い絶望と憎悪を気持ちを人間によって味わされ、会話するのが怖くなっていた。


 そして、もうひとつ。


 少年は少年ではあるが少年ではない。

 もう少し、付け加えるとするならば、「少年は見た目こそ少年の姿であるが、精神は少年ではない」である。


 これには深いわけがあったのか。とはいえ、その心理を突き詰めると人間では理解できないのだが、少年はある日、神様の“おせっかい”に出会った。


 そして彼が貰ったものは“不老不死”。


 その名の通り、全く老化しないし、何をどうしようとも死なない。しかし、そのおかげで、絶望に打ち据えることになってしまったので、この“おせっかい”が感謝できるものなのかは謎である。


 ともかく彼は時間にして途方もない時間を過ごしている。

 ので、目の前にいる少女と比べるまでもなく大人ではあるのだが、身長も見た目の年齢も少女の方がやや高かった。具体的に言えば、身長は5センチ程、少年より高く年齢は16歳程に見える。

 ちなみに少年の見た目は12歳程である。


 少女の感情としては、こんな裏路地に自分より小さい子がボロボロの服を着て座り込んでいる。何かしてあげたい。とでも考えたのだろう。


 少年はそんな気遣いは無用だと心中で毒を吐いた。

 見た目こそ少年であるが、精神は大人なのだからそのうち移動する気であるし、不老不死であるために飲まなくても、食べなくても、多少胃が悲鳴をあげる程度で死にはしないのだ。


「私も長居できないし……」

「……」

「あ、代わりにだけどこれを置いていくわ。少しでもおなかの足しになればいいのだけど……」

「……!?」


 そう言って少女は手に提げていたバックの中からリンゴを取りだし、少年の手を強引に引っ張り出して落とさないように握らせた。

 この強硬策には流石の少年も驚いて、少女の方を見上げた。


 少女は優しく微笑むと一歩後ろに下がった。

 どうやら気分を害したのだと勘違いをしたらしい。


「私はもう行くね。『諦めなければいいことがある。』きっとね」


 少女は手を振りながら去っていった。


 手元にあるリンゴと少女の背中を見比べる。

 どうして人の善意を踏み躙ったのに、食べ物を恵んでくれたのだろう……。

 少年はそう考えながら、両手でリンゴを包んだ。


 不老不死であっても食べ物は美味しいと感じることができるし、空腹も感じてしまう。ちょうど前回食べてから一ヶ月ぶりの食べ物に脳が興奮してヨダレが大量に分泌されていく。


 だが彼女のバックの中を見る限りこのリンゴは自分が食べてはいけないものだということが本能で察していた。


 少女が提げていたバックの中にはこのリンゴしか入っていなかったのだ。きっと、少女が帰ってから食べるのを心待ちにしていたリンゴだったのだろう。


 そう一旦思ってしまうとなかなかどうして不思議なものでそうとしか思えないような錯覚に囚われてしまう。


 少女は少年のように不老不死ではない。その者が食べ物を食べる意味と不老不死の者が食べ物を食べる意味とでは重さが全然違う。


 これは食べられないな……。


 少年は受け取ったリンゴを食べる事もせず、捨てることもできずにずっと、両手で包み込んでいた。

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