公国出発①
「カイ・ザーバンス、只今参上いたしました」
「ミルス・ドウガー、来ました!」
「ロンド・ペリークス、来ましたぜ」
ダンジョン機能で呼び出して数分後、お目当ての三人がやって来た。
「はい、ご苦労様。いきなりだけど、凄い仕事が舞い込んできちゃったよ」
「凄い仕事、ですか?」
「うん、それはね」
俺は、ナナさんから受けたフリン公国の破壊指令について話す。
「ふ、フリン公国の破壊、ですか?」
「へ~、よりによってセブンス帝国の姫に求婚、ね~」
「愚かな」
カイは、破壊指令に戸惑い、ミルスとロンドは現公王の行動を非難する。
「でだ。お前たちには、公国の案内役としてついてきてもらいたい。良いか?」
「私は構いませんよ」
「あの糞公王をぶっ飛ばせるんでしょ?当然やりますよ!」
「俺も良いですぜ」
カイ、ミルス、ロンドから了解の意思を受け取った俺は、急いで身支度を整える。
定番の茶色の仮面に茶色のローブ、ポーションや武器、防具、飯。道具創造で生み出せるが、人前では多用したくないので、あらかじめ用意しておく。次に、
「お前達、公国内に注意すべき人物はいるか?いたら、少しでもいい。情報をくれ」
「フム、ならば私の先輩で近衛騎士団団長のゴウエンさんが該当するかと」
「ゴウエン?詳しく」
カイ曰く、本名ゴウエン・フィーゾム。二十年前、平民でありながら先代公王に見いだされて、公国軍に入隊。メキメキと頭角を現し最精鋭の近衛騎士団に入る。そして今では近衛騎士団団長に上り詰めた努力の人、らしかった。
「今は分かりませんが、国家鑑定士が鑑定した所、レベルは45。ランクはBでした。侮れない相手かと」
「ああ、ありがとう。しかし、そいつは何故現公王に従っているんだ?人質か?」
「いえ、あの人は先代公王に忠誠を誓っています。恐らく、先代公王に任されたのでは?」
「その割には、現公王無能だよな?」
「ええ、一体何が」
「ちょっといいですか?」
会話の途中にミルスが割り込んでくる。
「実は、現公王の側に妙な魔道士がいたんですよ」
「魔道士だと?身なりは?」
「はい、黒いローブを纏った若い男でした。何やら、ぶつぶつと気味悪かったですけど」
う~ん、まさか魔道士が現公王を操り人形にって感じか?
「そういえば、俺達モンスター討伐部隊に命令を下したときにもいましたぜ。あの黒ローブ」
「得体が知れない奴なのは確かです」
「わかった。じゃあ確認するぞ?公国で最も警戒すべき奴は、ゴウエン・フィーゾムと黒ローブの男。異論は?」
三人からの返答はない。
「よし、次だ。俺は公国で、革命を起こすつもりでいる」
「ぼ、革命ですか!?」
「ああ。でもあくまで、裏で支援しながらだ」
革命。即ち、権力体制や組織構造の抜本的な社会変革。
「その為には、正当な理由とリーダーが必要だ。理由はある。国を滅びに追いやり、民を傷つけた現公王を許すな・・・て感じだな。後はリーダーだが」
「ならば、まず公国に潜入して情報を集めましょう」
「よし、そうしよう。そうだな・・・今日の夜に出る。準備急げ!」
「「「はっ!」」」
夜。俺達は、とある森の中で結集していた。
「よし、これからフリン公国に向かうぞ?道は?」
「ここから、南東の山を越えたら直ぐです」
「なんだ、結構近いな・・・まあ、いい。行くぞ」
そして、俺達はフリン公国へと走り出した。
◆フリン公国 公都ツンドルン ヤーレラ城
夜の闇夜の中立っているのは、フリン公国の公都ツンドルン。その中心にあるのは、国の象徴的存在であるヤーレラ城である。その回廊にて歩く一人の騎士がいた。
その騎士は、赤く染まった髪を逆立たせおり、体は鎧のせいで分かりにくいがよく鍛え上げられていた。腰には、一本の剣が差し込まれている。
騎士の名は、ゴウエン・フィーゾム。公国の最精鋭、近衛騎士団団長である男である。今彼が向かっているのは、謁見室。王と会うための場所だ。
ゴウエンは、一人頭の中で思考する。
(何でこうなった・・・。)
彼の脚運びは、非常に重たいものだった。
(陛下は変わってしまった。以前は、もう少しまともな性格だったのに。・・・・・それも全て、あの男が・・・・!)
やがて、謁見室の前まで来ると、扉を守護していた兵士が扉を開ける。中には、数人の貴族。そして、一人王座に座る肥満体の男と隣に立っている黒ローブの魔道士。ゴウエンが入ってくるや否や、一人の貴族が口を開く。
「おやおや、近衛騎士団団長のゴウエン氏が一体何用ですかな?」
その言葉には、嘲笑が含まれている。言葉には出していないが、他の貴族も同様だった。
「ふん!何の用だ、ゴウエン。余は、女供と戯れるので忙しいのだ。早く申せ!」
発せられる公王の言葉には、ただただ不快感しか無い。
「はっ、陛下。現在民は、度重なる増税で貧困に苦しんでおります。どうにか、税を縮小出来ませんか」
「はあ?」
公王は、何言ってるんだコイツという顔でゴウエンを見る。
「ゴウエン殿、見苦しいですよ」
そこに口を開いたのは、例の黒ローブ魔道士だった。
「公王家は、公国に無くてはならない存在であるのですよ。それに比べたら、下々の命などとるに足らないでしょう」
「その通りだ!余は特別な存在である!それに、平民などすぐに産まれてくる蟻のような輩であろう!そのような存在に何故に配慮しなければならぬ!」
(チッ!!あの魔道士め!!)
ゴウエンは、件の魔道士を睨みつける。目は隠れているが、口許はニヤッと歪んでいた。
「し、しかし陛下。今でも民は、国外に逃げ出すものが続出しております。最早、そんなことを言っている余裕は」
「くどい!不敬罪で貴様を処刑しても良いのだぞ!?我が父ダクワードより余の世話を任されたかは知らんが、たかが平民の分際で公王家に意見するなど百年早いわ!」
公王は、早口で捲し立てる。すると、立ち上がりさっさと奥に引っ込んでしまった。他の貴族たちもさっさと謁見室から退室する。残ったのは、ゴウエンと魔道士のみ。
「ゴウエン殿、いつまでそこにいるおつもりで?」
「・・・貴様には聞きたいことが山ほどあるぞ!魔道士ジメイ!」
魔道士、ジメイは首を軽く捻る。まるで、見当がつかないといった様子だ。
「はて、聞きたいことですか」
「そうだ!貴様、一体陛下を利用して何を企んでいる!」
「いえ?私は真心込めて陛下にお仕えしているだけですよ?」
白々しい!ゴウエンは、心の中で叫ぶ。コイツは、二年前にやって来て目を離したら、いつの間にか陛下の側近に成り上がっていた男だ。正直、かなり不気味である。
「さて、もういいですかな?私は、やることがあるので」
ジメイは、ゴウエンの横を通り抜けて謁見室から退室した。ゴウエンは、それを見ようともせず、無力感が体を駆け巡りその場で立ち尽くしていた。
謁見室から退室したジメイは、しばらく謁見室の扉を眺める。そして、口元を嫌悪で歪めた。
「ふん、精々堕落するがいい。豚共が」
誰にも聞こえない程の小声で、そう呟いた。
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