vs血染めの貴婦人②
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◆ドシア王国上空 カゲマサside
「おりゃァァァ!」
「あンっ!いいワ!いいワヨ!もっと、激しくしテェ!」
「おい!何変な声出してんだ、止めろぉ!」
俺の放った回し蹴りを受けた“騎士”は、何故か卑猥な声を出しながら大鉈を振るう。俺は、そんな“騎士”に辟易しながらも、大鉈を避けて距離を取る。“騎士”はというと、大鉈を持った腕をポキポキも鳴らしながら、赤みがかった笑顔で告げた。
「うふフフフ、流石アナタネ。三十年以上一緒に歩んできタお陰か、私と互角だなんテ!ワタシ、嬉しいワ!」
「いや、俺とお前は今回が初対面だっての」
俺は、仮面の下で呆れ顔をしながら言い放つ。だが、“騎士”は耳に入っていないのか、身体をクネクネさせながら言葉を続ける。
「そう、嬉しいノ!嬉しくテ嬉しくテ嬉しくテ、ウレシクてウレシクて!」
“騎士”は、本当に嬉しいのか盛大な笑顔を浮かべながら、肉体を肥大化させていく。その変化は、俺が見たことのあるものだった。
(おいおい、これって。あのボデ何とかの肉体変化と同じだぞ!?どう成ってやがる、南方諸島じゃ普通のスキルか!?)
俺が思い出したのは、フィリア王国で捕え、情報を探ろうとし、“騎士”の罠で爆散した老婆のボデグリューであった。ボデグリューとこの“騎士”の行った肥大化光景が余りにも、余りにも酷似し過ぎていたのだ。
(まさか、この“騎士”の素体となった女って、戦女なんじゃあ)
俺がそう考察していると、肥大化が完了した“騎士”が俺に向けて左拳を放とうとしていたではないか。
「あ、やべ」
「〈剛力鬼拳〉ゥゥゥッ!!」
「っ!?グアっ!」
“騎士”が放ったのは、ボデグリューが放ったソレと同じモノ。だが、威力が段違いであった。例えるなら、ボデグリューが新幹線の激突レベルなら、“騎士”のそれは山そのものを落とすレベルである。まあ、俺には二つの違いなぞ余りわからないが。
ともあれ、俺は“騎士”の〈剛力鬼拳〉を咄嗟に腕を交差させて受けたが、余りの威力に胸に衝撃を受けふっ飛ばされてしまう。そして、とある建物の一角に突っ込んでしまった。
「ッテテ、馬鹿力が!・・ん?」
俺は、“騎士”に悪態をつきながら辺りを見回すと、そこは何かを保管しておく倉庫のような場所だった。そして、自分の周りには酷く怯えた武装する人間が十数人。
「き、きき貴様!一体何者だ!この倉庫に何のようだ!」
「倉庫?いや、俺はなんの用も無いのだが」
俺は、取り敢えず弁明しようとするが、両腕が上がらない。何事かと見てみると、何と両腕の肘から先の部分が、無くなっているではないか。付け根を見てみると、無理矢理引きちぎられたような痕がある。
(チッ!〈剛力鬼拳〉を受けた時に千切れたか!)
俺は、直様その場を離れて《超速再生》させようとするが、倉庫の警備兵達が逃してくれない。
「だから、さっさと腕の治療をしたいのだが!?」
「な、ならん!この倉庫を知られた以上、生かして返さぬ!」
この時の俺は預かり知らぬことだが、実はこの倉庫ドシア王国が保有する密輸の為の倉庫であり、この倉庫で密輸入を行うのだ。言わば、国家の裏の経済の中枢である。裏の商品なので、違法の魔道具や麻薬、調教されていない危険なモンスターなどが多数保管されていた。
そんな場所に突如として侵入してきた輩を放っておけないのが、この場の警備兵の総意であった。だが、警備兵達はそんなことを言っていられなくなる。
「・・・・ワネ」
「「ん?」」
突然俺と警備兵に影がさしたと思って俺は、恐る恐る後ろに振り向くと、破壊してきたであろう壁穴の前に大鉈を持った身長六メートルの筋骨隆々な黒ドレス赤髪美女が此方を充血した目で見てくるではないか。
「ヨクモ・・・・・シテ、くれたワネ」
「何か嫌な予感がするな。逃げよ」
「え?」
俺は、背中に悪寒が走り直様その場を離れた。警備兵達の頭上を飛び越え、出口へ全力疾走する。一方の警備兵達は、逃げた俺をポカンとしながら見送っていると、前方からとてつもない殺気が警備兵達を襲った。
「ヨクモ、ヨクモォォ!ワタシの夫のウデを!壊してくれたワネェェェ!!」
身長六メートルの筋骨隆々な黒ドレス赤髪美女、“騎士”は左手に持った二本の腕を胸に抱きながら怒りの咆哮を上げる。さながら、大事な宝物を傷付けられた竜の如くだった。
なお二本の腕、カゲマサの腕を壊したのは“騎士”なのだが、彼女の頭の中では警備兵達がやったことになっているらしい。
「ヒィィっ!に、逃げろォォ!」
「なんで、なんでこんな化け物がここに来るんだよォォ!」
警備兵達は、余りの恐怖に一目散に逃げ出す。中には、失禁しながら逃げる者もいた。
「死に晒セェェェッ!!〈剛力鬼斬〉ァァァッ!!」
“騎士”は、肥大化させた右腕を更に肥大化させ、右手に持った大鉈を振り抜いた。そして、発生する衝撃波。衝撃波は、逃げ出した警備兵達を吹き飛ばし、倉庫に保管されていた魔道具や麻薬を破壊し、危険なモンスターを檻ごと吹き飛ばした。
結果、ドシア王国の保有する密貿易拠点は、この日舞い降りた災厄によって、跡形もなく破壊されることとなった。
なお後日、この災厄のせいで一部の危険な魔道具や麻薬が街に流され、麻薬汚染地域や魔道具事故による被害が多発し、破壊された檻から逃げ出したモンスターが人々を襲い始め、ドシア王国上層部の悲鳴が飛び交うのだが、それは別の話。
そんなことになっているとは露知らず、倉庫から逃げ出した俺は、島から抜け出すべく海へと走っていた。
「おっ、倉庫が爆散した。“騎士”め、相当な力で吹き飛ばしやがったな?」
俺は、やはりあの場から逃げて正解だったと安堵し、腕を《超速再生》で生やす。
「よし、治ったな。後は、見つからないよう慎重にかつ迅速にこの島から出なくては」
俺は、そう独り言を履きながら、ドシア王国の路地裏を駆け抜ける。
やがて、海の音が近づいてくると、俺は勝利を確信した。柄ではないが、嬉しくて確信してしまったのだ。俺が路地裏から出て目に飛び込んできたのは、巨大な港。船が何隻が停泊しており、如何にも先程の倉庫と関連がありそうな場所だった。
俺は、倉庫との関連が頭に思い浮かんだが、直様振り払い、港からウミへと出ようと走り出す。
その時だった。俺の頭上から、巨大な影が降りてきたのは。
「っ!おっとぉ!」
俺は、思わずバックステップで後退する。そして、落ちてきた巨大な影を見て、思わず嘆息した。
「はぁ〜、いい加減にしてくれ」
俺の言葉に巨大な影、“騎士”は嬉しそうに顔を歪ませながら大鉈を振るう。
「ウフ、うフフフ!腕がナオッタのネ?良かったワ!サア、ピクニックはもうおしまい、家に帰って共に愛し合いましょウ?ねェ、愛しの旦那様?」
“騎士”は、相変わらず俺を夫扱いしてくる。俺は、そんな“騎士”の態度に辟易しながら、拳を構えるのだった。
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