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血染の貴婦人

※グロい描写があります。苦手な方は、ブラウザバックを推奨します。


◆南方諸島中央部 ドシア王国 カゲマサside



 ドシア王国の貿易船を潰した俺は、暫く“冥府教”の動きを見るために次々と貿易船を潰しまわった。俺の動きにドシア王国は、護衛の軍艦を増やして対応したが、俺の前には無力でまたたく間に制圧され、貿易船の行方不明数は日に日に増していく結果となった。


「ふむ、流石に五十隻潰されれば、怪しんで末端を送り込んで来るよな」

「···ぐっ」


 貿易船を潰しまわったことを思い出していた俺は、深夜の路地裏で一人の男を前に男の頭を踏み締めながら、言葉を続ける。


「よし、早速やるか。《真実》。お前は、上役からどんな指令を受けてきたんだ?」

「····お、俺は、この地に来たであろう幹部〈血染の貴婦人〉を探しに来た」

「〈血染の貴婦人〉?」


 俺は、聞き慣れぬ存在に首を傾げる。そのような存在は、情報の中に存在しなかったからだ。


「《真実》。〈血染の貴婦人〉とは、何者だ?」

「···わ、分からない。ランスロット様は、〈血染の貴婦人〉を絶対に連れ帰れとしか」


 ランスロット。これは、ライ·ランスロットで間違いないだろう。そして、〈血染の貴婦人〉だが、あくまでも俺の予想になるが“騎士(ナイト)”の大元である邪魂が取り憑いた存在という説だ。

 邪魂に取り憑かれた人間は、例外なく連続殺人犯(シリアルキラー)へ変貌する。〈血染の貴婦人〉なんて異名は、正に連続殺人犯(シリアルキラー)にピッタリではないか。


「何らかのトラブルがあって、この地にやってきたのか。···【スリープ】」

「っ!?···ぐぅ」


 俺は、話を聞いた“冥府教”構成員を眠らせると、路地裏から離れてドシア王国上空へと飛び立った。


「そうだな。あの構成員を囮に〈血染の貴婦人〉とやらを見つけ出すか。何か有益な情報が欲しいが」


 一人呟いた後俺は、そのまま深夜の暗闇へと消えていった。
















「ふ〜、今回の仕事は思いの外長かったな」


 ドシア王国の首都ヤルタにある大通りを一人の小太りな男が走っていた。

 男の名は、ポッツォ。ドシア王国の造船所で働いているごく普通の人間である。


「はぁ〜、すっかり遅くなってしまったな。急いで帰らないとハリエのビンタが唸るぞぅ!今頃ポリーを寝かしつけて待っているだろうしぃ!」


 彼には、ハリエという妻とポリーという息子がいる。愛する妻と息子の為にもポッツォは、必死に足を動かして家へと向かう。

 やがて、ドシア王国首都ヤルタの居住地区にある一軒家へとたどり着いたポッツォは、家へと入ろうとしてとある違和感を抱く。


「あ、あれ?何で家の中から血の匂いがするんだ?」


 ポッツォは、造船所で働いている関係上血に多少慣れている。作業中に事故が起こった際に、怪我をした作業員から臭う血の匂いを嗅いでいる内に血の匂いに多少敏感になってしまったのだ。


「おい!ハリエ!ポリー!無事か!?」


 ポッツォは、腹の下から迫り上がってくる恐怖を必死に押さえつけながら自宅の中へ入った。





「あら?あらあらアラアラあらあらアラアラ〜〜〜。おかえりなさい、あ·な·た?」


 そこには、見覚えのない漆黒のドレスを身に纏った赤髪の美女が血に濡れた大鉈を持って笑顔を向けていた。笑顔を向けられたポッツォは、迫り上がってきた恐怖に呑まれながらも口を開く。


「だ、誰なんだお前は!いや、それはどうでも良い。妻は、息子は!手を出していないだろうな!?」


 ポッツォは、自分の顔が蒼白になっていくのを感じながらも問いかけた。問われた美女は、悍ましい笑顔をポッツォに向ける。


「妻?貴方の妻は私でショウ?ほら、ご飯を作ってあげたから、食べなさいな」

「ふ、ふふ、巫山戯るな!俺の妻は、ハリエだ!お前なんかじゃない!」

「?何を言っているのかわからないワ」


 ポッツォは、股間が急速に湿っていくのを感じながらも自分の妻と偽る美女に反論した。対して美女は、心外だという顔をした後、台所へと入っていった。


「ほら、貴方へのご飯ヨ。しっかり食べてネ?」

「ッ!!オエェェェ!?」


 美女が台所から持ってきたものを見て、ポッツォは思わず胃の中にあるものを吐き出してしまう。胃酸の匂いが充満する中、ポッツォは美女が持ってきたものを見ることができなかった。







(く、糞ぅ。ハリエェ、ポリー)


 美女が持ってきた物は、一つの大皿に赤黒く変色した血液が浸され大腸や小腸、心臓などといった臓器が盛り付けられ、臓器の上には二人の人間の頭が乗せられていた。

 ポッツォは、その二人の頭が自身の妻と息子のものであると確信して、腰を抜かし股間と顔を液体で濡らしながら尻餅をつくしかなかった。

 そんなポッツォの心境などつゆ知らず、美女は自信満々なのか自慢げに胸を張りながら、ハエが飛び回るソレを差し出す。


「ドウ?これは、ワタシの自信作。私達の家にいた二匹の猿を使って作ったノ。キーキー五月蝿かったけど、ちゃんと始末したから安心しテ?味付けは貴方好みの濃い味付けにしているカラ、気にいる筈ヨ?ほら、ア~ン」


 美女は、臓器の一部をスプーンで抉ってポッツォに差し出す。ポッツォは、腐った血液の匂いとハエが飛び回る臓器の一部を見て、思わず顔を背けてしまった。


「ねぇ、何で食べないノ?せっかく作ったのニ。貴方を愛しているこの私が作ったのニ」


 美女は、顔を背けたポッツォを底なしの穴の如き暗い瞳で見つめる。ポッツォは、恐怖のあまり美女の顔を見ることができない。目を合わせた途端殺されてしまうのではないかと考えたからだ。

 だが、彼の心にはどうしても否定したいことがあった。


「お、俺は、お前の夫じゃない。俺の妻は、ハリエだけだ」


 ポッツォの言葉を聞いた美女は、感情の抜け落ちた表情になり大鉈を構える。


「ソウ」


 ポッツォは、思わず目を閉じる。その直後に彼の腹へ大鉈が突き刺さった。


「ギャアァァァ!!」

「浮気、ネ?浮気なのネ?そうなのでしょウ?」


 美女は、突き立てた大鉈を引き抜いて、再びポッツォの腹へ突き立てる。


「グギィィィ!」

「そういえば、私達の家の中にいた雌猿が言っていたワ。ポッツォは、私の夫だっテ。お前は偽物だっテ。おかしな話よネ。私達は、三十年も一緒にいたのニ」


 言葉を紡いでいる時も美女は、ポッツォの身体を大鉈で切り裂いていく。ポッツォは、堪らず悲鳴を上げるが美女は、聞こえていないのか大鉈でどんどん身体を傷付けていく。


「あの雌猿は、本当に苛ついたワ。だから、机に縛り付けて生きたままズタズタにしてやったのヨ」


「本当に爽快だったワ。貴方の妻と抜かす畜生を葬れたのだかラ」


「なのニ、なのニィィィィィィ!!」


「貴方は、よりによって畜生と浮気していタァァ!断じテ、断じテ、許さなァァァイ!!」


 美女の大鉈を振るう速度が加速する。ポッツォの身体から血液が飛び散り、肉が割かれ、骨が砕けていく。もはや、ポッツォに悲鳴を上げる暇などなかった。

 やがて、ポッツォの身体が原型を無くした時、ようやく美女が手を止める。


「浮気は絶対····アラ?私は何をしていたのでしょうカ?」


 美女は、先程までの態度と打って変わって記憶が消えたのか、自分が何をしたのかまったく覚えてないようだった。


「何故私はここに、アラ?なんですかこの肉塊は」


 美女は、先程まで夫としていたポッツォだった物を穢らわしいもののように睨み、蹴り飛ばした。


「まったく汚いものですワ。あら?ここにも汚物があるじゃなイ」


 美女は、続いて自分が用意した筈の料理を汚物として大鉈によって叩き潰す。そこには、先程まで語っていた愛など微塵も無かった。


「ああ、愛する貴方。貴方は、何処に行ってしまったノ?」





 こうしてドシア王国から幸せだった一家が姿を消すことになった。


 そして美女、血染の貴婦人は今宵も深夜の暗闇の中を彷徨い歩く。


 愛する夫を見つけ出すその日まで。


 魂に蠢くドス黒い悪意を抱えながら。


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