動き出す“騎士”
◆南方諸島中央部北の海域 元無人島 カゲマサside
“冥府教”が所有する小さな拠点を潰した俺は、捕まえた“冥府教”の枢機卿と名乗る双子、アンミロ·ステッコとインミロ·ステッコのステッコ兄弟、その他司教司祭といった構成員を捕らえて、元無人島に設置したサブダンジョンへと連行した。戦いの最中に双子の手足を切断したが、二人は悲鳴一つあげずに項垂れている。
「“冥府教”への忠誠心故か、痛覚がイカれているのか、ともかく悲鳴をあげないのは凄いなぁ。···はぁ〜」
俺は、ステッコ兄弟へ感心するように呟くと、椅子に座って頭を抱える。
「やっべぇ、何人か殺しちまった」
“冥府教”の目的が、人間の死によって発生する死の力とやらを集め、集めた死の力を使い世界を都合の良いものとすることは分かっている。だからこそ一ミリを死の力を渡したくないのに、その場のノリで【ヴェノムブロード】を放ち、“冥府教”の構成員を三分の二殺害してしまった。“冥府教”構成員だって人間、死ねば死の力が発生することを完全に失念してしまった故に。
「畜生!なんで俺は、敵に塩を送ってんだ!馬鹿!阿呆!間抜け!」
俺は、自己嫌悪に陥り頭をポカポカと殴る。部下達は、突然頭を殴り始めた主君を見てオロオロとしている。すると、ステッコ兄弟の兄であるアンミロが顔を上げて口を開いた。
「···おい、貴様」
「オタンコナス!木偶坊!うつけ!バァーカ!···ん?なんだ?」
俺は、自己嫌悪のままに己を貶すことを止めてアンミロに振り向く。若干だが、他人に自己嫌悪の場面を見せたのは、少し恥ずかしかった。
「貴様が明主様の目的を妨害しているのは分かった。一体何故だ?一体どこで我等のことを探り当てた!」
「依頼主からの情報。まあ、無くてもいずれ探り当てたさ。いくら戦乱が多い南方諸島でも、一日に十数度戦争が起これば、嫌でも貴様等“冥府教”の関与が思い浮かぶ」
フリン公国における革命戦争や、マーロイ首長連邦での虐殺等が良い例だ。マーロイに至っては、シリアルキラーの“騎士”がいたせいか、無軌道かつ短絡的に何万も殺されている可能性が高い。
俺は、そこまで考えてふと思う。
(そう言えば、死の力って何なのだろうか。人間が負の感情を抱いたまま殺されると発生する力だということは分かっているが。やはり、DPと同種のエネルギーか?)
俺は、得られる条件の一つに敵生命体を殺すことが含まれているDPを思い浮かべたが、すぐに却下する。DPだけでなく、魔力だって多種多様な方法で得ることが出来るからだ。
(う〜ん、分からなくなってきたな。そもそも死の力をどう使って、地上に死をもたらすんだ?俺が殺したときも死の力は漏れ出た筈だから、そのままの状態では意味がないってことなのか。その方法って何なんだ?)
俺は、次々と現れる疑問に軽い頭痛を覚えながらも、頭を横に降って思考を切り替える。切り替えた俺は、アンミロに振り返り口を開いた。
「さて、貴様からは情報を抜き出させてもらおう。この資料とすり合わせをしたい」
俺は、奴等の小さな拠点から奪った資料をヒラヒラと動かしながら、アンミロとインミロに近づいていく。
「くっ、拷問でも何でもしてみろ!俺達兄弟は何も喋らん!」
「腐っても俺達は枢機卿!明主様を裏切るなどあってはならないのだ!」
「大層な忠誠心なこと。さて」
俺は、さっさと例のスキルを発動させることとした。こういう尋問には、抜群の効果を発揮するからな。
「《真実》。お前等の拠点の場所を教えろ」
「答えるか!そんな····小国に十箇所以上、中堅国家に五箇所、大国家に二箇所ある。··なっ!?」
「っ!インミロ、何故喋った!?」
「お、俺にもわからない!貴様、何をした!」
「さあ、どんどん喋りましょうね〜」
俺の言葉を皮切りに、ステッコ兄弟は悔し涙を流しながら“冥府教”の情報をスキル《真実》によって吐き続けた。
南方諸島東部のとある国家がある島。その地下にて、一人の男と一人の女が紙の資料とにらめっこしていた。
「お〜い、ワイ。ここの数値が合ってないで。0.3の誤差や」
「そう言うなや、ワイ。お前もここ、人員数の記載がないで?末端の奴等が混乱するやろ」
「ええやん、末端がどうなっても。所詮捨て駒やろ」
「そう言わず、こう言わんかい。ワイ等に協力してくれる貴重で信用できる大事な大事な捨て駒さん達やで」
話していたのは、エセ関西弁を話す二人の男女。その正体は、ライ·ランスロットの名乗る“冥府教”の上級幹部である“騎士”二人である。まあ、中身は人間ではなく邪魂と呼ばれる怨霊の亜種だが。
二人が暫く紙の資料とにらめっこしていると、男の方が口を開く。
「そう言えば、魔王朝から派遣されてきた艦隊はどうなったんや?」
「ああ、アレな。シーマンに移ったワイがモンスター動かして足止めしとるらしいわ。やけど、かなり強い奴がおるそうで、苦戦しとるらしい」
「ふぅん。聖堂教会はどうや?」
「今のトコ、戦争停止活動や戦災孤児の保護などをしとる。戦争へ積極的に介入することは無さそうや。··ああ?」
「ん、どないしたん?何か問題が?」
途端何かを感じ取った女の“騎士”は、何故か歯切れが悪そうにしていた。疑問に思った男“騎士”は、何事かと問いかける。
「あ〜、悪い知らせが二つ来たで」
「あ?」
「まず一つ、中央部にあったワイ等の拠点の一つが潰されたらしいわ」
「ほうか、ワイ等を追う連中の仕業やろ。まあ、あの〈帝将〉やろなぁ」
男“騎士”は、思い出したのか仮面をつけた男を思い出して嘆息する。
「で、二つ目はなんや」
「···いった」
「は?なんて?」
女“騎士”の声が聞き取れなかった男“騎士”は、耳を澄ませて再度聞く。
「いや、だから、飛んで行ったんや」
「はあ?誰が」
「ワイが」
「····なあ、嘘やと言ってくれ」
女“騎士”の言葉に滲む呆れと疲れ。それを見た瞬間、男“騎士”は誰が飛んでいったのか悟った。
「なあ、誤報やろ?そう言ってくれ」
「嘘やない。あの血まみれ貴婦人になったワイが、『早く、早く夫を見つけなきゃ。今頃私を待ってるのよォォ〜〜!』と言って、中央部に飛んで行ってもうた」
男“騎士”は、顔を蒼白にしながら席を立つ。そして、フラフラとよろめきながらキリキリと痛む胃を抑えて、叫んだ。
「あんの、糞アマガァァ〜〜〜〜!!」
男“騎士”の叫びは、勝手に行動した同胞への怒りと殺しを独り占めにした同胞への嫉妬が見え隠れしていた…。
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