有毒植物とその時の女王、虜囚の食事事情
誤字報告ありがとう御座います。
◆南方諸島中央部北の海域 無人島 カゲマサside
俺は、早速モグラマスターのいた元ダンジョンに、ダミーコアを設置し己のダンジョンへと変える。変えられるのか不安だったが、どうやらダンジョン化してなければ変えられるらしい。
次に行ったのは、島内にいる危険な動植物の排除である。下手に触れさせて仲間に被害が出たら目も当てられないからだ。
モンスターは、少数存在し《毒耐性》スキルを所持していたがどれも弱く驚異になり得なかった。が、二つほど危険な植物を発見した。
「···なるほど。コイツがあったから人間は寄り付かず、島外にいる野生のモンスターも近寄らなかったのか」
俺は、今現在島を囲む山々にある森林地帯にいた。そして俺の目の前には、イボノキ草とよばれる巨大なドクウツギに似た植物と地球でネットサーフィンしている時に偶々目に入ったことのあるハシリドコロと呼ばれる植物に似たロート草という植物が群生していた。
地球だと有毒植物とされているこの二つの植物は、まるで島を取り囲むように群生しており、さながら島を守るように生えている。何故そのように群生したのかは不明だが、もしかするとモグラマスターが何かをしたのかもしれない。
勿論唯取り囲んだだけなら、何ら問題はない。だが、地球のソレとは違いイボノキ草とロート草には厄介な性質があった。それは、イボノキ草だと強烈な痙攣、ロート草だと視力障害や口渇、幻覚、錯乱といった効果をもたらす胞子を飛ばすことである。その胞子は、常時垂れ流されており島内や島外の海域に漂っていたのだ。これでは、毒耐性のない人間やモンスターが近寄れば、たちまち胞子の餌食になるのが目に見えている。
俺?俺は、《毒無効》とかいうスキルを身に着けているので余裕である。
「山々も改造するつもりだったが、コイツ等は残しておいた方が良いかもしれん」
俺は、植物を前に拠点の方向性を決めると、サンプルの為にイボノキ草とロート草それぞれ一本ずつ採取し、島内の生物やモンスターの死骸と共にミレンダの元へ送った。ミレンダは、久々の興味深いサンプルに目を光らせて、ルンルン気分で研究している。
「よし、サンプルも送った、領域化も済んだ。次は、先遣隊の派遣だな」
俺は、そう呟いた後、サブダンジョンのコアルームへと移動する。そして、一体の鳥系統モンスターを【ゲート】を使って呼び出した。
「カアカア!お呼びですかな、マスター!」
「よう、クロウ。今回来てもらって悪いな」
「いえいえ、マスター!この儂クロウは、マスターのお役に立てるならば、どんなことでも喜びとなるのです!ささっ、任務をお申し付けくだされ!」
名前 クロウ
種族 烏天狗
職業 百魔 情報収集部隊所属
レベル 52
ランク B+
スキル 風魔法の達人 眷属精製 認識阻害 身体能力強化 再生 魔力障壁 毒耐性 並列思考etc.
俺が呼び出したのは、山伏装束で烏のような嘴を持った顔を持つ烏天狗と呼ばれるモンスターのクロウ。コイツは、我がダンジョンの中で情報収集部隊所属でありダンジョン第十二階層を守る〈狂星〉クーハの部下の〈百魔〉なのだが、その諜報向きの能力故に連れてきた。
「さて、クロウ。俺がお前を連れてきた理由は分かっているな?」
「ははっ!南方諸島中央部の偵察で御座いますな?」
「そうだ。お前の《眷属精製》によって生まれた眷属共は、基本無力だが目や耳は、お前と同調している。オマケに生身ではないので毒等が効かん。この能力を使えば安全に偵察出来るだろう」
「任されよ!では、いでよ我が眷属達!」
これこそがクロウを呼び出した理由であり、俺が改造に走る間、南方諸島の情勢について調べてもらう為だ。俺が動くのは、この島を安全な拠点に作り変えた後である。
俺の言葉にクロウは、胸を張って自信満々に承諾すると《眷属精製》で十数体のカラスの形をしたモヤを精製する。これが、クロウの眷属達だ。
「行けぃ、我が眷属共よ!南方諸島にある有人島へ行き、情報を集めるのだ!」
クロウの言葉と共に眷属達は、次々とサブダンジョンから飛び立っていく。俺は、その光景に頷きながら、ダンジョンメニューを開く。同時に、鉛筆とノート数冊を取り出してクロウに手渡した。
「クロウ、何か情報があればこれに書き込め。どんな些細な話でも構わん」
「ははっ!お任せ下され!」
俺は、その言葉に満足しながらダンジョンと化した改造に乗り出した。
カゲマサが元無人島の改造を始めたと同時刻、アマゾネス女王国王城にて、女王ヒッポリュテと宰相アンティオペが深刻な顔で話していた。
「アンティオペ、ペンテレイシアからの報告はまだか?」
「はっ。未だに報告はありません。恐らく、敗北したものと思われます」
「そうか···」
ヒッポリュテは、深刻な顔で考え込む。その様子にアンティオペは、ヒッポリュテが次の総司令の座を誰にするかではなく、第二陣を送るとして誰を送るかを悩んでいると直感として察した。
「女王陛下、恐れながら申し上げます」
「なんだ?」
「女王陛下。現在国内でも、ペンテレイシア敗北の噂が流れており、国民の抱く不安が日に日に増しております。更に領土となった他の島では、種馬用の雄共による反乱の動きも御座います。ここは、報復ではなく国内の安定を優先くださいますよう」
アンティオペは、宰相として、女王の側近として、処刑覚悟で忠言する。
今この国に報復の為の戦力は、あまり残っていない。本島にいた精鋭戦力は、殆どが報復のために黒い島へと渡ってしまった。質を問わないならば、一個師団程の数を用意できるが、輸送の為の手間暇が掛かり余計な時間を食ってしまう。それを行うならば、先んじて国内の不安の種を取り除き、安定したところで報復の為の戦力を集めるべき。アンティオペは、そのように判断しての忠言であった。
「ほう?余に対して雄を恐れよと?今頃囚われて、屈辱の限りを受けている部下達を見捨てよと?」
「陛下!その部下達を確実に助けるためにも、今は国内の安定を第一にお考えください!報復を終えようと、国がなくなってしまえば意味が無いのです!」
男を憎むヒッポリュテからしてみれば、アンティオペの言葉が男を恐れてペンテレイシア達を切り捨ててでも、鎮圧すべきと言っているようにしか聞こえなかった。だが、腐っても彼女は王である。国内を安定させることもまた、王としての責務であることは重々承知していた。
「···良かろう。今は、報復を控えよう。だが、国内の安定を取り戻した時は、再び報復の軍を編成する」
「はっ、了解致しました。では陛下。まずは、旧マレア領についてですが」
アンティオペの報告を耳に入れながらヒッポリュテは、内心決心していた。
(今は見逃してやる。だが、国内の問題が片付いたら、必ず殺してやるぞ。精々隅で震えているが良いわ)
ヒッポリュテの心は、未だに憤怒の炎で包まれていた。
「へっくち!··誰か噂でもしているのか?」
黒岩島にあるサブダンジョンにて、アマゾネス女王軍総司令だった褐色肌の戦女ペンテレイシアは、ツルハシ片手に小さなくしゃみをする。
現在彼女は、白いつなぎと黄色のヘルメット、〈魔封じの手錠〉を着用し黒岩島地下深くで穴掘り作業に励んでいた。白いつなぎを着ていても、存在感を発揮するその爆乳は、見る人が見れば目を引くかもしれないが、あいにくここにいるのはアマゾネス女王国の兵士だった女性達だけである。
「だ、大丈夫ですか?総司令」
「あ、ああ、大丈夫だ。ところで、どこまで掘れた?」
「はい、フェオール様によると三分の一までは掘れているらしく」
「まだ三分の一か···」
ペンテレイシア達虜囚が何をしているのかというと、カゲマサが提案したサブダンジョン拡大計画の下地作りである。と言っても、予め設計図を作っておいて、そのとおりに掘るだけの単純な作業だ。問題は、間違って外の海へ穴を開けてしまい、海水の流入を招いてしまうことだが、そこの配慮も込めて念入りに黒岩島の大きさや島の地下の大きさを調査した上で掘っているので、海水流入の心配はない。脱走の場合でも、島全体に対物の守護結界を貼っているので、魔力を制限された者達では不可能だ。
「ふ〜、単純な作業とはいえ、少し疲れるな」
「そうですね。捕虜の身なので文句は言えませんが···」
「確かにそうだが」
「はい、皆さん!そろそろお昼時なので、昼休憩ですよ!」
「「え?」」
ペンテレイシアとその部下が話していると、フェオールの叫び声が響いてくる。休憩という、捕虜にはありえない言葉にペンテレイシアのその部下は、頭に疑問符を浮かべるが、呼ばれているので素直に従う。
二人が辿り着いた場所では、多数の虜囚である女性達が皿片手に列を成して鍋の前に並んでいる光景だった。
「今回のメニューは、マヤ様特製のクリームシチューと新鮮な野菜のサラダ、熱々焼きたてのパンです!まだまだ有りますから、有り難くいただきなさい!」
広間の中心でフェオールがメガホン片手に叫んでおり、虜囚達も従っていたことからペンテレイシアとその部下もトレーと皿を受け取り列に並ぶ。
やがてペンテレイシアの番となり、皿へ湯気が漂うクリームシチューと新鮮な野菜がふんだんに使われたサラダ、焼きたての食パンが盛られた。ペンテレイシアは、トレーを持って列の隣に設置されている木で出来た椅子とテーブルに座る。すると、隣にフェオールがトレーと共に座ってきた。
「っ、フェオール殿。先程の呼びかけはしなくても良いのか?」
「ええ、シェヘラリーゼに変わってもらいましたから」
フェオールの言葉にペンテレイシアが後ろを見ると、金髪の女性がメガホン片手に呼びかけていた。
「ね?さっ、食べましょう」
「は、はぁ」
ペンテレイシアは、フェオールに促されるままに木で出来たスプーンを手に取り、クリームシチューを掬い上げる。捕虜の取る食事だ、熱々でも不味いのだろうと覚悟していたペンテレイシアだったのだが。
「っ!?う、うまっ!?」
「ん〜、マヤ様の料理は今日も美味しいですね〜」
フェオールの言葉を他所にペンテレイシアは、食事を続けながら食事の旨さに驚愕していた。通常アマゾネス女王国で雄の捕虜に与えられる食事は、冷えたパンに水一杯のみ。酷いときには、何も与えない時もあるし嗜虐心から動物の糞を喰わせることがある。まさに、劣悪な環境だった。だがこの食事は、中級民どころかどころか宮廷にいる上級民にも余裕で通用代物である。そんなものを捕虜に振舞うなど、ここのトップは何を考えているのか。ペンテレイシアは、本気でそう思っていた。
「不思議ですよね?ペンテレイシア総司令」
「っ!あ、ああ。捕虜が食べて良い代物ではないだろうこれは」
動揺する心を見抜いたように問いかけるフェオールにペンテレイシアは、少し動揺しながらも答える。こんな料理は、もっと高い地位にあるものが食うものだ。
「以前私もここのトップ〈帝将〉に同じ問いかけをしました。捕虜という道具にやる食事じゃない、と。その後に〈帝将〉の話したことですが」
「···なんと言っていた?」
「曰く、道具にも手入れが必要不可欠。手入れを怠った道具は、長続きしない。手入れをしない奴は、道具の貴重性をわかっていない馬鹿。だそうですよ」
「···それでは、我が国の国民全てが馬鹿になるではないか」
アマゾネス女王国にとってオスの捕虜など、消耗品に過ぎない。何時でも使い潰す事のできる道具なので、手入れなど認識の埒外なのだろう。
ペンテレイシアがそんなことを考えていると、いつの間にか皿が空になっていた。どうやら考え事をしながら食事をしていたせいで空になったことに気付けなかったらしい。そして、気付いたと同時に腹の虫が鳴った。
「···フェオール殿」
「何でしょう」
「···お代わりしても、宜しいか?」
「どうぞどうぞ♪」
このあとペンテレイシアは、クリームシチューを二十杯お代わりした。
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