シーマン抗争
誰得なシーマン回、始まるよ。
◆黒岩島近辺の海 海底 カゲマサside
シーマンキングとその手下を軒並み倒して魔石を回収した俺は、再び雷槍片手に海を探索し始めた。だが、物珍しいのは粗方狩り尽くしたのか出てくるのは、普通の魚にちょっと個性を付け足しただけのモンスターだけだった。スポンジを投げられた程度な威力の水球を放ってくるアジに、背中が甲羅ではなく宝石で出来ているカメ、何故か石の槍と石の盾を装備した人間サイズのタツノオトシゴ、下半身はイカなのに上半身が人間というシーマンの亜種のようなモンスターまでいた。
「ここまでいくと、海がユニークモンスター見本市といった感じだな。フヒヒ」
まあ、色々出てきたので魔石ザックザクなのは嬉しい。俺がルンルン気分で泳いでいると、目の前に複数のモンスターが接近してきた。しかもよく見れば、先頭の奴が先程倒した下半身はイカで上半身が人間というシーマンの亜種のようなモンスターではないか。
「キサマカ!ワガハイノブカヲコロシタノハ!」
先頭にいた親玉らしきモンスターは、こちらにカトラスの切っ先を向けながら怒鳴った。他の部下と思わしきモンスターもカトラスを構えてこちらを包囲する動きを見せている。というか、部下はシーマンなんだな。じゃあ、さっきの奴は幹部かね?
俺は、冷静に敵を見据えながら《鑑定》を行った。
名前
種族 スクイードマン
職業 シーマンの変異種 海賊団棟梁
レベル 24
ランク C−
スキル 槍術の達人 水魔法 炭吐き 水生物 再生 身体能力強化 剛力
スクイード、ねぇ。確かイカの英訳だった筈だが、シーマンから変異するとこうなるのか。もしかすると、オクトパスマンやシャークマン、トビウオマン、アジマンとかもいるかもしれない。まあ、妄想だが。
「部下って誰のことだ?シーマンキングとかいう奴なら、先程殺したが」
俺は、先程殺したスクイードマンのことだなと予想しながらすっとぼける。だが、相手の海賊団棟梁であるスクイードマンは、別のことを気に掛けたようで。
「ナ、ナンダト!?デタラメイウナ!シーマンキングハ、ワガシーマンイチゾクノチョウテンナノダゾ!?」
「あ、そっち反応する?しかも出鱈目って、本当のことなんだけどな」
「エエイ、コノウソツキメ!オイ、ヤロウドモ。コイツヲコロセ!」
「Giiiii!!!」
スクイードマンは、俺の回答に腹を立てて包囲させていた部下をけしかける。部下のシーマンは、槍を片手に次々と俺へ襲い掛かった。
「面倒だから省略な。【デス】」
だが俺は、襲い掛かってきたシーマンを即死魔法で全滅させる。即死したシーマンは、白目をむきその場で海上へと浮かんでいこうとする。俺は、その前に亡骸を【ボックス】へと収納した。
「さて、後は貴様だけだな」
「キ、キサマ!ヨクモ!」
スクイードマンは、いかりに任せて槍を振るう。だが、あまりに単純な突きなので容易に回避。俺は、そのままスクイードマンの心臓に雷槍を突き立てた。
「グボゲェ!?」
「呆気なかったな」
(やはり、ランクの差は実力に出てくるな。ランクS+とランクC−とでは、こうも違うか)
俺は、今更ながらこの世界のランクの差に息を呑む。一歩間違えば、自分もこうなっていた可能性があったからだ。俺だって最初はランクCの下級魔人だったのだから。
俺がランク差に戦慄していた時、心臓を貫かれたスクイードマンが口から青い血を流しながら懸命に口を開く。
「ク、クックッ、ク。ワガハイヲタオシテモ、シーマンノセイリョクハマダマダ」
「うるせぇ。さっさと死ね。【デス】」
俺は、面倒くさくなり【デス】でスクイードマンの息の根を止めた。死体を【ボックス】に入れた後、先程スクイードマンが発言したことを思い出す。
「シーマンの勢力は、シーマンキングやスクイードマン海賊団の他にもいるのか。だとすると、他にま変異種やらがいるかもしれんな。それに、下手に残して攻めてこられたら面倒だ。行ってみるか」
こうして俺は、モンスターの魔石集めと同時に将来敵になることを危惧して、シーマン勢力を壊滅させることにした。
「ギョギョギョ!オレハ、シーマンジェネラル!キングナキイマ、シーマンノチョウテンニノボルノハコノオレ」
「【デス】」
「グギョン!」
五十体のシーマンと十五体でランクDのシーマンウォーリアー、五体でランクD+のシーマンパラディンを率いるランクC−のシーマンジェネラル一味。僅か二十秒で壊滅。
「ギョーギョー!ワタシハ、シーマン魔法連合総帥ノシーマンセイジ!コノ叡智ヲ持ッテ、地上ヲ征服シ人間共ヲ家畜ニシテ」
「【デス】」
「ギョギョ〜〜!?」
シーマン八十体にシーマンマジシャン四十体、ランクD−のシーマンメイジ二十体、ランクDのシーマンプリースト十五体を率いるランクCのシーマンセイジが作った組織、シーマン魔法連合。勢力の規模でシーマンキング率いるシーマン軍団を上回っていたが、俺の魔法には敵わず三十秒で壊滅。
「シーマンキング?シーマンセイジ?チガウ!コノウミノハケンヲニギルハ、シーマンファングノオサタルコノシャークマンサマイガイニ」
「ふん!」
「ハギョ〜〜〜!?」
シーマン界では、十数体と少数だが凶暴で個々の実力が高いことで知られるチームシーマンファング。構成員は、ウツボやサメといった肉食の魚に変異したシーマンばかり。ランクは、皆Cであった。だが俺のスキルで強化した腕力によって、胴体に風穴を開けられ一人残らず絶命。よって、チームシーマンファング壊滅。
「やり過ぎたな」
あれから三時間後。俺がいるのは、過去に沈み今では海底都市跡となった場所。俺は、一番大きな建物の上で座りながら一人愚痴る。
「つい楽しくなって、シーマン共の中でも有数の組織を潰しまわって、奴等の警戒心を上げてしまったか」
シーマンファングを潰したことを皮切りに俺は、少しハッスルしてしまいシーマンの組織をその後十数団体程潰してしまったのだ。目ぼしい成果はなかったのだが、ストレスが溜まっていたのか勢いのままに次々と潰しまわっていったのだ。
その結果、俺は面倒な自体に直面している。
「残っていたシーマンのグループが恐怖を覚えて結集し、シーマン大連合を創設するとはなぁ」
俺の眼下には、大量のシーマンが槍を構えて進軍し来ていた。
大多数は、普通のシーマンだが上位種シーマンもいるようで、ウミヘビやイルカ等のモンスターを従えたシーマンテイマーやモンスターに騎乗したシーマンライダー、指揮官のシーマンコマンダー等である。
変異種もいるようで、上半身がタコになっていて下半身は人間の脚というスクイードマンとは反対のオクトパスマンや鼻が異様に長いカジキマン、頭が特徴的なシュモクマン、何だったら妙に平べったい身体のヒラメマンやカレイマンまでいる。もはや、シーマンとはなんぞや?と言わざる負えない多彩さだ。
俺への恐怖が異常だったのか、雌のシーマンや子供のシーマンまでも従軍させている。その数、約三万。
「まあ、俺の自業自得だししょうがないよな、うん。大量の魔石と死体が手に入ると思えば、ボーナスステージだ」
魔石は、ダンジョンモンスターとして召喚する際に使うのは勿論のこと、魔道具や俺のスキル《アンデッド創造》の触媒にもつかえる。死体も言わずもがなだ。
「「「Giiiiiii!!!」」」
俺が自嘲気味に笑った瞬間、シーマン達が武器を構えて突進してきた。いよいよ開戦のようである。シーマン大連合兵士のシーマンは、皆俺を親の仇かのように睨みつけながら泳いで突進してくる。まあ顔がほぼ魚類なので、よくわからないが。
「悪いが、俺は生きたいんでな。反撃させてもらおう。【アイスニードルシャワー】」
俺は、突撃してくるシーマン達の上へ手を翳す。すると、幾つものアイスブルーの魔法陣が出現した。その次の瞬間、次々とソフトボールサイズの氷の針がシーマン達に襲い掛かった。
「グギョアァ!?」
「GYOGYO!?」
普通のシーマンも、上位種のシーマンも、変異種も皆平等に死んでいく。ある者は、氷の針に心臓を撃ち抜かれて。またある者は、恐怖のあまり逃げようとして背後から脳を貫かれて絶命した。
「ギョ、ギョ、ギョア〜〜〜!」
それでも果敢に俺に近付こうと足掻いたシーマンもいた。仲間だったシーマンの死骸を盾に泳いでいく者や、海底都市跡の建物に身を潜めて前進する者、モンスターに騎乗し一か八か迅速な突破を試みる者。その中で俺にたどり着いたのは、三番目のモンスターに騎乗した者だった。
「ギョア!」
カジキマグロのようなモンスターに騎乗したシーマンライダーは、肉体のあちこちから青い血を垂れ流す満身創痍状態だったが、懸命に俺に向けて槍を突き立てようとする。対して俺は、まずシーマンライダーの持っていた槍をへし折り穂先を奪う。そして、穂先をシーマンライダーの首元へと突き刺し、捻って頭を切り飛ばす。カジキマグロも穂先で目玉ごと頭を突き刺してとどめを刺した。
その間、約二秒。ランクS+の領域に立ったからこそ出来る早業である。
「油断した。俺の悪い癖だな。次は無い」
俺は、更に【アイスニードルシャワー】の量を増やす。それによって、益々死者を増やしていくシーマン大連合。死者の数は、一万をゆうに超え直に二万へと届こうとしている。
そんなことなどつゆ知らず、俺はシーマン達を抹殺していくがスキル《存在感知》に反応があったことで、そちらを確認する。
「ん?妙に力が強そうなのが後ろから来ているな。しかも、微妙な認識阻害の効果を受けてやがる。はは〜ん、そういうことか」
恐らく今俺に襲いかかっているシーマン達は、大規模な陽動で本命の精鋭部隊は、背後から俺を強襲といった感じだろう。しかし、シーマン一万以上を囮に使うとは、思い切った決断だ。
俺は、そう言いながら【アイスニードルシャワー】を出しっぱなしにしながら敵精鋭部隊の到着を待つ。そしてついに、敵精鋭部隊が俺のもとにたどり着いた。
「ギョギョ、セナカガオルス」
「こんにちは!死ね!」
俺は、顔を出したシーマンの頭を雷槍で貫いた。顔を出したシーマンは、あっと言う暇もなく絶命する。その肉体は、雷撃で焦げていた。
「ギョア!?マサカ、カンヅカレテイタノカ!?」
「その通り、だ!」
続いて素手のシーマンチャンピオンの腹に雷槍を突き立てる。シーマンチャンピオンは、たちまち雷撃の餌食となり全身黒焦げにしながら絶命。
「ク、クソ!」
「ブカノカタキダ!」
続いて襲いかかってきたのは、カジキマンとシュモクマン。カジキマンは、鋭く尖った鼻を。シュモクマンは、サメとしての鋭利な歯で俺を倒さんとする。だが、遅い。
「【アクアボム】」
「ッ!?オレノカラダガ!?」
「フ、フクランデ?」
「「グギョッ!?」」
カジキマンとシュモクマンの身体が突如膨らんだと思ったら、直様爆発し二体は息絶えた。
これには、絡繰がある。俺の【アクアボム】は、水の爆弾を飛ばすものだが、大きさをある程度コントロール出来る。故に、コイツ等が出てきた瞬間、飴玉サイズに圧縮した【アクアボム】を二体の体内にいれて起爆させたのだ。この間、約三秒である。
「チ、チクショー!」
「ヤケクソダァ!」
「シニサラセ!コノバケモノメ!」
最後にやってきたのは、地面に擬態して近付いてきたヒラメマンやカレイマン、そして八本の腕すべてに武器を装備して襲い掛かってきたオクトパスマン。特にオクトパスマンは大連合最強かな?唯一のランクBだし。
俺は、即座に雷槍でヒラメマンとカレイマンを刺突。平べったい身体に風穴を開けられた二体は、電撃にさらされながら絶命した。
「さて、後はお前だ」
「ギュ〜〜、オノレェェ〜〜!クラエ、タコアシ闘法!八本嵐ィィ!」
最後に残ったオクトパスマンは、八本の武器を器用に使いこなし嵐のように荒ぶった連撃を浴びせる。だが俺は、一発一発を躱しながらオクトパスマンの顔面を蹴り上げる。
「ブフッ!?コノ、ブーー!」
オクトパスマンは、目眩ましの為に炭を吐いて視界を封じようとする。だが俺から見たら丸見えで、後ろに回ろうとしたオクトパスマンを雷槍で突き刺した。
「グギョッ!オ、オノレェ!コノアクマメェ!マツダイマデノロッテヤル!」
オクトパスマンは、そう叫びながら雷撃に包まれ死亡した。
「さて、敵総大将の首を取るか」
オクトパスマンの叫びを無視した俺は、そう言ってシーマンの死体を回収しながら敵本陣へと向かっていった。
しかしそこで想定外の事態が起こる。
「いない。逃げたのか?」
シーマン大連合の本陣には、誰もいなかったのだ。本陣前には、護衛のシーマンがいたが総大将がいないことに気付かなかったらしく、いないと分かって動揺していた。その後殺したが。
「チッ、厄介だな」
俺は、舌打ちをしながらシーマンの死体回収を急いだ。
南方諸島中央部にある無人島。そこには、三体のシーマンと一人の人間が話し込んでいた。
「ホントウダロウナ?オマエニシタガエバ、イマヨリサラニチカラヲテニイレルコトガデキルトハ」
「そやそや。アンタ等が言っとった無法な侵略者も討ち取れる力がなぁ」
「···イイダロウ」
三体のシーマン、シーマン大連合の中心メンバーであった三体は、精鋭部隊がカゲマサに強襲を掛け負けたタイミングで、この人間の手引きによって生還していたのだ。彼等とてあっさり引いたわけではない。死にゆく同胞に涙を流しながら、苦渋の思いで撤退したのだ。今の彼らの胸中に渦巻くのは、シーマン大虐殺を行ったあの侵略者への復讐のみである。
「オボエテオレヨ。チカラヲテニイレタラ、カナラズフクシュウヲハタシテヤルワ」
「うんうん、恨み全開で宜しいことで。じゃあ、この〈破壊の黒液〉を飲むんや」
「ハカイノコクエキ?」
人間が差し出したのは、おどろおどろしい黒色の液体だった。三体のシーマンは、思わず引いてしまう。
「そや。簡単に言えば、凄いパワーアップが出来る液体や。デメリットは、精神が負けたら自分が死ぬで」
「ナンダト!?」
「まあ最後まで聞きや。精神が負けたら死ぬ。しかし勝てたら、あの侵略者なんか目じゃないほど強くなれるで」
「オレノセイシンシダイ、カ。····イイダロウ」
三体のシーマンは、少し悩んだが復讐という目的を持った彼等に躊躇はなかった。人間から、〈破壊の黒液〉を受け取ると一気に飲み込む。
そして三体は、その場に崩れ落ち、もう二度と立ち上がることは無かった。
「···プッ。残念、嘘なんよ。さっきの話全部。ワイがシーマンに肩入れする訳ないやん」
人間、“冥府教”上級幹部“騎士”であるライ·ランスロットは、舌を出しながら三体のシーマンの死体を嘲笑した。
たった今シーマン三体が飲んだ液体は、断じてパワーアップの為の物ではない。
「これはな?本当は〈破魂液〉ちゅうて、魂を破壊するためだけに作られた物なんやで?単純やろ?経験値は、得られへんけど」
ライ·ランスロットは、〈破魂液〉の入ったビーカーを懐に仕舞うと、三つのシーマンの死体を前でスキルを発動させた。
「《多魂操王》。ワイの中にある数ある魂の内一つを、この三つの死体に入れるで」
すると、ライ·ランスロットの身体から三つの半透明な球体が出てきたではないか。その三つの半透明な球体は、ゆっくりとシーマンの三つの死体へと入っていった。次の瞬間、死んだ筈のシーマン達が立ち上がったではないか。
「よお、ワイ。新たな肉体はどうや?」
「···ん〜。あまり性能は良くないな」
「まあ今回は、あまり戦闘力必要ないし」
「そうそう」
「ん。ちゃんと魂は安定しとるようやな」
ライ·ランスロットはシーマン三体、否。新たな“騎士”三人の誕生を見届けた後、不敵な笑みを見せた。
「さあ、中央部を更に盛り上げるで?死の力もたんまり溜まってワイらも楽しめてお得やからなぁ」
その笑みは、不敵さと不気味さが同居した笑みだった…。
シーマンは、最後まで搾取されてしまいました。
ライ·ランスロットが何かを企んでいる模様。
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