暗躍する冥府教、キレたヒッポリュテ
難産でした。
◆アマゾーン島上空 カゲマサside
俺は、アマゾーン島上空を必死に飛び回った。スキル《気配隠蔽》や《魔力隠蔽》を駆使して、俺の存在を察知されないように探し回った。
だが、いくら《鑑定》を島中の人間に掛けまくっても、ライ·ランスロットという名前の人間は存在しなかった。それどころか、“冥府教”の文字も無かったのだ。
「糞ったれが···。やはり、もうこの島から出ていたのか」
俺は、散々探し回った結果ライ·ランスロットは、既に島を出たと結論付けた。島の細部まで見て回っても、存在すら発見出来なかったからには、もはやこの島には居ないとするのが自然だ。
俺は、発見出来なかったことに歯噛みしながら島から飛び去る。
このとき俺は、致命的な失敗を犯した。島の細部を探した程度で全てを探し終えたと錯覚してしまったのだ。
件のライ·ランスロットが島から出たのでは無く、島の地下深くに潜伏していた事など、当時の俺には予想し得なかった。
◆アマゾーン島地下深く 忘れられた空洞
「ふ〜、やっと見つけられたわ。まったく、ホンマにエゲツないほど深い所に放置されとるな?よっぽど神話時代の英傑様達は、コイツが怖かったらしいねぇ?ここまで深い所に化石として残っとるとは」
アマゾーン島の途方も無い地下深くにある空洞。そこに、ライ·ランスロットの姿はあった。その姿は、女性の物ではなく飄々とした男性の姿だった。
ライ·ランスロットは、ニヤニヤと笑いながら空洞の奥に鎮座する巨大な岩盤に近付く。
「しかし、ホンマに盟主もエゲツないわぁ。こんな怪物の遺骸をたかが南方諸島壊滅の為に使い捨てようとするとは。ワイ本体なら、何とか復活させて戦力に加えようとするけどなぁ」
ライ·ランスロットは、自分達“冥府教”の盟主たる“王”の采配に苦笑した。自分達の本体すらも行わない所業に呆れたのだ。
「じゃあ、早速削り出しましょか。デッカいから大変やわぁ」
ライ·ランスロットは、腰に挿していた剣を抜き払うと、岩盤に向けて技を放った。
「《冥針剣·針山地獄》」
床から生える無数の針。どの針も人間大の大きさで、太さも丸太の如き太さだった。もはや、針というより巨大な弾丸である。
「ほな、いけ〜」
ライ·ランスロットが剣を振ると、弾丸が如き無数の針は一斉に岩盤へと発射された。無数の針は、弧を描きながら岩盤に突き刺さっていく。岩盤の中心部分を避けながら。
「うしっ。粗方刺さったな?じゃあ、採掘や」
ライ·ランスロットの言葉と同時に、無数の針は回転を始めて岩盤を削っていく。
やがて全ての針が、ライ·ランスロットの望む深さまで彫り終わると、ライ·ランスロットは筋肉質とは思えない華奢な腕で削り出した岩盤中心部分を持ち上げた。
「よっしゃ、採掘完了や。さっ、“女王”はん?ちゃっちゃと【ゲート】開けてくれや」
ライ·ランスロットは、岩盤を持ち上げながら何もない空間に声を掛けた。すると、何もなかった空間に巨大な【ゲート】が現れる。ライ·ランスロットは、ニヤニヤ笑いながら【ゲート】を潜っていく。
【ゲート】をくぐり抜けた先には、何もない一面真っ白の空間だった。
「やぁ〜、ホンマに大変だったわ。あの空間に行くまでに、追手にバレるかヒヤヒヤしたんやで?ワイ」
「何言ってるザマス、“騎士”。さっさとソレを渡すザマス」
掘り出した岩盤を床に置きながら肩を回すライ·ランスロット、“騎士”に声を掛けたのは、“女王”と呼ばれた黒いドレスを身に纏った幼女で、その表情は不快感に満ちたものだった。
「はいはい、渡す渡す。ホレ、お望みの化石やで?満足やろ?」
“騎士”は、床に置いた岩盤を引きずって“女王”に渡した。“女王”は、ピキピキと頬を引き攣らせながら岩盤を受け取る。
「ん。確かに受け取ったザマス」
「で、それどうするん?使い捨てにするとは聞いとったけど。操り人形にでもするんか?」
「“王”が言うには、一時的なアンデッドにするようザマス」
「ふぅん」
“騎士”は、興味なさげに相槌を返す。一方の “女王”は、ワクワクといった表情で岩盤を見据えていた。
「しかし堕ちたもんやなぁ。神話の時代に勇者に敗れた竜が、今じゃ一組織の盟主に操られるアンデッドと成り果てるとは」
“騎士”は、気怠げな目を岩盤の中心へと向けた。そこにあったのは。
山をも凌駕する巨体を誇るであろう、巨竜の化石だった。
◆アマゾネス女王国 王城内会議室
アマゾネス女王国の王城にある会議室、その部屋に再び国の重鎮達が集まっていた。
「で、余が離れにて休養している間、軍属魔導師部隊の最高顧問であるフェオール以下配下の戦士十数名が行方不明と?」
重鎮達を呼び出したのは、今や破裂するのではないかと危ぶまれる程額の血管を浮き出させている女性、アマゾネス女王国女王ヒッポリュテ·アマゾネスである。
ヒッポリュテ·アマゾネスは、今にも暴れだしそうな己の肉体を理性で押し殺しながら、部下達に問いかける。
「申し開きはあるか?ペンテレイシア、アンティオペ」
「···はっ。此度の不手際、全て私の責任。処分は如何様に」
「ペンテレイシアと同じく、ですわ。陛下」
女王軍総司令ペンテレイシアと宰相アンティオペがその場に跪き、裁きを待つその姿に毒気を抜かれたのか、ヒッポリュテは少し怒りを抑えながら口を開く。
「···ふん、まあ良い。余もそこまで非情では無い。それで、調査結果はどうだったのだ?ペンテレイシア」
「はっ!現地を調査しました所、フェオール殿の館は全焼。魔力の後を発見しましたが、フェオール殿の者ではなく、別の存在の物でした。そして、鼻の効く部下によれば」
ペンテレイシアは、一旦言葉を切った後に息を整えながら言葉を続ける。
「館内と館外から同じ雄の匂いがした、と」
「っ!チィィ!!」
その言葉にヒッポリュテは、激情のままに目の前のテーブルを蹴り飛ばした。テーブルは、部屋の隅まで飛んでいき粉々になって床に散らばってしまった。
「また、またなのか?また私は、男に愚弄されることになるのか?ペンテレイシア、アンティオペ」
「いえ、いえ!陛下!コソコソと動く軟弱者に陛下は負けません!」
「そうです!我等が陛下が、そのような雄に負けようはずがございません!」
ヒッポリュテは、顔を片手で覆いながらペンテレイシアとアンティオペに問う。問われたペンテレイシアとアンティオペは、必死に主が強者と肯定した。
ヒッポリュテは、必死に自分を肯定するペンテレイシアとアンティオペに目もくれず下知を下す。
「厳命である。余の厳命である。探せ。余の国土を荒らし、民を攫った不届き者を必ず探し出せ。そして、余の前に引きずり出せ。必ず。余自ら消炭にしてくれるわ!」
「「御意!!」」
ヒッポリュテの厳命にペンテレイシアとアンティオペを始めとした国の重鎮達は、揃ってヒッポリュテに平伏し大声で応えた。
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