南方諸島国家からの使者
難産でした。
◆ダンジョンコアルーム カゲマサside
それは、俺がコアルームにある自室でコタツに入りながら蜜柑を食べていた時だった。
『ちょっと、カゲマサぁ!いる!?』
「おわぁぁっと!?」
いきなり自室に響いた声に驚いた俺は、蜜柑を取り落とし足をコタツの脚部分にぶつけてしまった。俺は、暫く悶絶したあと現れたモニターへ目を向ける。
「おい、ユラァァ!驚かせるな!蜜柑落としちゃっただろうが!」
『そんなのどうでも良いでしょうが!』
そう怒鳴るのは、ピンク色の髪で右眼を隠し扇情的な服を着た女性、ダンジョンマスターのサキュバス、ユラだった。ユラは、まだ俺がダンジョンマスターとして弱かった頃に敵対していたダンジョンマスターだったが、紆余曲折あって形式上俺の部下になっている。今は、ダンジョンマスターとして領主として新エルザム神聖国の貴族様だ。
因みにエルザム神聖国というのは、簡単に言うと差別や犯罪が蔓延していたが俺の縄張り内で騒ぎをおこした貴族三男坊を起爆剤に帝国によって滅ぼされた哀れな国である。今は、新エルザム神聖国として再スタートを切った。
「で、何か用事か?厄介事でもおこったか?」
『あ、そうだった!ちょっと聞きなさいよ!』
ユラは、プンスカプンスカと怒り心頭といった雰囲気で告げた。
『今エルザムの立て直しで忙しいってのに、南方諸島から使者が来やがったのよ!国が滅びそうだから助けてほしいって!』
俺は、その言葉に眉をひそめた。
◆新エルザム神聖国 首都メーカ
セブンス帝国の庇護と新たな国主セレス・ミレーリアのもと新たなスタートをきった新エルザム神聖国。国内から一気に5つものダンジョンが現れたことを機に、今や帝国に次ぐダンジョン大国として名を馳せていた。ダンジョンから産出される貴重な鉱石、薬草、武具等は新エルザム神聖国の経済を徐々に回復させている。
そんなわけで順調に復興の道を歩んでいる新エルザム神聖国だが、国主であるセレス・ミレーリアは首都メーカにてとある客と相対していた。
「お初にお目にかかります。私は、南方諸島にございますフィリア王国外務卿、マラヤ·トロンボと申します。この度は、急な会談を受けていただき感謝の言葉もありません」
「新エルザム神聖国教皇、セレス・ミレーリアと申します。それでマラヤ·トロンボさん。一体どんな御用ですか?」
セレスは、頭を下げるローブを聞いた老人を見据えながら質問を投げ掛ける。マラヤと名乗った老人は、ゆっくりと頭を下げながら口を開いた。
「はっ、今回の会談を申し込んだのは、我が国の直面している危機を救って頂きたく思った次第で」
「危機、ですか?」
「はっ、我がフィリア王国は、現在敵国であるアマゾネス女王国に侵攻を受けております。アマゾネス女王国の軍隊は、一人一人がとても強く我が軍ではとても太刀打ち出来ませぬ。どうか、どうか!我が国を救っていただけませぬでしょうか!?」
そう言ってマラヤは、椅子から立ち上がった後床に膝を付き頭を下げた。俗に言う土下座だった。その必死さにセレスは、少し引きながらも背後に立っていた宰相のリーゲ侯爵に目を向ける。リーゲ侯爵は、無言で首を横に振る。セレスは、リーゲ侯爵の合図に頷きながら土下座をするセレスに目を向けた。
「マラヤさん、貴方のフィリア王国のご意向はわかりました。とても切羽詰まっていることも」
「では!」
「しかし我が国は、現在立て直しの真っ最中です。軍隊もそれほど精強でもありません。とてもじゃありませんが、フィリア王国に支援できるほどの力がなにのです」
「···そうですか」
「ところで、質問を返す様ですがセブンス帝国には要請したのですか?彼の国ならば、それ相応の支援を送ってくれると思いますが」
「···セブンス帝国には、以前から支援を受けております。しかしその支援もだんだん減っている状況です。彼の国は、我が国への援助に旨味を無くしたと私は判断しております」
「···そうですか」
その言葉にセレスは、少し俯きながらも考える。出来る事なら助けたい。こうまで他者に縋っている姿を見ていたら司祭時代を思い出してしまう。様々な思いが巡った結果セレスは、一つの決断を下した。
「マラヤさん、我がエルザム神聖国はお助けできませんが、私の方から帝国に掛け合ってみましょう」
「っ!本当で御座いますか!?」
「はい、微力を尽くしたいと思います」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
マラヤは、老人らしからぬ速さでお辞儀を繰り返した後本国にこのことを報告すると言って風のように去っていった。
マラヤが出ていった後リーゲ侯爵がセレスの背後に寄って口を開く。
「良かったのですかな?」
「私は、掛け合うだけです。断られたら仕方ありません」
セレスは、少し悲しそうに告げながら席を立つ。そしてその場から歩き出した。
「リーゲ侯爵、帝国外務省に連絡を。至急フィリア王国について話がしたいと」
「御意」
そう言って二人は、部屋から出た。
その直後に部屋の隅にある影から一体の悪魔が出てきたのだ。
「···なんと、至急ユラ様にお伝えしなければならぬ」
悪魔は、そう言ってその場から消え失せた。
◆ダンジョンコアルーム カゲマサside
『って言ってたのよ!』
「なるほどな」
ユラの話に俺は、頭をひねる。フィリア王国とやらは、聞いたことがない国だ。アマゾネス女王国は、何となく予想できる。どうせ、筋肉ムキムキな女達がヒャッハーしている国だろう。
「分かった。連絡ありがとう。もう切っていいぞ」
『ちょっと!私の愚痴も聞いて行きなさ』
ユラが他にも言いたそうだったが無視して通話を切った。俺は、少しため息を吐きコタツから出ると、とある男の元へ向かう。
「お〜い、シドル君。ちょっと聞きたいことがあるのだが」
「はっ、何なりと」
シドル⋅ヴァレンスリー。今は滅びた南方諸島にあるレシフェ王国軍陸戦団団長だった男で、現在は俺の配下の魔人として活動している。役職は、迷宮近衛隊の隊長の一人だ。
「実はさ、フィリア王国とアマゾネス女王国について知りたいんだよね。どうかな?」
「ふむ、フィリア王国はこれといって目立った特徴のない普通の小国といった感じでしょうな。あえて言うなら、アークダール魔導国と近いことから魔法技術開発が盛んな国かと」
「ふぅん、アマゾネス女王国は?」
「彼の国は、アマゾネスと呼ばれる種族が治める国ですな。一人の女王によって統治されており、女王の元大国にも劣らない精強な軍隊がおります。他にも農業や商業、技術も高くあらゆる方面で優秀な国ですな」
「なんだよ、その辺境らしからぬ国家は」
俺は、あまりのスペックの違いに驚いた。あと、アマゾネスが敬称じゃなくて種族名だったことにも。
「ありがとう、よくわかったよ」
「はっ!お役に立てて光栄にございます」
シドルの敬礼を見ながら俺は、コタツに入るために自室へと戻っていった。
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