ダンジョン防衛作戦、第三十四階層④
◆ダンジョン第三十四階層 神殿跡 三番領域
ダンジョン第三十四階層の神殿跡、その一角にてシャンガンは未だに戦闘を続けていた。
「おらぁ、喰らいやがれ!《破聖衝波》!」
シャンガンが拳を突き出せば、紫色の波動が発生し二人の天使へと襲いかかる。
「なんの!」
「こんなの当たらないよ〜だ!」
相対する二人の天使、ザドキエルとラグエルも並の存在ではない。下級とはいえ、このダンジョンにおける幹部なのだ。二人共、スキル《魔力障壁》を張り防御する。
「ハッハ〜!まだまだ行くぜ〜!」
シャンガンは、防がれたことに腹を立てず、逆に嬉しそうにしてザドキエルとラグエルに突貫。拳を振るう。
「嬉しいぞ!魔王朝には、俺と同レベルで戦える奴が少ないからな!ここまで昂ったのは久しぶりだ!」
「そうですか、私達は嬉しくありませんけど」
「も〜、さっさと死ねよ〜!」
対するザドキエルとラグエルは、うんざりといった様子である。彼女等ダンジョンモンスターから見てみれば、強い敵など自分達の心臓、コアを狙う恐ろしい敵にしか見えていない。
「そう言うな!もっともっと楽しもうぜ!」
「くっ、貴方本当にダンジョンマスターですか!もう少し命を惜しみなさい!」
「はっ!生憎これが俺の性分でなぁ!」
ザドキエルの非難にそう答えながらシャンガンは、ザドキエルに右ストレートを放つ。ザドキエルは、首を傾けて躱すがシャンガンは構わず連撃を行う。そこに。
「おら〜!ザドキエルばっか狙うな〜!【サンダージャベリン】!」
「うおっと!」
痺れを切らしたラグエルが雷魔法をシャンガンに叩き込むが、シャンガンはバク転で回避。しかし【サンダージャベリン】がシャンガンへ追尾を始める。
「ああ!?追尾だぁ!?」
「アハハハ、アタシも学ぶのだ〜!」
シャンガンは逃げながら怒鳴るが、ラグエルは意に介さない。シャンガンは、追尾してくる【サンダージャベリン】を躱しながら再びザドキエルに迫る。
「ならばこうしてやる!【サンダージャベリン】を喰らいやがれ!」
「あら」
シャンガンは、ザドキエルの目の前で跳躍、彼女を飛び越える形で逃げる。すると、【サンダージャベリン】が向かう先には、ザドキエルが。
「無駄よ。【ウッドシールド】」
しかしそこは幹部。即座に樹木魔法で樹木の盾を生み出し、【サンダージャベリン】を防ぎきった。
「チッ、防ぎやがった」
「あんなもので私を倒せたとお思いで?」
「む、それだとアタシの魔法がショボいみたいに聞こえるじゃん!撤回を要求する〜!」
ザドキエルの言葉にラグエルは、プンスカと怒りながらザドキエルに食って掛かる。ザドキエルは、のらりくらりと躱しながらシャンガンを見据えた。
「ところで侵入者シャンガン、貴方は何故このダンジョンに潜ったのです?宝ですか?マスターと敵対するためですか?」
「それ今聞くか?まあ、いいか。別にバレてもいいし」
突然の質問に若干呆れたシャンガンだが、気を取り直して話し始める。
「俺ともう一人がこのダンジョンに来たのは、戦力把握と仲間に引き入れる価値があるかどうかのテストだな。うちの上層部は、随分とこのダンジョンのマスターを気に入ってるらしい」
「我がマスターを、気に入ってるですって?」
「上層部は、とりわけ実力主義が顕著なところだからな。実力を持つ者がいれば勧誘したがるんだよ」
シャンガンの言葉にザドキエルは、少し苛立ちを覚える。まるで自分たちの神が、上層部とやらに下に見られているような感覚だったのだ。
「さて、理由は話したぜ?さっさと続きをしようか!」
シャンガンが拳を構えながらザドキエルとラグエルに叫ぶ。ザドキエルとラグエルも叫びを聞いて戦闘態勢に移ろうとし、気付いた。
「「あ」」
「あ?なんで上を見てんだ?」
シャンガンは、突如上空へと顔を向けた二人に困惑し、自身も後ろを向いて上空を見てみる。そして。
左腕を熱線に貫かれた。
「ッ〜〜〜〜!」
あまりに突然の出来事で反応出来なかったシャンガンは、慌ててその場にあった岩陰に隠れる。
(な、なんだ今のは!?今の俺でも見えなかったぞ!?感覚から見れば熱線のようだが···っ!?)
岩陰に隠れて様子を窺っていると、上空から一人の天使が舞い降りてくる。その天使は、全身が炎で包まれており、周りには複数の光球が浮かんでいた。
(奴か!?俺に熱線を放ったのは!?)
こんなシャンガンの焦りを他所に天使達は、会話を始めだした。
「ミカエル様、あちらの処理は終わったのですか?」
「ああ、熱線一本で終わったさ」
「へぇ〜、ミカエル様すご〜い!あれ?それだとラファエルちゃんは?」
「ラファエルは、あちらで残った戦闘天使達を纏めて軍隊を編成、こちらに向かってくるそうだ。それよりもザドキエルにラグエル、貴様等がさっさと侵入者を排除せんから私が出張ることになるのだ!」
「も、申し訳ありません!」
「ごめんなさ〜い」
ミカエルと呼ばれた天使は、ラグエルの適当な謝罪に口端をヒクヒクさせながらも、シャンガンの隠れる岩陰に向きを変えた。そして。
「【熱雨】」
ミカエルの側に滞空していた光球が一斉にシャンガンへ殺到する。シャンガンは、直様岩陰から退避するが【熱雨】は、それ以上の速さで飛んでくる。
【熱雨】が発射され続けて約十分後、辺り一面はすっかり焼け野原となり森の一角は全焼してしまった。
シャンガンはというと、左腕の他右腹部や右膝を貫かれているものの、未だに焼け野原の上で立っていたのである。
「···まさか、私の【熱雨】を浴びて生きているとはな」
「あちちちち、ヤバかったぜ。ギリギリ急所は外したが、左腕と右膝をやられちまった。これじゃあ上手く動けんぞ」
ミカエルは、シャンガンが生き残ったことを純粋に驚いていた。一方のシャンガンは、息が上がっているがまだ余裕は残している。
「ならばさっさと降伏しろ。そうすれば、生き残れるかもだぞ?」
「降伏?···ふ、ふふふふふふ」
ミカエルから降伏を促されたシャンガンは、顔を伏せて薄気味悪く笑う。
「何がおかしい」
「いや、可笑しいんじゃない。俺は、そこまで追い詰められたのだと自覚しただけだ」
「?だからなんだと言うのだ」
シャンガンは顔を上げる。その目に宿るは、諦めではない。それは、勝利への執念。飽くなき勝利への欲望だけだ。
「ならば見せてやる!我が兄より賜った、この〈第三の邪眼〉の力をなぁ!」
シャンガンが取り出したのは、禍々しい目玉。それを額に取り付けたのだ。
そして、シャンガンを中心に眩い紫色の光が辺りを包み込む。
紫色の光が引き、視界が回復したミカエル達は、三者三様の反応を示した。ザドキエルは驚愕、ラグエルは困惑、ミカエルは無表情。
彼女等が見たのは、〈第三の邪眼〉を取り付けて禍々しいオーラを纏ったシャンガンだった。
「さあ、始めよう!正真正銘の殺し合いをなぁ!」
シャンガン戦はあと一、二話で終わる筈···!
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