ダンジョン防衛作戦、第三十四階層③
な、難産!
◆ダンジョン第三十四階層 神殿跡
「チッ」
神殿跡の周辺を取り囲むように生えている森の一角にて、大勢の戦闘天使が飛び回っている中、〈狂星〉の一人であるミカエルが暴れるシャンガンとセイを見て苛立ちを隠せずに舌打ちした。側にいる戦闘天使達は、ビクビクしながらミカエルの指示を待つ。
「何だ、このザマは」
「み、ミカエル様?」
「このザマはなんだと聞いている。たかが二人を相手に、数の優位を活かせないとは」
ミカエルの静かな責め立てに部下の戦闘天使達は、オロオロしながらも一人が前に出て答えた。
「や、奴等は、一人一人がとんでもない力を持っており、集団で襲っても返り討ちにされたのです。我らでは、とても太刀打ち出来ません」
その言葉を聞いたミカエルは、更に機嫌が悪くなり舌打ちの数も増えていく。
「み、ミカエル様。奴等は、このダンジョン第三十四階層が始まって以来の強敵。ここは、ミカエル様かラファエル様他〈百魔〉の方々の力が」
「わかっている!」
部下の忠言に怒鳴りながら返すミカエル。しかし、その体は震えていた。
何故震えているのか。ミカエルが弱いから?ミカエルが臆病な性格だから?
否。ミカエルは、怒っていた。情けない部下達に。それを納得している自分に。彼女の神であるマスターに完全な勝利を捧げることのできない自分に。
「ふぅー。····ああ、我等が神よ、我等が主よ···、我らの未熟をお許しください」
そう言ってミカエルは、愛しのマスターに祈りを捧げて戦いの場に向かった。
◆神殿跡周辺の森 三番領域
「はっはぁーー!!」
そんな威勢の良い掛け声とともに戦闘天使達を殴り飛ばしていくのは、魔王朝の第三軍団所属の魔族でダンジョンマスターのシャンガンである。その肉体は、魔王朝起源の《闇纏い》という技で紫色に変色していた。
「どうしたどうしたぁ〜!これポッチの反撃しかできねぇのか!!」
シャンガンは、戦闘天使達を蹴散らしながら挑発する。それに釣られて戦闘天使達は、シャンガンへ突撃するが···。
「《破聖衝波》!!」
シャンガンの《破聖衝波》によって、全て絶命してしまった。絶命していった戦闘天使達を見てシャンガンは、少し残念そうな顔になりながらも、周辺を散策を始める。
「どいつもこいつも弱いな。だがこれだけ暴れれば流石に幹部クラスがくるだろうさ」
獰猛に笑いながら散策を続けるシャンガン。その時だった。
頭上から雷の刃が飛来したのは。
「っ!おっとぉ!」
シャンガンは、飛来する雷の刃に気付き、即座にバックステップ。雷の刃を回避した。
「へへ、ようやくお出ましかぁ?」
「あら、それだけじゃありませんよ?」
「は?··っ!」
突如聞こえた声に驚きながらもシャンガンは、その場から跳躍して上空に退避した。その直後に地面から無数の樹木の棘が生えたではないか。
「ふっ、もう一人居やがるな?」
「ええ」
シャンガンの目の前に現れたのは、二人の天使。片方は、艶やかな緑色の髪に垂れ目の美女。もう片方は、小柄でショートヘアの金髪をもった少女。
「もう〜、アタシの【サンダーカッター】躱さないでよ〜!」
「そう簡単なことじゃないってわかったでしょう?おっと、失礼。私は、ザドキエル。この階層の〈百魔〉を勤めています」
「〈百魔〉だぁ?」
シャンガンは、聞き慣れない言葉に疑問を覚えたが、ダンジョンの幹部クラスと考え直した。
「そしてアタシが同じ〈百魔〉のラグエル!ダンジョンに入ってきた者は皆殺しだ〜!」
「はっ!ダンジョンの幹部が出て来たか!少しは面白くなるだろうぜ!」
ラグエルという天使は、無邪気に笑い皆殺し宣言したことに対してシャンガンは、獰猛に笑いながら幹部クラスが出て来たことに歓喜する。そして、密かに《鑑定》を行う。
名前 ザドキエル
種族 上位天使
職業 〈百魔〉
レベル 38
ランク A
スキル ー妨害されましたー
名前 ラグエル
種族 上位天使
職業 〈百魔〉
レベル 47
ランク A
スキル ー妨害されましたー
見たときシャンガンは、再び歓喜した。さっきまでの雑兵共とは違う本当の敵と会えたから。
「さあ、殺ろうぜ!」
「あらあら、ギオさんのようですね。ラグエル、行きますよ?」
「ガッテン!ボコボコにしてやる〜!」
こうして〈百魔〉ザドキエル&ラグエルとシャンガンの戦いが始まった。
一方のセイは、ラファエルと名乗る水色の髪の天使と戦っていた。
「喰らえ!破聖拳、《破聖衝波·束》!」
「《軟体》《合気道》です〜」
セイの鋭い一撃は、ラファエルの《軟体》《合気道》によって受け流される。それに驚かずセイは、受け流されて体勢を崩しながらもラファエルに回し蹴りを放つ。
「はい、《水化》」
「っ!なんだと!?」
しかしセイの回し蹴りは、突如として水となったラファエルによって不発。ラファエルだった水は、セイから離れた後急速にラファエルとしての形に整っていく。
「《水化》まで取得してるのか···っ!何という奴だ!」
「うふふ、私達には神が付いておりますので〜」
(神···、恐らくシャンガンと同じダンジョンマスターだな?全く、どうやらここのダンジョンマスターは、戦力拡充に積極的らしい。嫌になる)
セイは、この階層のあちこちから自分に匹敵もしくは自分以上の魔力の持ち主がいることに気付いていた。あくまでも魔力なので直接戦えば解らないが、その事実にセイは軽い目眩がしている。
「まあ、いい。今は、コイツを倒してこの場を切り抜けてやる!」
「うふふ、やれるものなら···あら?」
セイの叫びにラファエルが言い返そうとした時、ラファエルが不意に空中に目を向けたまま停止してしまった。
「ん?」
(何故か知らんが隙だらけだ。このまま殺る!)
セイは、ラファエルを殺すため拳を固めて、ラファエルに突貫しようとした時、背後から超高度の熱がセイを襲った。
「なっ!?あっつ!?なんだ!?」
セイは、慌てて振り向くが、姿を完全には確認出来なかった。振り向いた直後に熱線に貫かれたからだ。
(ち、チクショウ··が)
薄れゆく意識の中でセイは、悪態をつきながらも自分を襲撃した者の姿を見た。
その者は、全身を深紅の炎で包んだ天使だった。
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