ダンジョン防衛作戦、第二十八階層②
◆ダンジョン第二十八階層 オロチの巣
ミリシネルが必死で息を潜めている時、オロチは自らに襲い掛かった獲物達を咀嚼しながら、残りの獲物を探し回っていた。
〈狂星〉オロチには、喋るほどの知能はない。精々これは食べて良い、食べてはいけない、マスターには従う、クロにも従う、敵は殺すといった本能に刻み込まれている行動しかとれない。
だがオロチは、それを不幸だとは思わない。それが自分のやるべきことであり、自分の幸福だということを理解しているからだ。
「グルルゥゥ~~」
オロチは、敵であった獲物を咀嚼し続ける。食べる際に何か音を発していたが、オロチは無視して獲物達を食べていった。
やがて獲物達を全て食いつくすと、食い損ねた一匹の獲物を探し始める。その際にオロチが発動させたのは、スキル《熱源感知》や《魔力感知》、《聴覚強化》、《嗅覚強化》etc.といったスキル郡。オロチは、それらのスキル発動させて、とある一角にそれらしき反応を発見した。
「グ?」
しかしオロチは、七つある首を傾ける。少し微妙な位置にいるのだ。飛んでいけば追い付けるが、味気なく、地上から歩いていけば時間が掛かる。
オロチは悩んだ。七つの頭を使って悩みぬいた。
そして決断する。
「グルルァァァァ!!!!」
オロチは、咆哮を轟かせるやいなや、七つある首に魔力を集中させる。
すると、オロチの七つある口から炎が、毒素が、灰が、冷気が、雷が、闇が、光が溢れだす。
それらのエネルギーをオロチは、たかが一人の為に。
「ガアアァァァァ!!!」
思いっきりぶっぱなした。
その瞬間起こったのは、圧倒的な破壊のみ。オロチの放った息吹は、オロチ担当の第二十八階層にある樹木を軒並み消失させ、大地を抉った。そして抉れた大地はおぞましく変色し、まるで熱で溶けるバターの如く溶けていった。
「グルル・・・グア?」
しかしオロチは、とあることに気付く。確かにブレスを撃って始末したはずだ。
なのに。
なのに、何故。
自分の背中に獲物が登ってる?
そんな疑問を抱いた瞬間、オロチの七つある首の一つに違和感が走った。
時は、オロチがミリシネルの仲間を食べ終える寸前まで遡る。
「・・・良し、行け!」
ミリシネルは、ある二つの作業を行っていた。それは、スキルで自分を二つにしていたのである。
「上手く行ってくれよ?」
ミリシネルが行ったのは、スキル《肉分身》。自分とまったく同じの肉体を別の肉から作り出し、操るというレアスキルだ。ただし作り出した分身は、レベル1でランクと最底辺とあまり使えないものであるが、囮には十分である。
ミリシネルは、これまで道中仕止めてきたモンスターの肉を使ってスキル《肉分身》を発動。自分の後方に走らせて、化け物からいかにも逃げているといった風に装わせたのだ。
分身が走り去っていくのを見届けたミリシネルは、ヤーコプから渡された魔道具を取り出す。名を、〈名もなき暗殺者の外套〉と〈毒竜の短剣〉というものだ。〈名もなき暗殺者の外套〉は、羽織ると自身の魔力や熱などの気配を消すことが出来る魔道具。〈毒竜の短剣〉は、かつて討伐された毒の竜の牙から造られた短剣で切れ味はもちろん、強力な毒を持つ魔道具。
ミリシネルは、〈名もなき暗殺者の外套〉を羽織り、化け物の背後へ移動。化け物が分身へブレスを放った時には、既に化け物の首元までかけ登っていたのだ。
化け物の首元までかけ登ったミリシネルは、〈毒竜の短剣〉を取りだし、構える。
「ハア・・・ハア・・・・喰らえ化け物!!仲間達の、仇だァァ!!!」
ミリシネルは、〈毒竜の短剣〉を振りかぶり化け物の首元へ突き刺した。その瞬間ミリシネルは、確信した。
勝利を?
否、絶望を、だ。
〈毒竜の短剣〉は、確かに刺さった。確かに化け物の首元に刺さった。だがどうだ?〈毒竜の短剣〉は、刺さった首元から噴出した紫色の煙によって腐敗し、腐り、崩れ落ちたではないか。
「は、ハハハハ、冗談きついぜ」
因みにミリシネルが〈毒竜の短剣〉を振り下ろしたのは、毒素を振り撒くオロチの首部分である。オロチの吐く毒素は、〈毒竜の短剣〉より遥かに強力で、そんな毒を内包していたお陰もあってか、オロチは〈毒竜の短剣〉なぞ歯牙にもかけぬほどの毒耐性を獲得していた。しかも、短剣の切り傷は浅すぎて、オロチは人間でいうところの蚊に刺された程度のダメージしかなかったのだ。
「ハア・・・ハア、糞、逃げ・・・・ねぇ・・と」
ミリシネルは、その場から急いで逃げようとするが、遅かった。ミリシネルが〈毒竜の短剣〉を突き刺した首の他、六つの首がミリシネルを睨んでいる。
「・・・・ふん」
ミリシネルは、観念したようにその場へ座り込む。そして。
「ヤーコプの野郎、地獄に来たらぶち殺してやる」
と、恨み言を呟いた。
その瞬間ミリシネルは、オロチによる七つのブレスに呑まれ、儚く散った。
難産だった・・・。
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