ダンジョン防衛作戦、第二十八階層①
難産なんや・・・。
◆ダンジョン二十八階層一番領域
ダンジョン第二十八階層の一番領域、霧の掛かる広大な湿地帯を進むのは、転移罠によって飛ばされたヤーコプ配下の私兵団達であった。その数二十人。
「あ~、やってらんねぇぜ。どれだけ歩いても湿地帯が広がっているだけなんてよ」
「だな。お宝なんて何処にもねぇし、素材が剥ぎ取れそうなモンスターもいやしねぇ。居たとしても、大体が小さな蜥蜴やカエルぐらいだ」
私兵団構成員の内二人は、グチグチと不満を吐き出しながら湿地帯を進む。霧で視界が安定しないが、彼等はお宝を探すべく進み続けた。
暫く進み続けて十数分、グチグチと不満を吐き出していた二人がとあることに気付く。
「・・・なあ、なんか俺達、どんどん数減ってねぇか?」
「・・・た、だよな?いつの間にか二十人から十人に減ってるしよ?」
二人の指摘に漸く気付いたのか、残りの私兵団構成員達も武器を取り出し、辺りを警戒する。しかし霧が立ち込めるだけで、何も起こらない。
「どうなってんだ?」
「わからねぇよ。でも嫌な予感はするぜ。さっさとここから逃げ出さねぇと不味い気がする」
「賛成だな。だが、肝心の出口が・・・あ」
二人がダンジョンからの脱出を決意して、二人の内一人が他の私兵団構成員達の方へ振り向き。
彼等がきれいさっぱり居なくなっていることに気付いた。
「・・・う、嘘だろ?」
「ヤベェ、ここはヤベェ!急いで逃げるぞ!」
「お、おう!」
さっきまで共に居た、近くに居た仲間が綺麗に消え去ったのだ。それは恐怖だろう。二人が逃走を選択するのは無理の無いことだった。
「どちらに行かれるので?」
しかし簡単に逃げられるほどダンジョンは甘くない。
現れたのは、上半身が人間で下半身が蛇というナーガというモンスターだった。性別は男のようで、細身ながらも鍛えぬかれた肉体を晒している。
「な、なんだテメェは!てっ、ナーガだと!?」
「ふむ、無礼な口利きですね?まあ、仕方ありませんか。事前情報だと、ゴロツキ紛いの私兵団らしいですし」
ナーガは、やれやれと溜め息を吐いた後、二人に向けて手を翳す。
「っ!?ヤベェ!」
二人は、ナーガがナニカをすることを察知したのか直ぐ様逃げ出す。
しかし二人の行動は、無意味と化す。
二人の腹から水の槍が突き破ってきたのだから。
「ごふっ!?な!?」
「は、ばぎゃな!?」
二人は、何が起こったのかわからないといった顔で腹から破り出た水の槍を凝視する。
「お気付きで無いようですね。この霧は、私の魔法で発生させたもの。霧とは、地表付近で大気中に多数の微水滴が浮かび、視界を悪くする現象のことを差しますが、つまり水のようなものです。そして貴方達の体内に入った私の霧をスキル《水武器》によって水の槍とし、貴方達の体内で暴発させたのですよ」
ナーガが得意気に話すが、その間に私兵団の二人は、とっくに死んでしまっていた。あまりの呆気なさにナーガは再び溜め息を吐く。
「はあ、弱い。やれやれ、一体いつまで雑魚狩りをしてれば良いのか」
ナーガは、そう愚痴りながら次の侵入者を待つべく一番領域の砦へと戻っていった。
◆ダンジョンコアルーム カゲマサside
俺は、第二十八階層一番領域のナーガが私兵団構成員達を全滅させたのを見届けると、後方に待機しているシロに訪ねる。
「なあ、シロ。アイツの地位って確か上級兵士だったよな?」
「ええ、そうですね」
「クロの奴、何故〈百魔〉に上げない?あれだけの魔法の腕なら〈百魔〉にも届きうるだろうに」
そう、あのナーガは幹部ではない。〈百魔〉配下の精兵という立ち位置で普通の兵士より上だが、それでもあの強さのものが居てはいけない階級だと思う。
「それなのですが、彼の希望で最前線で戦っていたいとのこと。自身の霧魔法とスキル《水武器》のコンボを強敵に決めたいとか」
「なんじゃそりゃ」
あまり良くわからない反応だが、まあ良いだろう。
「じゃあ、上級兵士続投で。他のクロの階層はどうだ?」
「どうやら順調なようで。あ、第二十八階層の〈狂星〉オロチが動いたようです」
「オロチが?それ大丈夫か?第二十八階層壊滅しない?」
「大丈夫ですよ。彼なら上手く調節出来ます。・・・・・多分」
「やっぱり不安だ!モニター映すぞ!」
俺は、直ぐ様第二十八階層のモニターを映した。
何故俺がここまで 〈狂星〉オロチという存在を心配するのか。
弱いのかというと、はっきりいえば強い。対群体戦では、クロに比肩しうるのではといわれるほどの実力を持っている。だが、如何せん経験不足。
オロチは、最近になってヒュドラという三つ首の竜の中から突然変異で誕生した七つ首の竜なのだ。
◆ダンジョン第二十八階層 オロチの巣
(ヤバいって・・・・。ヤバいって・・・っ!)
そう頭の中で連呼しているのは、ヤーコプが連れてきたBランク冒険者のミリシネル。彼は、今現在これまでの人生史上最大の危機を迎えていた。
ムシャムシャ。
ゴリゴリ。
クチャクチャ。
ボリボリ。
ガリガリ。
ブチブチ。
ぐちゃぐちゃ。
途轍もない巨大なモンスターが何かを懸命に喰らっている。ミリシネルはその姿を見ながら恐怖で動けないで居た。
(畜生、畜生畜生っ!!皆喰われた!私兵団の連中も、他の冒険者も!・・・俺の仲間も!)
ミリシネルは、恐怖と同時に怒りも抱く。私兵団はどうでも良いが、仲間を喰われて黙ってられる性分ではなかった。
(けど、けどよぉ!!あんなのどうすればいいんだよぉ!)
しかし、そんな気持ちをいとも容易く砕いたのは、かの怪物である。
全長二十メートル以上、七つの竜の首、巨大な翼、黒く硬い鱗に覆われた肉体。極めつけは、身体から溢れる威圧感。
もしミリシネルに《鑑定》があったなら、こう書かれていただろう。
名前 オロチ
種族 七頭竜 突然変異
職業 第二十八階層〈狂星〉
レベル 70
ランク A+
スキル 生ける災害 ▩▶▷◆◁►▪▨▨
〈狂星〉オロチ。クロにとってのリューゾウと並ぶ切り札であり、生まれながらにランクAを叩き出した、正真正銘の生きた災害である。
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