ダンジョン防衛作戦、第二十三階層①
◆ダンジョンコアルーム カゲマサside
「・・・何故だ」
俺は、他のモンスター達が防衛作戦に動いている中、一人呟く。
「あの階層には、転移系統の魔法を封じる効果を付与していた筈だ。決して例外はない筈・・・。では、奴の使用した【反転結界】とやらが関係しているのか?」
俺は、【ボックス】から魔法書を取り出してペラペラとページを捲っていく。そして結界魔法の項目に【反転結界】が記載されていた。
・【反転結界】
結界魔法の中で上位に入る魔法。結界としての強度に加えて結界の中にいる生物へ降り掛かる効果を反転させる。例えば、結界内で毒を浴びせる魔法を喰らえば、効果が反転して毒は無害化される。弱点として、回復魔法を受ければ逆に傷が増えることになる。ただし術者以上の力量の持ち主には破られる。
とあり、中々に強力だが使いづらい代物だった。成る程、あの一帯に張られた転移系統の魔法を封じる効果も反転させたのか。
「あれ?となると、奴の転移魔道具はどうやって発動させたんだ?」
そうだ。転移魔道具の効果は、大体が予め設定していた場所に転移できるというものだ。その効果が反転してしまえば、転移魔道具は使っても転移出来ないゴミと化す筈だ。それでは、【反転結界】を張った意味がない。結界の中にいる生物が対象なので、転移魔道具の効果も反転されるからだ。
「何故だ?何故転移できた?・・・・・あ」
俺は、とある可能性が思い浮かんだ。この仮説が正しければ、確かに転移できる。
「あの転移魔道具は、元々転移出来ないと設定していたのでは?」
魔道具に設定していた効果が設定した場所に転移出来ないという効果なら、その効果が反転して転移出来るようになったのでは。だとしたら、魔法の効果を上手く利用したといえる。
「くそったれが・・・。唯転移を封じれば良いと言うわけかよ。完全にしてやられた・・・!」
周りから見たら俺は、落ち着いているようだが内心出し抜かれた苛立ちと見抜けなかった不甲斐なさ、対策出来なかった自身の甘さへの自罰。そんな感情が渦巻いていた。
「マスター・・・」
「・・・大丈夫さ、シロ。この経験は次に活かす。大丈夫だ」
俺は、自分に言い聞かせるように言う。そうだ。次に活かすのだ。別にコアが危機に晒された訳ではない。マリアンナにダンジョンの情報をやったのは痛いが、ほんの一部分だけだ。問題は無い。
「ふ~~、良し落ち着いた。ところでシロ。ゼクトはどうしてる?」
「はっ、ゼクトは現在落ちてきた冒険者+私兵団を相手にして・・・あ」
シロは、モニターを見ながらゼクトの状況を報告しようとして、言葉を失う。
「え?どうしたシロ?まさか、ゼクトが負けたなんて」
「い、いえ、ゼクトは無事です。というか、もう終わってます」
「はい?」
俺は、シロが見ているモニターを覗き見る。そこには。
山積みとなった冒険者+私兵団の死体、そして死体の山に腰掛けるゼクトという、何かの漫画で見たような光景だった。
「ど、どうやら接敵した瞬間に拳一つで皆殺しにしたようで」
「・・・や、やはり〈六将〉の中でも凄まじい実力だな、ゼクトは」
「え、ええ。私はどちらかと言うと、魔法や息吹中心なので、拳一つでは無理です」
流石近接戦闘では、我がダンジョン最高峰なだけはある。
「では、他のゼクト担当階層はどうだ?」
「ご安心を。各〈狂星〉や〈百魔〉達が対応し、順調に殲滅しています」
「ならば良し。では、キラーの担当階層を覗いてみるか。モニターを出してくれ」
「はっ!」
ゼクト担当階層は、もう大丈夫だろう。そう判断した俺は、キラー担当の第二十一~第二十五階層に目を移した。
◆ダンジョン第二十三階層
ダンジョン第二十三階層。紫の月が浮かぶ暗黒街。その最奥にある館では、主であるルシファがワイングラス片手に窓の外を眺めていた。
「今回は良い天気だな」
スーツを着た敏腕秘書みたいな姿の女性の姿であるルシファが窓の外を眺めているのは、大変絵になる。しかし、部屋の中は到底気分の良いものじゃない。
「ん~!ん~!」
「こんな良い天気なら、マスターをお招きして舞踏会でも開こうと思ったのだが、それも貴様等のお陰で台無しだ。なあ?薄汚れたカス共」
部屋には、下着一枚以外全ての衣服を剥がされた冒険者や私兵団達であった。口は、猿轡で塞がれている。
「今日の私は、大変気分が良かった。良かったのだ。はあ、お前達人間は本当に空気を読まない」
ルシファは、ハイライトを失った目で冒険者+私兵団を見下ろす。そして手に持ったワイングラスを魔力放出で割ってしまった。
「今の私は、大変気分が悪い。本来なら私自ら手を下すところだが、お前達に手を下せば部屋が汚れてしまう。なので」
そこまで言ってルシファは、パチンッ!と指を鳴らす。すると、扉が開き肥満体の悪魔が三体入ってきた。
「ねーねー、ルシファさまー?こいつらエサー?」
「エサだよねー?」
「美味しそうだもんー」
「ああ、エサだ。だが、これは前菜。メインはまだとってあるさ」
「「「わーい!」」」
肥満体の悪魔三体は、嬉しそうに冒険者+私兵団に飛び掛かった。冒険者+私兵団達は、身を捻ってどうにか回避しようとするが、悪魔達の方が速かった。
「「「じゃあ、いただきまーす!」」」
肥満体の悪魔三体は、口を大きく開ける。その大きさは、成人男性並みの大きさまで大きく開き、冒険者+私兵団達を軒並み飲み込んでいった。そしてゴリゴリと咀嚼しながら、消化していく。
「んー!?ん~!!」
「むー、少しえぐみがある!メインに期待!」
その後、捕らえられた全ての冒険者+私兵団達を平らげた肥満体の悪魔三体は、味を批評して去っていった。
「はあ、ベルゼニュートの部下は食に対しては厳しいな。まあ、いいか」
ルシファは、ハイライトの消えた目で再び窓の外を眺め始めた。
「これで少しは、気分が良くなったからな」
そう言ってルシファは、薄く笑みを浮かべた。
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