ダンジョン確認作業④
難産でした。
不愉快な描写あり。ご注意を。
◆ダンジョン第二十五階層 暗黒街 カゲマサside
俺とキラーは、紅茶を飲み菓子をつまみながら改造アンデッドの反省点を洗い出していた。
「まず動きが鈍かったな。勝てたから良かったものの、あれだけムキムキな体の癖によ」
「ええ、それだけじゃありません。武装が火炎放射器だけでは炎耐性を持つ敵には敵いませんよ」
「確かに。今後は剣や斧、クロスボウ等を使用してみるか?」
「その方向でいきますか」
俺は、そう言った後もう一つの懸念事項を口にする。
「そういえば、俺の指示した人間牧場はどうなってるんだ?」
「ええ、順調に稼働中です。ご指示通り孤児となった子ども、赤ん坊などを拉··保護した後、ダンジョンの一角で育てております」
人間牧場計画。行き場を失った人間達をダンジョンの一角で育て上げ、そのままダンジョンで一生を終えさせる計画。この計画のメリットとして、育て上げた人間から恒久的にDPを吸い上げ、糧にするのだ。
何故そんなことを計画したのかというと、将来におけるDPの枯渇を防ぐ為である。俺のダンジョンにおけるDPはまだまだあるが、いずれ無くなってしまうかもしれないのだ。この世界は、その程度の不条理がふとしたことで巻き起こる。だからこそ、現地住民の分だけでなく新しい収入源も必要なのだ。
え?人造人間や人工魔人はどうなんだって?あれは、ダンジョン機能を使って製造されているためダンジョンモンスター扱いである。あ、俺がスキル《魔人王》で変化させた奴等は、現地の人間と同じだぞ。
「ふむ、じゃあそこも見ておくか。案内頼めるか?」
「はっ!直ちに!」
キラーは、俺に敬礼すると俺の案内を始めた。
◆第二十五階層 人間牧場支部
キラーの案内で一つの集落にやって来た俺。その集落には、数多くの人間や亜人達が集落で生きていた。
「ほう、あれが」
「ええ、大体が十代前半から十代後半の者達ですが、それなりのDP収入になっています。たまに魔人達が教導のために訪れていますね」
「なるほどな。で、監視体制は?」
「基本脱走を禁じていますが、監視カメラゴーレムや警備隊を監視に当てています」
「よろしい」
俺は、キラーを誉めた後再び人間牧場を観察する。
表向きは穏やかな集落だ。しかし、この階層自体が暗黒街のせいか空気がどんよりしている。ちらほらと歩いている人間を見るが、笑顔を浮かべているものの、無理矢理笑顔を作っているような感じだ。まあ、ダンジョンだからって可能性もあるが。・・・ん?
「···おい、キラー。あの人間、何故ほかの人間から食料を奪っているのだ?」
俺が見たのは、一人の大柄な青年が多数の子どもから食料を奪っているところだった。
「彼は···、その、あの牧場では一番のDP収入なんですが、増長しあのような性格へ」
「ふむ···」
青年は、食料を奪っていく他、適当な女性や少女などを自身の周りに侍らせて、自信たっぷりな表情になっている。だが、侍っている女性や少女達は、ほとんどが無表情だ。中には、泣きそうな奴もいる。
「··何故ああなるまで放っておいた?」
「え?そ、それは、あの者が集落で一番のDP収入で」
「そうか。では、アレを即刻処分しろ。アレの更なる増長を許せば、必ず図に乗り反逆してくる。面倒な事態になりかねん」
「よろしいのですか?」
「ああ、アレの代わりは沢山いる。教育が面倒だが、背に腹はかえられん。いやまて、俺が自ら始末する。確実にな」
「ははっ!」
俺は、集落中央で高笑いする青年の元にキラーを連れだって進んでいった。
◆人間牧場 ある一人の女性side
私は、かつて南方諸島にあった小国で農民の娘だった女だ。しかし私の祖国は隣国と戦争になり、私の父は兵隊に取られて戦争に赴いた。
しかし父が兵隊として出征した暫く後、地獄が始まった。隣国の軍隊が私の村を襲ったのだ。そこで起こるのは、虐殺・略奪の嵐。男・老人は全てなで切りにされ、若い女は兵士の慰み物となってしまった。それに私の母も巻き込まれた。私は、偶々家の倉庫で震えながら隠れていたのだ。
やがて、外の喧騒が収まり私は恐る恐る外に出ていくと、広がっていたのは。
炎々と燃え盛る住居。
惨たらしく殺された男や老人。
衣服を引き裂かれて裸のまま殺された若い女性達。
そして、身体中に殴られた後があり、尚且つ汚物で汚された母の死体だった。
ただ、死体と血痕だけがそこに広がっていた。
私は、その光景に吐き気を我慢できずその場で吐いてしまう。そして村から海辺の村へ逃走した。しかし逃走した先も地獄が広がっていた。
私の村を襲った軍隊が、その海辺の村まで襲っていたのだ。村では、兵士が次々と男を殺し女を襲い、食料を略奪していたのだ。
そして案の定私も見つかり、兵士達に捕まった。見たのは、兵士達の欲望に満ちた下卑た笑み。兵士達は、自分の衣服に手を掛けて引き裂こうとした、その時。
兵士達は、一隻の海賊船相手に全滅した。突如として現れたその海賊船は、船長らしき女性が先頭に立ち次々と軍隊を破っていく。一国の軍隊より何故か、海賊の方が遥かに強かったので、軍隊にひどい様だと笑ってやった。
その後私は、海賊船に連れていかれて倉庫に押し込まれた。私は、さっきまで浮かれていたが海賊に捕まったと思い顔を真っ青にする。軍隊を破ったとはいえ、犯罪者集団だからだ。
連れてかれた先は、一つの集落だった。女船長が言うには、人間牧場という名前らしい。
こうして私は、人間牧場という場所で暮らすことになったのだが、ここも地獄だった。
とある一人の青年が監視役から優遇されていることを良いことに、同じ集落に住む少年達から食料を奪うようになったのだ。更には、少女達を侍らせて裏では無理矢理行為に走っていた。
そして現在。
「おい、アリア。いい加減このバヤン様のハーレムに入れよ。そうすれば、お前にも食料を恵んでやるぜ?」
そう。この青年は、私にも声を掛けて己の欲望を満たそうとしている。
「···嫌よ。何でアンタなんかのハーレムに入らなきゃならないの?」
「あ?そりゃ突然だ。俺様はこの集落で一番強い。そして、上の方々の覚えめでたく集落の纏め役を任命してくださった。つまり、この集落は住民含めて俺様の所有物なんだよ!」
随分と傲慢なものだ。私は知っている。コイツ、バヤンを纏め役に任命した奴等の目は冷たく、彼を小石程度にしか見ていないことなど。それにコイツは気付いていない。
「ふん、何が所有物よ。あの方々から任されただけの人間の癖に」
「···ああ?」
バヤンは、怒りを覚えたのか欠陥を浮き出させて、私の首を掴む。
「···テメェ、いい加減にしろよ」
「···っ、た··んき····ね」
「俺様は、この集落での殺害権を持ってる。許してほしいなら、土下座して足の裏舐めろ」
断る筈無いよな?そう言外に匂わせたバヤン。その顔は、祖国を襲った兵士達と同じ、下卑た笑みだった。だからこそ私は、体を震わせながら言う。
「···嫌よ!アンタに抱かれるくらいなら死んだほうがマシ!」
「テメェ!俺の所有物の分際で!!」
バヤンは、私の首をへし折ろうと腕に力を入れた瞬間、
その両腕がスパッと両断された。
「····あ?····ッ!!??イ、イテェェェェ!!??な、なんでぇ!お、オレ様のウでガァァァァァ!!???」
「何が、誰の、所有物だって?」
バヤンの両腕を両断した存在は、バヤンの背後にいた。
黒髪に血のような赤目、スラッとした体格に所々から高貴さが滲み出た軍服。まるで、何処ぞの国の将軍のようだ。
「て、テメェ!!何者ダァぁ!!」
「貴様、何者だと?!」
その存在が答える前に回りの取り巻きが答えた。あの取り巻きは、バヤンを纏め役に任命したモンスターではないか。
「このお方は我等が主にして、迷宮最強の存在、マスターカゲマサ様であるぞ!!控えよ!!」
「普通に紹介しろよ。はあ、もう良い下がれ」
その言葉にモンスターは、申し訳なく後ろに下がった。一方のバヤンは、これを好機とばかりに私を指差して声を荒くする。
「こ、これは失礼致しました!!し、しかしお聞き頂きたい義がございます!!」
「·····」
「そこにいる女、アリアと言うのですが纏め役である私の命令を聞かないのです!どうか誅伐を!!」
人間、一度歪めばここまでになるのか。私は、そう思いながらカゲマサとやらに目を向ける。そして、目があった。私は、少し顔を青くしたが、カゲマサは私を見て少し目を見開いた後、バヤンに目を戻す。
「そんなことはどうでも良い。俺は、別件でここに来たのだ」
「べ、別件ですか?」
「《真実》。バヤンとやら、お前は自身が強くなったらこの迷宮をどうしようとした?」
「そ、それは、この迷宮を乗っ取って、女共を犯し尽····はっ!!!」
・・・アイツ。そんなこと考えていたのか。しかし、何故カゲマサの前でそんなことを?
「な、何で」
「よし、黒だ。処分決定」
「ッ!!!お、お待ちを!!今のはほんの冗談でして!」
「下らん。連れていけ」
「グっ····、糞がァァ!!!」
あ、あのバカ、カゲマサさんに突っ込みやがった!!
バヤンは、自棄を起こしてカゲマサさんに突っ込んでいく。しかしカゲマサさんは、バヤンの拳を容易に受け流し、逆にバヤンの腹を蹴りあげた。
「ゴホっ···」
「纏め役の後任は····、アリア、貴様にする」
「えっ!?私ですか!?」
嘘でしょ!?何で私なの!?
「まあ、此方の言うルールを守ってくれたら何も言わないさ。勿論監視は付けるが」
「ええ~?」
「ルールは三つ。殺し合わない、食べ物等を奪わない、反逆しない。これらを守ってもらおう」
「ま、まった!」
「ん?」
そう言えば聞きたいことがあったのだ。この地に連れてこられた理由を。
「···何で私達をここに住まわせてるの?」
「お前達がいるだけで、俺にとっては利益になるからだ」
それだけ言ってカゲマサ様さんは、倒れたバヤンを背負って去っていった。
まあ、よく分からないけど・・・やってみるか?
「あ~、じゃあ貴方等。今から住み分けを···」
アリアが人間牧場の人間達に指示を出し始めた頃、俺はバヤンというゴミを【デス】で殺した後、キラーに渡して第三十階層に移動を始めた。
「···ぬう」
俺は、あのアリアとかいう少女を思い出す。別段特別そうには見えない普通の女だった。が。
「何がどうして、あんな職種になるのだ。まったく関係ない人生を送ってきたというのに」
名前 アリア
種族 人間
職業 勇者の卵
レベル 5
ランク E
スキル 農業 剛力
「まったく、厄介なものだ」
俺は、移動しながら呟いた。
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