ダンジョン確認作業③
難産でした。
◆ダンジョン第二十階層 樹木城 カゲマサside
戦いが終わったことを確認した俺とゼクトは、報告してきた者を下がらせた後、今回の戦いの総評を行った。
「今回は、威力偵察からの部隊派遣のスピードも中々のものだった。素晴らしいぞゼクト」
「はっ、ありがとうございます」
「しかし部隊の数が多すぎる気がするが」
「ええ、そこは反省点ですね。動かす戦力をもっと効率的に動かすべきでした。そうすれば、他の場所へ戦力を回せますから」
確かに、冒険者パーティーを侮る訳ではないが、今回のパーティーはもう少し少なくても討伐出来る程度の強さだった。仮に千人以上の冒険者等が来たら、各個撃破の為に戦力を分ける必要が出てくる。今回のような討伐方法では、いずれ手が回らなくなるだろう。
さて、そこまで考えたが、ふと気になった。報告には、今回のパーティーには毒素が効かなかったらしいのだ。
「何故奴等に毒素が効かなかったんだろね」
「ふむ、偵察第二小隊からの報告では、奴等の回りには風魔法で作った膜のような物が展開されていたと」
「風の膜で毒素の侵入を防いだと?」
「恐らくは」
ふむ、なるほどな。確かに俺でも出来る技術だ。冒険者パーティーが出来ても可笑しくはないか。
「よし、対策についてはゼクトに任せる。俺は、キラーの階層に行く」
「御意。道中お気をつけを。転移罠に掛かった冒険者が落ちてくる可能性がございます」
「ああ、大丈夫だ。冒険者が降ってきたら、即首を刈り取る」
「はっ」
俺は、ゼクトにそう告げキラーのいる第二十五階層に向かった。
◆ダンジョン第二十五階層 暗黒街
俺がやって来た第二十五階層は、全てが暗闇に包まれた都市だった。明かりは、街灯から溢れる紫色の光と空に浮かぶ紫色の月のみという有り様である。
「暗いな。俺には、スキル《暗視》があるから問題ないが。しかし本当に街並みは、整備されてるよな」
俺は、暗黒街の街並みを眺めながら歩いていく。道路には骨の馬、スケルトンホース?が引いている馬車が走っていたり、歩道には武装した悪魔やアンデッドの警備隊が歩いている。その他にも、建物の中からは悪魔達の笑い声が聞こえる。
「しかもよく見れば、監視カメラゴーレムが至るところ設置されてやがる。キラーめ、ミレンダにねだりやがったな?」
そう、街のあちこちに監視カメラゴーレムが配備されている。ダンジョン機能に頼らず、監視網を構築しているようだ。
「努力してるなキラーの奴。···ん?」
俺が適当に散策していると、俺の前に一台の馬車が急停止した。中から出てきたのは、軍服を着込み剣を片手に持ったキラーだった。
「カゲマサ様!お越しになるのでしたら迎えを寄越しましたのに!」
「気にするな。都市の様子を確認したかったからな。で、何かあったか?」
「いえ、第二十一から第二十五階層には、何の異常もありません!」
「そうか、それは良かった」
「あ、あの、宜しければ、私の館へいらっしゃいませんか?美味しい菓子や紅茶を用意しているのですが」
「ん?そうか?じゃあ、お邪魔しようかな」
俺は、キラーに促されて馬車に乗り込む。やがて、馬車が走り出しす。その間俺は、キラーと会話を続ける。
「で、今の階層状況は?問題はないが、何かしらの変化はあったか?どうだ?」
「はい、転移罠の影響で落ちてくる冒険者等がいますが全て始末しております。また、一部冒険者は人体実験の被検体にしております」
「実験?何をしている?」
「主に改造アンデッドの戦闘力試験や、精神魔法の試し打ち、人間牧場支部の管理などですね」
「なるほど」
どうしよう。俺人間牧場に凄く嫌な予感がするぜ。俺が指示したんだけどな。今は、第三十五階層とこの第二十五階層にある。まあそれは後で語るとして。
その後俺は、キラーと色々な話をしながらキラーの館に着くのを待った。
やがて馬車が止まり、扉が開く。扉の先には、いかにも貴族の邸宅といった建物が鎮座していた。
「さあ、こちらです」
俺は、キラーに促されて邸宅に入っていく。邸宅前にある庭には、数多くの悪魔やレイスが俺に向かって跪いていた。いや、レイスの場合は頭を下げていたか。
邸宅の中は、外と変わらず暗かった。室内灯は、紫色だったしアンデッドや悪魔があちこち歩き回ってるし。軽いホラーだな。
俺とキラーは、案内役の悪魔の羽が生えたメイドに先導されて、応接室に案内された。
「ここで少々お待ちを。直ぐに紅茶と菓子を用意させます」
「何、焦ることは無い。ゆっくりで良いさ」
「ご厚情、ありがとうございます。あ、それでしたら改造アンデッドの戦闘力試験でもご覧になりますか?この部屋から見ることが出来るのです!」
「ほお、興味深いね」
改造アンデッドかぁ。どんなものだろうか?腕が肥大化してるのかな?それとも何か、機械のような物が着付いてるのかな?
俺は、そんな予想をしながら壁が開いていき、実験場のような空間が現れるのを眺めた。
「ここが実験場です。今始まりますよ」
その言葉に俺は、実験場の中を覗き込む。すると両側の扉が開き、二体の動くものが入ってきた。
東の扉から入ってきたのは、被検体の人間。着ているのは、野生のゴブリンがしているような腰ミノ一丁と皮の鎧、手に持つナイフ一振と盾。
西の扉から入ってきたのは、一体のゾンビ。しかし普通のゾンビと違うのが二点ある。まずは体格で、身長が二メートル超程となり非常にマッシブな体格となっている。大体の人間素材のゾンビは、精々170~180程だというのにだ。次に武装、丸太のような左腕に取り付けられているのは、何かの発射口のようなものだった。
「あの発射口はなんだ?」
「あれは確か、火炎放射器と言っていましたね。
迷宮研究所のアイアンから譲られてたものです。油を燃料に火炎を放射する兵器だとか。まあ、アイアンが言うには雑魚にしか使えないようですがね」
俺は、そんな説明を受けながら、火炎放射器を取りつけたゾンビを見る。
(ふむ、となると背中に背負ったタンクに油が入ってるのか?だとしたら危険じゃないか?もしあそこに火魔法でも当てられたら、たちまち大爆発だぞ)
と、心配する。そんな心配が伝わったのか、キラーは説明を続ける。
「ご安心を、カゲマサ様。あのタンクは、迷宮研究所の技術によってミスリル合金製で出来ております。下手な攻撃では壊れはしません」
う~む、それなら安心だが、作るコスト高くないか?それ以前にゾンビって炎に弱かった筈では?俺は訝しんだ。
「あ、始まりますよ!」
キラーの言葉に俺は、実験場を再び覗き込む。火炎放射器ゾンビと相対した人間は、まず盾を前に構えてゾンビに突貫する。しかしゾンビは、火炎放射器を人間に向けて放射。人間は、火炎が出るのを読んでいたのか、直ぐ様サイドステップ。そして俊敏に動き、ゾンビを翻弄していた。
「おい、人間が善戦してるぞ」
「あ、あれぇ~?」
俺はキラーに人間が善戦していると伝えたが、キラーも予想外だったのか、目をグルグルさせながら困惑していた。
一方の人間は、ゾンビを翻弄したあとに、ゾンビの懐へ潜り込み、ゾンビの左腕にナイフを突き刺した。
「あ」
「あの人間、しくじったな」
しかしそこはゾンビ。左腕を刺された程度で痛がる筈が無い。直ぐ様右腕で人間を捕獲、頭に火炎放射器を構えて火炎を放射した。人間は、しばらくもがいたが、やがて動かなくなった。
「実験は終わりか。さて、紅茶と菓子をきたし、何から話すかな」
「ええ、今回の改造アンデッドには、問題点が多々ありましたから」
俺とキラーは、若干呆れた様子でメイドが持ってきた紅茶と菓子をつまみ始めた。
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