ご長女様と模擬戦
模擬戦です。
「来たわね。さあ戦いましょう?」
会っていきなりこれかよ。しかも模擬戦とか言っておきながら、武器であるレイピアを殺気を帯びて何度も何度も素振りしていた。因みに《鑑定》した結果、彼女、エリス・ドミニクの強さはこう出た。
名前 エリス・ドミニク
種族 人間
職業 軽戦士 ドミニク辺境伯家令嬢
レベル 18
ランク B
スキル 剣術 俊足 礼儀作法 帝国式格闘術
こうなっていた。こいつランクBだったのかよ。う~む、勝てるかな?俺は並のモンスター相手なら、何とかなるが経験豊富な人間だと力で勝っても技術では勝てないかもしれん。あ、そういえば俺のレベルどうだったかな?
名前 黒木影正
種族 中級魔人
職業 ダンジョンマスター
レベル 8
ランク B
スキル 鑑定 気配察知 魔法一式 暗殺 魔力操作 アンデッド創造
・・・進化しとる。中級魔人か。いつ進化したか分からないけどきっかけはある。死霊公との戦いだな。あと初級魔法一式から魔法一式になってるな。魔力操作っていうスキルも増えてる。
最後のアンデッド創造、これって魔法の類いじゃないのか?効果は、死体を媒介にアンデッドを生み出すもので、素体と魔力の込め次第では上位種を生み出すことも出来るらしい。使う機会あるかな?
結果、かなり強くなってた。
「ねぇ貴方、何でそんな仮面を被ってているのかしら?外した方がいいんじゃない?」
「外す必要はありませんよ。結構見えますから」
「そ、ならいいっわ!」
うおっ!会話からいきなり仕掛けてきたぞ!
俺は、レイピアによる突きをギリギリでかわし反射的にエリスの背中に回し蹴りを放った。
「がはっ!」
そして容易に吹っ飛ぶエリス。は?おいおい、こんなに簡単に吹っ飛ぶものか?それとも下級魔人と中級魔人ってこんなに差があるものなのか?
「くっ中々やるわね。じゃあこれならどう!?」
たった一発で、かなりダメージを受けたらしいエリスは、レイピアを俺に向けるとこう唱えた。
「《風よ》」
そう唱えた瞬間、エリスの姿が霞み、俺の脇腹から鮮血が溢れた。
「え?速いっ!?」
「あら、致命傷じゃないのね!」
この女、ガチで殺しに来たぞ!?危な!もう少しで臓器が飛び出るところだったわ!ええい、目立ちたくないとか言ってる場合じゃない!とにかくこのバトルジャンキーを静めなくては!
「それじゃあもう一発いくわ、よ?!」
彼女は、再び《風よ》と唱えようとした時、目の前にカゲマサがいなくなっていることに気づく。一体何処に?エリスは、辺りを見回しカゲマサの姿を探す。しかし、目的の存在の声は案外近くから聞こえた。
「後ろだよアホが!」
「っ!?」
エリスは、必死に距離をとろうとするが既に遅し、カゲマサの渾身のアッパーが炸裂した。更に打ち上がった身体に拳による連撃が放たれる。
エリスは、練兵場の壁に叩きつけられ余りの威力にエリスは、カゲマサの強さを改めて認識して意識を手放した。
俺はというと、その場で倒れているエリスを持ち上げ、背中に背負うと観戦していた兵士に質問する。
「すみません、医療室みたいなの無いですか?」
「え?あ、はい!こ、ここここちらです!」
俺は、案内された部屋のベッドでエリスを寝かせると、早々に立ち去った。
◆兵士の反応
「す、凄かったな」
「あ、ああ。あの風の戦姫と呼ばれるエリス様を一瞬で倒したんだからな」
「な、なあ」
「ん?どうした?」
「いや、ちょっとな。あのカゲマサって人、出身ってどこなんだ?」
「そういえば知らないな」
「聞いてみるか?」
「仮面をしているあたり、余程有名なのかな?」
「どうだろう?」
「もしかして他国の英雄かな?」
「おいおい、英雄はないだろ」
「でもさ。英雄に次ぐ実力者のエリス様や死霊公に勝った人だぞ?英雄かと思うじゃないか」
「ああ、確かに」
兵士達がカゲマサについて話していると、後ろから声をかけられた。
「ちょっと、貴方達」
「え?あっ!ご長女様!?お怪我は大丈夫なのですか!?」
カゲマサに敗れて、医療室に運ばれたはずのエリス・ドミニクが立っていた。立っていたと言っても杖をついているが。
「彼は?」
「はい?」
「カゲマサは何処に行ったの?」
「は、はい!カゲマサ殿ならご長女様を医療室に運んだ後、何処かに立ち去られました」
「そう」
この時兵士達は、エリスの戦闘凶な性格を思い出していた。多分、再戦のことを考えているのだろうとエリスを見て、そう思っていた。しかし当のエリスはというと。
(カゲマサ、か。強かったな。けど、何?このモヤモヤした気持ちは)
カゲマサの強さの理由を考えていた。同時に名状し難い感情に戸惑っていた。
エリス・ドミニクは、女であることから貴族、特に帝都の貴族に軽く見られていた。それが嫌で努力し、通称〈風の戦姫〉と呼ばれるようになったのだ。しかし彼女は、貴族というものに侮蔑の感情を抱いている。何故ならばお見合いで出会った貴族の子弟は、エリスに対して結婚してやると言わんばかりの態度だった。気に食わなかったので、決闘で伸びた鼻を折ったのだが、その度に弟のマジーメからもう少し女らしくしてくれと言われてしまった。楽しかったのは、帝国軍との合同演習位だった。
そんなことが毎日のように続く窮屈な世界に、飽き飽きしていたときに舞い込んだ死霊公討伐の話、そして倒した男が領主の館にいると聞き会いに行った。その者は、仮面をした男だった。一瞬犯罪者か?と思ったが、話してみると以外に普通で拍子抜けしてしまった。
しかし、その評価は今回の模擬戦という名の決闘で覆った。私の剣術を三度かわした挙げ句、容赦なく背中に回し蹴り、腹に強烈なアッパーを喰らわせて追撃の連撃を負ってしまい意識を手放してしまった。そして医療室で目を覚ました時、沸き上がってきたのはカゲマサへの再戦、ではなく純粋に興味だった。何故強いのか、このもやもやの答えを知っているのか。それほどまでにカゲマサの強さは、エリスに影響を及ぼした。
(私は、お前の強さの秘密を知りたいぞ!そして、私に抱かせたモヤモヤもな!)
エリスは、一人カゲマサの強さとモヤモヤについて考え始めた。そのモヤモヤが戦闘欲以外の別の感情だと気づかずに。
次回は、少し魔神関係の話の予定です。
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