戦い、そして不穏な影
駆け足になってしまいました。戦闘描写難しい( ;´・ω・`)
◆マーロイ北部 砂漠地帯 カゲマサside
さて、どうするか。奴は、残りの魂を一つだけと言っていたが、嘘の可能性もあるんだよなぁ。スキル《真実》で聞いてみるか?
「《真実》。“騎士”、お前本当に魂一つだけか?」
「ああ?一つに決まってんだろ?」
····駄目だ。効いてるのか効いていないのかまったく解らん。どうする?下手に仕掛けて魂爆なんてされたら。
俺がそう思案していると、ナハリアがサマンサとリリエルの死体をゆっくりと下ろし、弓矢を構える。
「····ね」
「あ?何て言った?女エルフ」
何か呟いたが、良く聞き取れなかった“騎士”は、首をかしげる。
「···死ね!」
ナハリアが発したのは、濃厚な殺気だった。まあ、当たり前か。今まで苦楽を共にしたであろう仲間が殺されたんだから。俺としては、戦いの駒が減ったぐらいの感覚だけど。
「アッハ!良い殺気だぁ!心地よい、心地よいぞ!もっと俺にその殺気を向けろぉ!クソザコエルフゥ!」
しかし、腐っても“騎士”。飛来する矢をヒラヒラと躱しながら、ナハリアを煽る。煽られたナハリアは、殺気を更に強めながら矢を放っていく。
「聖矢よ!我が敵を討ち、我が同胞の仇を!《極光聖弓》!」
《極光聖弓》?何故にアポロ?····ああ、確かギリシア神話の太陽神アポロが持つ光をあらわす弓矢で百発百中の命中率、さらに傷の治療まで行う事もできる弓矢···だったっけ?その神話をモチーフにしたスキルかな。どうでも良いか、“騎士”を倒してくれれば良いんだし。
「はっ!幾ら強力なスキルを使おうと、当たらなきゃ意味ねぇんだよ!」
“騎士”は、ナハリアの行動を嘲笑いながら首を動かして躱す。しかし放たれた矢は、首を動かした瞬間、グリンッと向きを変えて“騎士”の首に命中したではないか。
「ウゲッ!?何じゃこりゃあ!」
「サユリ!」
「解ってる!」
首に躱した筈の矢が刺さり動揺している“騎士”を見てチャンスと見たのか、勇者サユリが聖剣を持って突貫する。
だが、俺は見た。勇者サユリが聖剣を持って突貫した瞬間、“騎士”の口角がニヤリと上がったのを。
「馬鹿野郎!罠だ!」
「遅いぞゴミめ!《冥針剣・針山地獄》!」
俺の声に反応して、咄嗟に回避しようとした勇者サユリだが、“騎士”の《冥針剣・針山地獄》が一歩先だったようで、針の数本が勇者サユリの肉体を貫く。
「ああああ!!!《極光聖弓》!!サユリを治してぇぇ!!」
ん?何してんだあの馬鹿!味方に矢を撃って···ありゃ傷が塞がりやがった。ああ、太陽神アポロの神話にもあったな、傷の治療が可能だって。
「ッ!!助かったナハリア!」
「ごめんなさい!タイミング間違えた!」
ナハリアは、しきりに謝るが勇者サユリは特に責めたりはしなかった。その後勇者サユリは、《冥針剣・針山地獄》を警戒してか一端距離をとる。
「チッ、クソザコエルフも回復持ちかよ。ウッザイなぁ~。そっちも殺しときゃ良かったぜ」
“騎士”は、ナハリアを見て苛立ちを隠さず、首をガリガリかきながら呟く。
「チッ、こうなったら血ノ池地獄で」
「いや、俺を忘れるなよ」
「ッ!!」
どうやら完全に意識が勇者にいっていたようなので、俺は【ディメンションムーヴ】で背後に転移。【ボックス】から取り出した長剣で“騎士”の左腕を切り飛ばした。
「て、テメェ!」
「お前、さっきより弱くなったか?」
実際弱くなっている。港町セイワンであった時よりかは確実に弱い。どういうことだ?もしや、乗っ取ったチョウの肉体が旧肉体より若干弱いせいなのか?
まあ、良いか。弱いのならこの場で捕らえて“冥府教”の情報を吐かせるだけだ。
「嘗めんじゃねぇ!《冥炎剣・灼熱地獄》!」
苛立ちを隠さない“騎士”は、俺に殺気を放ちながら《冥炎剣・灼熱地獄》を放射。俺は、咄嗟に風魔法【エアアーマー】で空気の鎧を精製、防御した。
「なっ!?糞、この肉体全然使えねぇじゃねぇか!」
いや、そこまで弱くはないだろう。あくまでも若干弱いだけで、そこまで違いはない筈だ。あるとしたら。
(慣れ、だろうな)
自動車の運転と同じだろうか。俺だって初めて魔人の肉体を動かすときは非常に手加減が下手だったし不安だったが、慣れてしまえばそこまで苦ではなかった。だが、コイツの場合前の肉体と違ってまだ慣れてないから肉体の強さが引き出せてないのかもしれん。
(そうだと良いんだがな)
俺は、そう仮定しながらも少し不安だったが、肉体の不自由さに四苦八苦している“騎士”を見て仮定が正しいこととした。
「よし、捕まえるから弱らせるか。邪魂そのものには効かんだろうがな」
俺は、長剣を【ボックス】にしまいこみ、久々に魔法書を取り出す。
「えっ~と、どれだどれだ?」
「隙だらけだ馬鹿め!」
おっと、“騎士”のやつ若干慣れたのかさっきよりも早い動きでこちらに向かってくる。だが、もう遅い。
「あったあった。【ハイパーバインド】」
【ハイパーバインド】。対象を透明な縄で拘束する魔法。これの下位互換に【バインド】が存在する。
「ぬお!?動けねぇ!?」
「悪いね。お前を連行するから、情報はそこで吐いてくれ」
「ふざけんじゃねぇ!話しちまったら裏切りと取られて本体に破壊されちまう!これ以上殺せねぇじゃねぇか!」
本体に、ね。もしかしたら本体の“騎士”は、コイツを通して見てるかもな。まあ、それだったらどうしようもないが。
「どうだって良いよ。さあ、連行され」
「カゲマサァァァ!!そこどけぇぇ!!」
「ん?··あ」
いきなり呼ばれたのでそちらに向くと、
《極光聖斬》を発動寸前の勇者サユリと、《極光聖弓》を発射寸前のナハリアの姿があった。
「糞!あの馬鹿共が!俺達の任務はコイツの確保じゃねぇのか!?」
俺は、大慌てでそう叫ぶが二人は復讐心に支配されているのか、俺の言葉に耳を傾けない。いや、聞こえているようだ。では何故?
「わ、わからない!何故か体が急に!」
「なんだと!?」
俺は、勇者サユリが何者かに操られていることを看破したが、では誰がと思い、“騎士”に振り向く。そこには。
「····ひ、ひひひひ、ひひ、お前に捕まるぐらいならいっそ死ぬさ!今、奴らの中に隠していた二つの魂を入り込ませた!」
「なんだと!?」
「あわよくば精神も支配したかったが、二人の精神力が桁違いだった。だが、肉体のある程度は支配したぞ!」
“騎士”は、狂った笑みを浮かべながら力説する。
「おっと、止めようとしても無駄だ!もう、発射してやる!」
「ぐっ!か、カゲマサ!もう、ダメ!」
「なっ、く、糞がァァァ!!」
俺は、悔しさ混じりの叫びを上げた後、直ぐ様勇者サユリの後ろに【ディメンションムーヴ】で転移する。
そして、勇者サユリの《極光聖斬》と、ナハリアの《極光聖弓》が“騎士”に放たれた。
ふうん、あの私を殺ったのか。いや、自殺かねぇ。まあ、倒したのは間違いないか。あれでも百年持った奴なんだけどなぁ。
しかし、カゲマサ、ねぇ。どうも気になるなぁ。魂を知覚できる私だからかなぁ。なんか、魂に隠蔽が掛かってるんだよねぇ。それも、人間程度では絶対に出来ないほどの隠蔽が。まさしく神の使う隠蔽···。
いや、もしかして、そうなのかな?もしかして、カゲマサが神の選んだ私達への抑止力?それにしては、弱いけど。でも、魂にあれだけ高度な隠蔽が掛かってるんだよね。何かしらありそうだ。
暇を見つけたら、調べてみるかな?
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