“騎士”の正体、その一端
ついに、“騎士”の正体の一部が出ます。
◆マーロイ北部 砂漠地帯 カゲマサside
サマンサとリリエルを殺害した〈調教師〉チョウ・キュウホ。その顔は、ニタニタと嘲りと愉悦に満ちた笑みを浮かべながら立っていた。
「···え?··サマンサ?リリエル?」
ナハリアは、絶望の表情を浮かべて既に死体となった二人に声をかける。
「う···嘘よ、二人が、こんな····あっさり」
「死ぬんだなぁ~、これが」
チョウ・キュウホは、赤い結晶を溶かして液体、血液に戻して二人を解放する。ナハリアは、慌てて二人を受け止めようするが。
「ッ!!危ない!」
勇者サユリが気付いた時には、チョウ・キュウホはナハリアの前に急接近、手に持つ長剣で二人の死体ごとナハリアを刺し殺そうとする。
「いや、させねぇよ。【クリムゾンジャベリン】」
「ッ!おっとっとッ!」
しかしそうはさせまいと俺は、チョウ・キュウホに【クリムゾンジャベリン】を発射。チョウ・キュウホは、即座に身を捻って回避。中々身軽な奴め。
「おっとっと~、危ない危ない。危うく燃やされるところだったぜ」
ヘラヘラ嗤いながらチョウ・キュウホ?は、言葉を発するがどうにも解せん。何故いきなり裏切った?どれ、少し《鑑定》を·······。
ああ、そういうことね。大体わかった。
「···何故だ。何故裏切りやがったチョウ・キュウホ。まさか、テメェ元からこのつもりで」
勇者サユリは、歯を食い縛り拳をプルプル振るわせながらチョウ・キュウホを問い詰める。良く見ると、握りしめた拳から血が漏れでている。相当強い力で握りしめているのだ。
「ブハッ!元から?ああ、元からだとも!俺は、元からお前等全員惨たらしく殺す積もりだとも!ハッハーー!!」
····今回のコイツは、妙にハイテンションだな。まあ良い。俺は、茶番はあまり好きじゃないんでサクサクと終わらせよう。
「貴様、絶対に許さねぇぞ···っ!ナハリア一緒に奴を」
「おい、いい加減にその下手な茶番は止めろ」
「··は?」
勇者サユリは、俺の茶番発言に首をかしげる。いまいち飲み込めていないのか?
「お、おい!どういうことだよ!茶番って!」
「勇者サユリ、今奴を《鑑定》出来るか?」
「ああ?そんな····の」
勇者サユリは、どうやら奴を《鑑定》したようで、言葉を失ってしまった。
「····嘘だろ」
「現実だ。受け止めるしかない」
《鑑定》の結果、奴の数値はというと。
名前 無し
種族 邪魂寄生体
職業 “冥府教”上級幹部“騎士”の分体
レベル 89
ランク A+
スキル 地獄王 多魂操王 隠蔽 拷問 威圧 剣聖 悪意還元 etc.
今まで見えなかった情報がこれなら、確かに言葉なくすよな。殺した筈の敵がまた現れたんだから。
「しかし、驚いたよ。まさか“騎士”が邪魂なんていう寄生虫モドキとはな」
《鑑定》の説明欄には、俺にとって初の情報が多くのっていた。この解説機能、弁理。
・邪魂
怨霊の亜種。人間や亜人等といった知的生命体の負の感情と大気に漂う魔力が混ざり会い、突然変異を起こり生まれた個体。世界でも極々稀にしか生まれない希少な存在。知的生命体に寄生し、肉体を乗っとる能力をもつ。
・《地獄王》
スキル《地獄顕現》を極めた者のみが獲得できるスキル。地獄の一面を再現でき、地獄の僕を召喚可能、身体能力も大幅に上がる。《冥炎剣・灼熱地獄》のような《冥剣術》が扱えるようになる。ただし、見合った武器がなければ使えない、魔力の消費が大きいと欠点もある。オマケに、コピーなので効果は半減している上に、地獄の再現が不可能となっている。
・《多魂操王》
スキル《操魂》を極めた者のみが獲得できるスキル。他者の魂を抜き出して己の支配下に置いたり、集めた魂をエネルギーとして魔力や肉体を回復へと転用、魂を一気に凝縮させ解き放つことで大量破壊を行う魂爆が可能。ただし、コピーなので効果は半減している上に、魂の転用が使用不可となっている。
・《悪意還元》
他者からの悪意を己の経験値とするスキル。他者からの悪意が強ければ強い程得られる経験値は増大する。ただし、コピーなので効果は半減している。
なんとも凶悪なスキル群で。種族は邪魂に寄生された魔族で分体、三つのスキルはまさかの縛りあり。特に《地獄王》の地獄の再現と《多魂操王》の魂の転用なんか使われたら、奴の魂保有量にもよるけど半永久的に戦闘を続けられる上にこの上ない地獄に合う羽目になってたな。
しかし、コイツの本体はスキル全部開帳してんだよな?だったら強すぎないか?コイツ。
ん?ちょっと待てよ?コイツがさっきまで旧“騎士”に入ってたなら、あの旧“騎士”に入ってた魂はなんだ?
「お前、何故その肉体に入れた?お前の能力には、肉体に寄生は出来ても魂の分裂までは出来ん筈。どうやって分体を」
「あ?あ~、それか。簡単さ。見たんだろ?俺のスキルを」
現“騎士”は、ニタニタ嗤いながら言葉を発する。
「簡単だ、《多魂操王》の応用で既存の魂に“俺達”の情報を転写し、転写した魂を適当な肉体に入れてやれば」
「···なるほどな。即席のお前が出来るわけだ」
「その通り!つまり魂に転写して肉体に注入を繰り返していけば~?」
「あっという間にお前達が増えまくると」
「そう!今や“俺達”は、いたるところにいるぜ?もしかしたらお前の近辺にもいるかもな?ヒャハハハハハ!」
チッ、まるでゴキブリみたいな奴だ。一度逃れたら、他者から魂を奪って転写、注入を繰り返して数を増やすとか気持ち悪いことこの上ない。勇者サユリも、少し顔を青くしている。ワラワラいる“騎士”を想像したのだろう。
「じゃあ、たった今死んだ“騎士”も、お前が発した千回以上死んだという発言も」
「ああ、そうだ!“俺達”の内部にあった1054個の魂はお前に破壊され、そちらの肉体に残した魂も今死んだ。今やここらの分体で生きてるのは俺の魂だけよ!」
つまり、今コイツだけっと。しっかし、良くペラペラしゃべるなぁ。
「というか、何で性格が違うんだ」
「はぁ?社会に対するカモフラージュのためだろ」
擬態目的か?いや、魂を統合しているならあんまり意味は···まあいいか。
「なるほど、良くわかった。もう死んでいいぞ。おしゃべり“騎士”」
「断る!俺は、まだまだ殺し足りないんだよぉ!!死ぬなら、あと十万くらい汚く殺してから死にたい!!」
···どうなら殺人狂という根本は変わらないようだな。
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