マーロイ北部での戦闘②
誤字報告ありがとうございました。
◆マーロイ北部 “乾きのダンジョン”前 カゲマサside
【核撃豪砲】。
今の俺が使える最大クラスの魔法。属性は火で、【核撃爆弾】と違う点として、【核撃爆弾】が着弾場所を起点に全方位へ超高熱を撒き散らし敵を殺し尽くす魔法に対して、【核撃豪砲】は超高熱を一直線に集約して放つ魔法である。そのため、並みの相手が触れたら骨すら残らない凶悪な魔法。
そう、凶悪な魔法、だったはずだ。
なのに、これはどう言うことだ?
極光が収まり、《操骨》によって伸ばしていた骨を肉体に収納俺は、そう思わずにはいられなかった。
俺の【核撃豪砲】は、確かに奴に直撃してそのまま背後の“渇きのダンジョン”の崩落跡もろとも消し飛ばした筈だ。
しかし。
「うゥゥ~~♪痛いィィィぃ♪いタいぃぃィィィ♪」
奴は、生きていた。下半身が消失しながらも生きていたのだ。地べたを這いずり、笑顔で痛みに悶えながら。
「何故だ?威力を押さえすぎたか?·····いや、違う」
俺は、一つの結論に達した。自分でも頭がいたくなるような初歩的なミス。もうしないと言っておきながら、無意識に行っていたミス。
(慢心、か。【核撃豪砲】なら確実に仕留められると高をくくったのだ。情けない、情けないぞカゲマサ!お前は、いつまでこんな情けないミスを繰り返すつもりだ!サタリム王国の時と同じミスを!)
俺は恥じた。あれだけ油断はしないと言っておきながら、いざフタを開けてみると慢心して威力を最大にせず、一発で仕留められない間抜けの完成ではないか。
「···よし、次はしない。次こそは確実に仕留める」
俺は、そう心に刻み付けて“騎士”を見下ろす。
「ヒィィぃぃィィィぃィィィ♪ひぃぃィィィぃィぃぃ♪剣ガァ、剣がァ、ナくナってシマい、ましタ♪」
“騎士”は、笑顔を浮かべながら言葉を発する。その言葉を聞いた俺は、確かに奴の剣が消え去っていることに気が付いた。
(そういえば、奴の技は全部《冥~剣・~地獄》とか言ってたな。もしや、剣がなければ技を発動できないのか?)
俺は、そう推測するが、確証はないので取り敢えず思考のすみに置いておく。
「アがッアガガがガガががガ、オこラレるゥゥ~~♪メイしュサマにオコられるゥゥ~~♪デ、デも、ソれもイいカモぉ♪」
「盟主だと?おい、盟主とは誰だ。答えろ“騎士”!」
「フひひひひヒひひヒヒヒひひ、ヒヒヒひゃハハハハははハハはハハハハ!!♪」
“騎士”は、何が可笑しいのか激しく笑い出す。
「何が可笑しい!」
「ナニっテ、コのカノうセいにキヅいテナいキミがオカしイノさ!♪」
“騎士”は、自身の胸に手をねじ込む。ねじ込んださきから血が溢れ出るが、そんなこと知るかと言わんばかりに、どんどん奥へねじり込む。そして、あるものを抜き出した。
それは、小降りな短剣。
そう、短剣。短いが、立派な剣である。
「ッ!?しまった!肉体に仕込んでいたのか!!」
「····そノトオり♪《メイ限ケん・無限ジごく》!♪」
そして始まる紫色の発光。身体が完全に完治させるあの光。
「チッ!【ヘルフレイム】!」
俺は、即座に放てる【ヘルフレイム】を紫色に発光する“騎士”に放つ。
「【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!」
そして俺は、何度も打ち続けた。何度も、何度も、何度も。魔力が尽きたらミレンダ印の魔力ポーションを飲みまくり魔力を強引に回復させ、再び【ヘルフレイム】を打ち込み続けた。
◆勇者パーティーside
それは、勇者パーティーにとっては地獄絵図だった。一体目の地獄鬼を倒し、いざ二体目の地獄鬼を倒さんとしていた時、突如として地獄鬼が停止、そして地獄鬼の背後からこれ以上無いほどの極光が出現したのだ。極光が収まった時には。
「···嘘でしょう?」
「だ、ダンジョン跡が」
ナハリアとリリエルの言葉で“渇きのダンジョン”があった場所を見ると、“渇きのダンジョン”があった場所が綺麗に消し飛ばされていたのだ。いや、“渇きのダンジョン”跡だけじゃない。背後にあった山々までも綺麗に消し飛ばされている。
「···はっ、こんな威力の攻撃、あの〈帝将〉カゲマサさんぐらいしか出来ねぇな」
勇者サユリは、そう判断して停止していた地獄鬼の首を胴体から切り離す。地獄鬼は、何の抵抗もしないまま事切れた。
「さて、カゲマサさんはどうな···った」
そこで勇者サユリが見たのは、灼熱の炎があたりに漂う空間だった。その中心には、〈帝将〉カゲマサが敵の首領と思わしき男に何度も火魔法を叩き付けていた。
「【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!【ヘルフレイム】!」
そう何度も、叩き付けていたのだ。
そこには、敵を生かしては返さないという決意の現れを勇者サユリは感じ取る。
「ね、ねぇ、リリエル。【ヘルフレイム】って」
「え、ええ。火魔法に属する魔法で、最上位、いや禁忌の魔法に最も近い魔法です。我が故郷ロシフェル聖王国でも、使えるのは十人にも満たないとか。というか、あんなに連発出来る筈が」
「···つまり、リリエル。カゲマサさんは、【ヘルフレイム】を連発できる魔力量を有してるってことかい?」
「サマンサ····ええ、そうなります」
「···うっそ」
そんな仲間の声を聞きながら、勇者サユリはジっと【ヘルフレイム】を放ち続けるカゲマサを見続ける。
(なあ、神様。解ってたけど、やっぱりこの世界はキツすぎるぜ。強さの格が上の奴が多すぎる)
自分を召喚した、あのセブンス帝国の皇祖帝叱り、セブンス帝国軍元帥であるロロ叱り、〈帝将〉カゲマサ叱り。強者が多すぎる。
(···だけど、諦めないからな。いずれアタシも彼等と同じ土俵に上がってやる!)
そう、勇者サユリは決意した。
◆カゲマサside
もう、何百回【ヘルフレイム】を放っただろうか。あたりの地形は、既に原型を止めていないが俺は一心不乱に放ち続けている。魔力ポーションで魔力を回復させながら、いまだに紫色の発光をやめない“騎士”へ。
(···コイツの《冥限剣・無限地獄》、いつになったら終わるんだ?)
俺は、ふとそう思った。“騎士”は、《冥限剣・無限地獄》をどんな原理で発動しているのか。少なくとも魔力ではない。そんな兆候が無いからだ。
(まさか、本当に無限の如く治せるのか?だとしたら、先にこっちがバテてしまう)
俺は、そう考えながらも【ヘルフレイム】を放ち続けた。
とうとう、【ヘルフレイム】計千発を越えた。俺の魔力ポーションもそろそろ底をつきかけている。
そんな時だった。
『····ン、ガガ』
(ん?)
『モ、モウ』
(なんだ?)
『ヤメロ!』
「なっ!?ぶふっ!」
その声が耳に届いた瞬間、紫色に発光していた“騎士”が突如として俺に体当たり。俺は、思わず腕を交差させて防御したが、後方に吹き飛ばされてしまった。
やがて、紫色の発光が収まり、“騎士”の完治が完了したことが俺には解った。糞!と内心憤っていた俺だが、目に飛び込んできた光景に思わず口が空いたままとなった。
確かに“騎士”は立っていた。
しかし、身体中が【ヘルフレイム】の炎によってグズグズと焼けただれていた。皮膚はほとんどがドロドロに溶けており、一部は炭化している。挙げ句の果てには、骨がチラホラと肉体から覗いている始末。顔は、目がギョロギョロと動いているという非常にグロテスクな姿となっていた。
「···どういうことだ。《冥限剣・無限地獄》を使ったんだろう。何故完治していない」
『·····ガ』
「うん?」
『チマチマチマチマ、コウゲキシヤガッテ!ソノセイデ、センカイイジョウシヌハメにナッタジャネェカ!コノクズヤロウガァァァ!!』
····キャラ変わった?
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