動き出す者達②
◆港町セイワン 秘密会議室 カゲマサside
さて、勇者パーティーも来た事だし、後は彼方さん待ちだな。
え?何故勇者パーティーが来たのかって?それはだな、あの“冥府教”関係者二人を殺害した後、ロロさんに連絡した時だった。
『あ、もしもし。ロロさんですか?実は“冥府教”の構成員から幹部“騎士”という輩の居場所を聞き出したのですが』
『なるほど、その場所とは?』
『なんでも、マーロイの北にある“乾きのダンジョン”という場所らしいです。自分的には行く価値はあると思いますが』
『···解りました。では早速そちらに勇者パーティーを送ります』
『え?何故です?あまり大事にしたくないのでは?』
『いえ、勇者パーティーには商人の護衛として来てもらいます。あくまでも“冥府教”は秘密裏に処理します』
『了解です。集合場所は?』
『港町セイワンの北地区にある古びた館です。外観は黒い屋根に白い壁、そして二階建てです』
『はい、解りました』
という会話があったのだ。で、俺たちはこうやってセイワンの北地区にある館に集まった訳だ。まあ、あと一人来るのだが。
「さて、あと一人来るから暫く寛いでてくれ」
「ちょっと!後一人って誰よ!」
そう噛みついてくるのは、うちの仲間の一人で現在は魔人になったナタリアの妹、ナハリア。
「ちょっとナハリア。仮にも仲間なんだから仲良くしなさいよ」
「そうですよ。そんなに怒っていると、聖神様から剥げる罰を受けますよ?」
「私は剥げないわよ!」
怒るナハリアを諌めるのは、勇者パーティーのお姉さんである重戦士サマンサ・レーシュ。そしてパーティーの回復役で聖堂教会所属の上級神官、リリエル・アールクルス。
「おいおい皆、静かにしてくれ!話が進まない!」
「おっと、ごめんねサユリ」
「申し訳ありません」
「ぐぬぬ」
そしてそんな三人を纏めるのが、異世界人にして勇者の勇者サユリ。本名、阿川小百合である。
「と、すまないね。うちのナハリアが」
「いや、気にしてない。あと一人だったな。それは」
俺がロロさんから伝えられた相手を口にしようとした時、扉から誰かが入ってきた。
「む、全員いるな。私が最後か」
入ってきたのは、慎重二メートル超えの男で、筋骨粒々。腰には剣を携えている。何より目を引くのは、額に生えた二本の角。
「ま、魔族!」
リリエルが叫びながら距離をとった。他の勇者パーティーも急いで距離を取る。まあ、魔族といえば悪いイメージトレーニングが先に来るよな。しかし俺はというと。
「ロロさんから聞いている。今回はよろしく頼む」
「うむ、お互い最善を目指そうじゃないか」
入ってきた魔族の男と握手していた。まあ、コイツが来るのは聞いていたからな。聞いた時は、散々驚いたけどね。
「か、カゲマサさん?その方は?」
「ん?ああ、最後の一人だ。彼は」
「カゲマサ殿、紹介は自分が」
魔族の男は、俺の前に立ち話し出す。
「私は、魔王軍第六軍団所属のチョウ・キュウホという。職業はテイマーだ。この国では、〈調教師〉と呼ばれている」
◆首都パレクス ボザ宮殿 サラーデの執務室
首都パレクスのボザ宮殿では、サラーデ・パルミッツが情報部から仕入れた情報を精査していた。
「“冥府教”、か。奴等が動き出した時期と〈監視員〉が全て出動した時期が一致している。シャムバ殿は、コイツらの監視に当てたのだろう。しかし、何故私に教えない?そうすれば、私の鍛えたマーロイ軍が解決したのに」
サラーデは、シャムバへの愚痴を言いながら報告書を読んでいく。
「“冥府教”と思わしき輩は、北の“乾きのダンジョン”へ向かったと。···おかしいな。北に張り付けてる部隊からは何の連絡もないぞ?」
サラーデは、この疑問に首を傾げるが直ぐに持ち直す。
「仕方無い。今動かせる戦力で、“乾きのダンジョン”に行くぞ。“冥府教”とやらを退治して、マーロイ首長連邦にマーロイ軍有りと知らしめてやる」
そう決意した時、ドタドタと一人の兵士が駆け込んできた。
「さ、サラーデ様!大変です!」
「どうした!話せ!」
「はっ!マーロイ南部のパルミッツ領にて、大規模なサンドシャークの群れが発生!その数、三百匹!付近の村落が襲われているとのこと!」
「な!?三百匹だと!?」
「現地の駐屯部隊と冒険者が一体となって食い止めていますがこのままではジリ貧、急ぎ救援を!」
「わかった!急ぎ近場の部隊を!」
「申し上げます!」
サラーデが命令を発した瞬間、次の兵士が駆け込んできた。
「マーロイ西部のワンロール領にて、反乱が発生!反乱軍が町を占領しているとのこと!」
「反乱!?こんなタイミングで!」
「申し上げます!」
そして更に三人目の兵士が駆け込んできて。
「アークダール国境付近の兵士より伝令!アークダール軍が再度侵攻を開始とのことです!」
「な、な、な!?」
まさかの事態にサラーデの頭は追い付かなくなった。
◆ボザ宮殿 シャムバの執務室
場所は変わって、ワンロール家当主シャムバの執務室。ワイン片手にシャムバは一人晩酌していた。そこに全身黒ずくめの人間が入ってくる。
「···ご命令通り、サンドシャークの大群を誘導、シャムバ様の領地に燻っていた反乱者の焚き付け、アークダールへの密告、完了しました」
「ご苦労、暫く休むがよい」
「ははっ!」
そう言って黒ずくめの人間、〈監視員〉は部屋から去る。
「···サラーデ。人の世には、身の程というものがある。此度の件、貴様には荷が重い。あの超常の存在と戦うには、余りにもな。だから、余計なことをせずに国内のことを優先しろ」
シャムバは、ワイン片手に静に呟いた。
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