肉体欠損、治療実験①
閑話みたいな話です。
◆ダンジョン カゲマサside
俺が第三十五階層の闘技場で【エンチャント・グラビティ】を施した服を着て鍛練をしていた時、迷宮研究所主任のミレンダがやって来た。
「ん?ミレンダか。何か用か?」
「ああ、ちょっと頼みがあるんだよねぇ。」
頼み?一体何だ?
俺は、少し考える。人工魔人の素体?いや、素体なら冒険者や盗賊の死体、人造人間が大量に保管されている。確か、後五千ほどあったかな?では、希少鉱物の採集?新たな武器開発やゴーレム作成に使うのかな?
俺は、取り敢えずミレンダの話を聞くことにした。そして数分が経過して俺は、ミレンダの話をまとめる。
「なるほど。つまりは、クローン生成技術と回復技術を使って腕の欠損を治してみたいと?」
「ああ、そうさね。腕の欠損を治すのは、《再生》スキルでも出来るけど、持っていない者は無理だからねぇ。」
「そういえば、俺が身体を真っ二つにされた時には、治癒の魔法を使っても新たに生えてくるといったことは無かったな。で?何故そんな研究を?」
俺が疑問だったのはそこだ。ミレンダは、フリン公国で非道な事件を起こしまくった魔女。基本己の欲のままに動き、回りの被害を省みず使えるものは何でも使う奴だったはずだ。今までも回復技術の研究、興味無さそうだったのに、だ。
「いやね。万が一腕の欠損が魔法やスキルで治らなかった時、物理的に治す手段が必要だろう?」
「それだけか?」
「そ、それだけさ。」
あ、少し目が泳いだ。何か隠してるな?コイツ。
「本音を言え。さもなくば。」
「さ、さもなくば?」
「貴様の所に供給しているDP及び素体、資源を全部撤回するが?」
「回復技術とカッコつけて、各部位の異形化を研究してました。」
ミレンダは吐いた。どうやら、回復技術でクローンと肉体の接合が成された後、どうやらドラゴンやらオーガといった強力なモンスターの腕を培養して人造人間や兵士に接合、更なる質の良い兵士を作り出そうとしたらしい。
「それなら動物型人工魔人がいるだろう。彼奴等の肉体的だって、動物やモンスターの肉体をベースにしてんだから。」
「いや、さ。興味が沸いちまったからしょうがないだろう?それにこの技術が確立すれば、どんな欠損も治せるよ?」
「・・・まあ、兵士の殉職率も下げられるか。良いだろう、許可する。ただし、味方を実験台にするのは許さん。」
「あいよ!・・・実は頼みはここからなんだけどねぇ。」
「うん?」
「まず手始めに、身体の一部分が欠損した人間を複数持ってきてほしいのさ。まず人間に出来るか、試したい。下手に反抗するのを防ぐため、奴隷だったらなおグッド。」
「奴隷、か。良し、大量の奴隷を扱っている場所に心辺りがある。調達してこよう。」
「頼んだよ?」
俺は快諾して、その場から転移した。
◆新エルザム神聖国 サンダーソン商会
俺が転移したのは、絶賛復興中の新エルザム神聖国。そして今やエルザム最大の商会であるサンダーソン商会に直行した。もちろん茶色仮面の姿で。
「なるほど。身体に何らかの欠損を持った人間ですか。」
「ああ、どうだ?」
商会の会長である褐色イケメン、リゲル・サンダーソンを前に俺は、話を続ける。最初は、何を成そうとしているのか訝しんでいたが、最後には納得してくれた。
「まあ、こちらも商売です。客の求めるものがあれば、売らなければ。ただし何の用途に使っても、こちらは一切関知しませんよ?」
「それで良いとも。」
「では此方へ。」
俺は、リゲルの案内で奴隷の収容場所に向かう。相も変わらず沢山の奴隷が檻に入っていた。いや、少し多すぎないか?
「なあ、何か奴隷の数が多くないか?」
「ああ、それですか。最近ですが、南方諸島にある中堅国家の一つが滅んだらしいですよ?そのせいか、この時期に大量の奴隷が流れてきたんですよ。恐らく身売りしたか、無理やり奴隷にされたか。」
「南方諸島は、毎回紛争が起こっていたらしいが、滅んだのか?」
「ええ、紛争から一気に死闘ですよ。しかも打ち破ったのが、最近出来た小国ですから驚きです。」
最近出来た小国、ね。滅茶苦茶怪しいが今のところはなにもしない。触らぬ神に祟りなし、だったかな?
「さ、着きましたよ?貴殿のお求めであった奴隷達です。」
そう言われて俺は、檻の中を覗き込む。そこには、指や目といった小さいものから腕、脚といった大きいものまで失った人間が押し込まれていた。
「これ全員か?」
「いや、さっき話した戦争の結果大量に流れてきたっていったでしょう?まだまだ居ます。」
その後色々見て回り、欠損した奴隷が二百人居ることがわかった。リゲルが言うには、他の国にも流れていったので、まだまだいるだろうとのこと。
「で、どうしますか?欠損した奴隷なので、お安くしますよ?」
「ああ、値段は・・・ん?」
俺は、一つの檻を見る。奴隷達は、皆意気消沈していたが一人だけ五体満足な女性の奴隷がいたのだ。
「おい、彼奴はなんだ?五体満足だが?」
「ああ、彼女は精神に欠落がみられる奴隷です。もともとセブンス帝国の貴族に売り払われた奴隷のようですが、なにもしない不良品として返品されたようで。そして買われては返されを繰り返して、ここまで来たのです。」
ふぅん。まあ、どうでも良いな。纏めて買おう。
「全部買う。総額いくらだ?」
「普通の奴隷ならかなりの値段ですが、欠損している分を差し引いている分を引いて・・・金貨685枚頂きます。」
「ぬぅ、高いじゃないか。俺の財産の半分かよ。」
まあ、これも研究の為と俺は金貨685枚を払った。そして細かな契約の作業を行い、隷属魔法を施した。
「これで欠損した奴隷二百人は、お客様の物でございます。」
「ああ、良い買い物だった。また来るよ。」
「それはようこざいました。またのご利用お待ちしております。」
そして俺は、二百人の欠損奴隷を連れて転移した。
◆ダンジョン 迷宮研究所 カゲマサside
さてダンジョンの迷宮研究所にやって来た訳だが、ミレンダがワクワクしながら待っていた。
「すごいねぇ!これだけのモルモ・・実験体があれば、研究にも困らないさ!」
「モルモットでも実験体でも同じだぞ。」
俺は、興奮するミレンダを宥めて、改めて奴隷二百人を見る。奴隷達は、急に別の場所に連れてこられて困惑、恐怖しているようだ。一体自分達が何をされるのか、気が気でないのだろう。
「さて、諸君。何故君たちがここに連れてこられたのか、不思議に思うだろう。特別に質問を許す。」
主人らしさを見せるため、少し上から目線で話す。すると一人の男性が手を上げた。初老の男性で片足を失っている。
「では・・・。何故我々を買ったのか、理由をお聞かせ願いたい。」
「ふむ、当たり前な質問だな。お前達を使って実験を行いたいのだ。その条件に身体を一部分欠損している人間、ということだっただけだ。」
次に片目と右腕を失った三十代女性が手を上げた。
「じゃあ、その実験体ていうのはなんだい?闇魔法とか、人体実験かい?場合によっちゃぁ、アタシは歯向かうよ?」
「ほお、好戦的な奴だな。安心しろ。やるのは、人体の欠損を治す為の実験だ。」
「なぁ!?本当かい!?」
三十代女性が嬉し驚き混じりの叫びを上げた時、例の五体満足な二十歳らしき女性が手を上げた。
「なんだ?そこの五体満足な女性よ。」
「・・・アレ、なに?」
俺は、女性が指さした方向を見ると、培養液に浸された装置に入っている人造人間だった。答えたのは、ミレンダだった。
「ああ、あれかい。あれは人造人間。我々が行おうとしている実験のきっかけとなったものだよ。さて、さっそく詳しい説明に入ろうじゃないか!」
ミレンダは、奴隷達に向かって説明を始めた。
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