マリアンナ、ダンジョンに潜る
◆ダンジョン 地表 宿の一室
「!!」
その魔力の波動にマリアンナは思わず振り返る。余りにも自身の知っている魔力にそっくり、いや知っている魔力そのものだったのだ。
(この魔力、間違いありません!ロディックのものです!しかし何故ダンジョンの奥深くに?)
マリアンナは、そんな疑問を思い浮かべてとある可能性に思い至った。
(・・・まさかダンジョンマスターと手を結んだ?いやそれなら魔力を全開にする必要は無いでしょう。・・・・拒絶された?)
まずロディック達が一時的な隠れ家としてダンジョンと手を結ぼうとする。しかし何らかの要因で決裂し、戦闘に入ったとするなら一応辻褄は合う。
(ともかくダンジョンに潜り、ロディックを確保しなければ)
『パトリック一等級聖騎士、聞こえますか?』
『《念話》ですか?聞こえますとも』
『ダンジョンよりロディックの魔力を関知しました。ダンジョンに行きます』
『はっ!他二人も連れていきますか?』
『いえ、一人置いていきます。誰を置いていくかは、パトリック一等級聖騎士に任せます』
『了解しました。ではベギン二等級聖騎士を置いていきます!随員は、ビジェーフ二等級聖騎士を』
『分かりました。では潜入用の冒険者名義で登録後、ダンジョン前で』
『は!』
マリアンナは、《念話》を切った後準備を行い、〈聖槍タケミカズチ〉を手に持ち宿を出た。
そしてそれを見ていた一人のエルフは、
「・・・主君、不味いことになったぞ」
◆ダンジョンコアルーム カゲマサside
『主君、不味いことになったぞ。〈神罰者〉マリアンナが部下を率いてダンジョンに向かった』
・・・what's?
突然響いた俺の奴隷兼マヤ護衛係のナタリアからの報告に、俺は腰を抜かしそうになった。
「・・・なんでだよ。なんでくるんだよ。ダンジョンに恨みでもあるんのかよ」
『主君?主君!?』
「あ、ああ済まない。ナタリアはいつも通りにマヤを護衛するんだ」
『わかった。・・・大丈夫か?辛かったら言うんだぞ?最近マヤが新しい料理に挑戦していて、お前に食べて欲しいそうだからな』
「はいはい」
何やら優しくされたが、今はそれどころじゃない。〈神罰者〉の対処をしなくては。
「奴等、まさかロディックが下にいることに勘づいたのか?」
俺は、一人考えて結論を出す。
「当初の予定と変わらん。入ってきたならば油断無く殺す。それだけだ。・・・良し、この際だ。奴等を残虐な罠だらけのキルエリアに転移させてやる」
俺は、表には知られていない素顔のままニヤリと嗤い、ダンジョン機能を操作する。その笑みは、勝利を確信しているような笑みだった。
俺がその勝利を確信する笑みを、罠で仕留めてやろうという思考を、王級魔人特有の傲慢さと残虐さを表したものと知るのは、そう長くは掛からなかった。
◆ダンジョン 第一階層
マリアンナ等は、冒険者ギルドにて登録をした後早速ダンジョンに潜った。
そして今現在、襲い掛かってくるゴブリンをパトリックとビジェーフが切り刻みながら奥へ進んでいく。
そんな一行は、遂に第二階層への階段を下ろうとしたその時。
辺りの景色が変わった。
「っ!?マリアンナ様!」
「ええ、恐らく転移罠ですね。どうやらダンジョンマスターは私達を始末したいようで」
辺りの景色は、洞窟のようなものから遺跡のようなもに様変わりしていた。
「進みましょう。敵が始末しようとしてくるのならば、跳ね返して倒すのみです」
「はっ!」
「はっ!では私が前に行きます!」
パトリックが返事をし、ビジェーフが張り切って前に出た。そして遺跡の道に出て、
グチャッ!
音もなく、両サイドの壁に潰された。
「・・・・は?」
パトリックは、口を開けて放心状態になる。マリアンナは、口許を手で押さえて目を見張る。
「・・・そんな、一瞬で?何の音もしなかった。何の兆候も」
「・・・パトリック、ここはダンジョンです。どんなことが起ころうと可笑しくはないのですよ」
「は、はっ!」
そう言ってパトリックを落ち着かせたマリアンナは、〈聖槍タケミカズチ〉をもちながら道に出る。そして両サイドから無音かつ高速で迫る壁。
「むん!」
マリアンナは、手に持つ〈聖槍タケミカズチ〉を一振。
その瞬間、罠は粉々に破壊された。
「行きましょう。ビジェーフの死を無駄にしてはいけません」
「は、はい!」
※要らなかったら飛ばしていいです。
補足
異世界に来てからカゲマサは、異世界での自分より強いものに怯え、引きこもる為に慎重に事を為そうとする小心者となった。
しかし今回マリアンナという強者がダンジョンに入ってきたことによりショックを受けた影響か、今まで鳴りを潜めていた王級魔人本来の傲慢さと残虐さが表に出た。
魔人は、人間や知恵あるモンスターの変異体だが、性格はそろって残虐になる。カゲマサが残虐にならなかったのは、なまじ異世界の理不尽さを小説を通して見ていた為、知らない異世界に怯える心が無意識に残虐さを押さえ、低下させていた為。あくまでも低下。
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