ゼクト、決死の交渉
◆北部の山 礼拝堂
礼拝堂では、ギオとマリアンナが未だに戦闘を続けていた。
「ハハハハハハハ!!もっと!もっとだぁ!」
「チィ、しぶといですね!」
ギオは相変わらずの拳の嵐でマリアンナに迫る。一方のマリアンナは、ギオの連打を超人的早さで回避しながら反撃を加えていく。
「いい加減に!」
「あん!?」
「しなさい!」
そしてやっと決着が着いた。
ギオの拳がマリアンナの頬に。
マリアンナの貫手がギオの鳩尾に。そして。
「・・・ごはっ!!」
「終わりです!【聖雷収束砲弾】!!」
マリアンナの魔法が発動。そして礼拝堂は閃光と轟音に包まれ。
「私の勝ち、ですね」
閃光と轟音が収まった時には、礼拝堂はボロボロで今にも崩れそうだった。礼拝堂の中心ではマリアンナが魔法を放った体勢のまま立っていた。
一方のギオはというと。
「・・・・・・か・・は」
礼拝堂の壁にめり込み意識を失っていた。皮膚は焼けただれ、筋肉繊維が露出している箇所が多々あり、骨が露出している箇所も存在した。
「・・・は!今すぐロディックを追わなければ!」
マリアンナは、慌ててロディックを追おうとするが。
「ロディックとやらは既に逃走した」
響いた声に足を止める。そしてゆっくりと後ろに振り返った。
「・・・貴方は?」
そこには、全身焦げ茶色の虫魔人が立っていた。肩には、一人の人間を担いでいる。
「っ!?エリベラ二等級聖騎士!」
マリアンナは、悲鳴混じりで叫ぶ。信頼していた仲間が敵?に捕まっているのだから当然か。
「取引だ。神罰者」
「・・・なんですって?」
取引。その言葉に、虫魔人に飛び出そうとしていたマリアンナは足を止める。
「コイツを返す代わりに、その黒仮面を返してもらう」
「・・・一つ聞かせなさい」
「何だ」
マリアンナは、一旦呼吸を落ち着けてから話を続ける。
「貴殿方は、ロディックの入った組織の一員ですか?」
「否定する。寧ろ奴等のような輩は消えてほしいのだ」
「ならば何故こちらの邪魔を?」
「我々にも目的がある。その為にも、迂闊に貴様等の邪魔が入らないようにしたかったが、まあ巡り合わせが悪かったと言うべきか」
「そんなことで・・・!」
「怒るな。さもなくば、コイツを始末しなくちゃならなくなる」
虫魔人、ゼクトはエリベラの首を掴みマリアンナに見せつける。
「貴方!」
「俺だってこんなことはしたくない。だが、俺には神罰者である貴様を抑えられる自信がない」
ゼクトは、肩をすくめながら言う。
「だからこうするしかない。・・・・すまんな」
「・・・く」
マリアンナは、怒りを覚えながらも手を出せなかった。エリベラを人質とされているのもあるが、目の前の虫魔人が本当にすまなそうにしているという理由もあった。
「・・・わかりました。条件を飲みましょう」
「感謝する」
ゼクトは、エリベラの首を掴んだままゆっくりと歩き始める。ギオの元にたどり着いた後、一つの球体型魔道具を起動させる。
「緊急脱出用転移魔道具、起動。持っていけ」
球体型魔道具は、一瞬光ったと思ったらいつの間にかギオが消えていた。
「これでよし、取引は成立だ」
ゼクトは、エリベラをそっと床に下ろす。そして素早くその場を離れた。
「それから敵組織の名を教えておこう」
「・・・聞きましょう」
「・・“冥府教”という宗教だそうだ。そちらも宗教国家なら、知っているんじゃないか?」
「・・・ッ!そうですか。後もう一つ。他にもこちらに二人仲間がいた筈ですが」
「・・本当にすまない。既に始末してしまった。俺を見るなり襲い掛かってきたからな」
「・・・」
マリアンナは、怒りを抑えながら虫魔人を見る。
「・・奴等は最後まで戦士だった」
「・・そうですか」
マリアンナは、せめてもの慰めを耳に入れながらエリベラを抱き抱える。
「・・私達は、街に戻ります」
「そうか」
「貴殿方のしたことは忘れません。いずれ敵として会ったなら」
「ああ、正面から受けてたとう」
マリアンナは、その言葉になにも言わず去っていった。
「・・・やはり神罰者は侮れないな。こちらの嘘がバレたら危なかった」
ゼクトは、一つ嘘をついている。二人の仲間、イリアスとマトロはまだ生きており、捕まえた“冥府教”の残党と共に尋問をかける予定だ。
「帰ろう。報告だ」
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