動き出す追跡部隊
◆カゲマサダンジョンコアルーム カゲマサside
俺は、こたつに入りながらツバメとの視覚同調で脱走者と思わしき男を監視していた。廃村に駐屯していた迷宮攻略軍の奴等から連絡を貰った時は、ヒエっ!てなったよ。というか、スケルトンが何故魔力を視認できるんだ?死んでるから?
「しかし本当に来るとはな。ということは、神罰者とやらもやって来て可笑しくはない。どうにか早期解決出来ないものか」
考えてみるが良案が見付からない。仕方なく俺は、再びナナさんに通信を繋いだ。
「もしもし、すいませんナナさん」
『おや、今度は何か?』
「聖王国からの脱走者と思わしき男を発見。どうしましょうか?」
『あら、もう?脱走者だから迷彩魔道具を身に付けるものだと思ってたけど』
「確かに姿は見えませんでした。しかし、間抜けなのかは知りませんが、魔力は隠されていなかったので。《魔力視》で容易に見付けられました」
俺が偵察用に放ったツバメを介して見たら、デカイ魔力の持ち主が北部の山に移動してるのが見えたからビックリしたよ。で、妨害覚悟で《鑑定》したら、
名前 ロディック・アトルフ
種族 人間
職業 元一等級聖騎士 冥府教信者
レベル 54
ランク A
スキル ー妨害されましたー
と、スキル以外簡単に《鑑定》出来てしまった。スキルの隠蔽は分かっていたが、冥府教?何だそれは?聞いてみるか。
「ところでナナさん」
『何かしら?』
「何かロディックの職業欄に冥府教信者ってありますけど。冥府教とはなんですか?」
『・・・ッ!?』
あれ?何か顔が強張ったぞ?すぐに戻したが、バッチリ見えた。
『冥府教。この世界を死の力で満たして滅ぼし、自分達の都合の良い世界を作ろうとしている連中ね』
地球で言うカルト教団かな?いや、テロリスト?まあいいか。
「・・・へぇ、御大層な野望ですね」
『聖神を信仰する聖堂教会によって駆逐されたと思ったけど、生き残っていたなんてねぇ』
「で、どうしますか?」
『・・・聖神陣営に加担するのは癪だけど、冥府教を捨て置いたら厄介ね。良くて生け捕り、無理なら始末しなさい』
「了解しました」
そう言ってナナさんは、通信を切った。
「・・・あの強張りよう、何か裏があるな。独自に調べてみるか?」
俺はそう呟き、今いる最高幹部〈六将〉を呼び寄せた。後カレンも呼んだ。
「シロ、ただ今参りました」
「キラー、カゲマサ様の御前に」
「ゼクト、来ました」
「お父さーん!」
「秘書として来ました」
エルダードラゴンで今は人化して白髪ツインテールの少女となっているシロ。元魔族で上級魔人のキラー。元は虫系統モンスターだったが、鍛練により魔人に進化したゼクト。スライムだったが、異世界のゴミやら鉱物やらを吸収し、冒険者との戦闘の結果、カオススライムキングとなったワイズ。ダンジョン内に移り住んだオークのブ一族巫女で、今は褐色美人な上級魔人であるカレン・ブ。以上五名が揃った。
因みにゴブリンハイエンペラーのゴブイチとシロの弟分であるエルダードラゴンのクロは、エルザム神聖国にあるサブダンジョン防衛任務に当たっている。
「して、カゲマサ様。今回のご用件は?」
「ああ、これを見ろ」
俺は、脱走者ロディックが北部の山に入っていく映像を見せる。そしてロディックの《鑑定》結果を資料にした物を配った。
「こいつはロディック・アトルフという。前に渡した世界地図にある北方大陸のロシフェル聖王国の元一等級聖騎士だ」
「なるほど・・・マスター。この人間をどうするのですか?」
「当初は、追跡にやって来た聖王国の連中にそれとなく教えて始末させようとしたが、やめた。コイツを捕らえて情報をいただく」
「では、捕獲ですね?」
シロは、笑みを浮かべながら質問する。シロ自体ダンジョンに籠り事務仕事ばかりやって来たのでフラストレーションが貯まっているのだろう。
「そうだ。敵は冥府教という危険な宗教団体。だからこそ、捕獲部隊は少数精鋭でいく」
「部隊編成はどういたしますか?」
「シロを部隊長とし、副隊長にキラーとゼクト。隊員は、十体の特殊型人工魔人を連れていけ。後キラー、ギオを参加させろ。久々に大暴れさせてやる」
「え?そんなに連れていくのですか?過剰戦力な気が」
カレンが言うことも分かる。全員がランクAの部隊、ダンジョンの防衛力が下がると言いたいのだろう。だが。
「敵がどんな戦力を持っているか不明な中、時間も無い状況だ。ここは、手持ちの最大戦力でゴリ押しするしかあるまい」
「はあ」
「それに俺は、シロを信頼している。シロなら上手くやってくれる筈だ」
「っ!はい!お任せください!」
シロは、笑顔で答えた。
「しかしシロ、これだけは言っておく。神罰者と呼ばれるランクSの奴等に出くわしたら逃げろ。絶対だからな」
「は、はい!」
俺は、その言葉に頷きながら会議を進めていった。
◆ドミニク辺境伯領ファースの街 宿屋
ロディックが深夜に山へ行った次の日の朝、マリアンナ達追跡部隊は、宿屋で情報を確認していた。
「・・・つまり、魔力の痕跡が残っていたと?」
「はっ!このファースの街から、北へ真っ直ぐと続いておりました!」
「魔力の波長を見て、ロディ・・・脱走者の物に間違いありません」
「え、えっと、【ディメンションアイ】で見た感じだと、あの、北部の山に魔力がやけに集中していましたぁ!」
マリアンナは、これらの情報でロディックがドミニク辺境伯領北部に居ると断定した。
「イリアスさん、マトロさん、エリベラさん。北部の山へ夕方出発します。準備を」
「「「はい!」」」
そして夕方。
「さあ、行きますよ」
「はっ!」
「了解しました」
「は、はいぃぃ!」
マリアンナ達追跡部隊は、北部の山に動き出した。
「こちらキラー。シロに通信。追跡部隊と思わしき連中が動き出した。行き先は北部。繰り返す。追跡部隊と思わしき連中が動き出した。行き先は北部」
空に居た謎の人影に気付かずに。
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