聖王国からの脱走者
時は遡り、カゲマサが西方諸国会議に出向く前のこと。
◆ロシフェル聖王国 聖都イスリア 深夜
聖都イスリア。聖王国が持つ都市の中で最大級の都市にして首都。深夜になり、雪が降り闇に包まれたこの都市で、一人の男が走っていた。
「はっはっは・・・・まさか、こうも早くバレるとは」
男の後ろには、数人の人間が追って来ている。
「チッ、何としても逃げなければ。・・・ッ!?」
男は、ナニかに気付き足を止める。すると、男が踏み抜く寸前だった石畳が爆発した。
「これは・・!」
「そこまでです。二等級聖騎士イワン・ザモネア」
その声に男、イワンは顔を上げる。上げた先には、一人の修道服を着た女性が滞空していた。
「今貴方は、一等級聖騎士隊に包囲されています。無駄な抵抗はやめて、大人しく捕縛されることを勧めます」
「・・・・」
修道服を着た女性からの宣告にイワンは、黙ったまま何も答えない。それどころか、剣の柄に手を掛け集中し迎撃しようとしている。
「・・・そうですか。ならば、無理矢理でも捕縛するしかありませんね」
修道服の女性がそう呟いた時、イワンが動いた。
「シャァ!!」
剣を抜き奇声を発しながら修道服の女性に襲い掛かる。
「・・・残念です、イワン。貴方の実力ならば、一等級聖騎士になれたのに。【聖雷】」
女性が唱えた瞬間、イワンの体を白い雷が貫いた。イワンは、ゆっくりと倒れる。まだ辛うじて息はあった。
「拘束を。聖騎士団本部に輸送し、尋問を行ってください」
「はっ。しかし見事な手際です、マリアンナ様。流石は神罰者であるお方」
「止めてください」
修道服の女性マリアンナは、部下の称賛を嫌な顔で遮る。
「私は称賛される為に神罰者になった訳ではありません。人々の平和に少しでも貢献するためなのですから」
「はっ!申し訳ありません!」
部下の謝罪を受け取りマリアンナは、イワンの輸送を行おうとした時。彼女の胸元にあるロザリオが震えだした。
「?はい、こちらマリアンナ。ニコラス、どうしました?」
『こちらニコラス。すまん、しくじった』
「しくじった!?ニコラス、どういうことですか!?」
『対象が使い捨ての転移魔道具を隠し持っていて、それを使用した。糞っ、俺が注意していれば!』
ロザリオの向こうでは、悔しがる声が聞こえてくる。
「・・・そうですか。転移先は分かりますか?」
『転移魔道具を調べてみたが、セブンス帝国産ということ以外は何も出ず、だ。行き先までは分からない』
「分かりました。ニコラスは一旦帰投してください。後は私が引き受けます」
『・・・すまん』
「いえいえ」
会話が終わると、ロザリオの震えが止まる。マリアンナは、顔を上げて部下に指示を出した。
「イリアス一等級聖騎士、もう一人の騎士団脱走者の名前は?」
「はっ!ロディック・アトルフ一等級聖騎士であります!」
「ロディック・・。部隊内では、品行方正な人物で知られたあの人が?・・・脱走した理由は、捕まえて聞きましょうか。聖王陛下に連絡を。騎士団脱走者捕縛の為、至急秘密裏にセブンス帝国への出国許可が欲しいと」
「了解いたしました!」
部下のイリアスは、敬礼して聖王政府に向かった。
そして時が戻る。
◆カゲマサダンジョンコアルーム カゲマサside
サタリム王国の一件が終わり、俺は久々の休みを楽しんでいた。主にしているのは、部屋で居眠りしたり、お菓子を食べながら冒険者とダンジョン兵士が戦っているところを観戦したり、DPをつかって取り寄せたこたつに入りながら地球産の小説を読んだりと、引きこもりライフを満喫していた。
「う~ん、やっぱり平和が一番だよな。ダンジョンにはめっちゃ侵入者いるけど」
そう、ここのところ侵入者の数が増加していた。今までは、一日数十人だったのが百数十人になっているのだ。どれも金品目当てな低級冒険者だったが、チラホラとダンジョン前の村やダンジョン自体を観察している連中がいるのだ。試しにダンジョン機能を通して一人《鑑定》してみると、
名前 ハンベル・マレーゾ
種族 人間
職業 聖王国直轄諜報部隊所属
レベル 24
ランク C
スキル 俊足 隠密 風魔法 短剣術 忍び足 魔力視 鑑定
何と驚き。ロシフェル聖王国の諜報員だった。
「何かダンジョンが怪しまれることしたかな?それとも、俺自体を狙ってるのか?」
何故ロシフェル聖王国の諜報員が来たのかは分からない。もしかしたら只の諜報活動かもしれない。
「ナナさんに連絡を取ってみますか」
俺は、何故か置かれていたナナさん宛の通信魔道具を繋げた。
「もしもし」
『あら、カゲマサ。何か急用?』
思ったより早く出たな。いやいや、それよりも。
「すみませんね、いきなり。実は、うちのダンジョン前にロシフェル聖王国の諜報員が複数人彷徨ってるんですが」
『あら、ロシフェル聖王国が?ちょっとお待ちなさい』
といってナナさんは、通信を切る。暫くした後、通信が繋がった。
『分かったわ。どうやら、ロシフェル聖王国の聖騎士団内部から二人の脱走者が発生したようね。二人の内一人は、セブンス帝国に入り込んだようで』
「・・・何か、嫌な予感がするんですが」
『その予感は当たりよ。その脱走者がドミニク辺境伯領周辺の領地にいるわ』
「だからかぁぁ!!」
俺は、そう叫びながら思考を整理する。
「何故脱走者が出たんですかね?」
『さあ?捕まえてみない限り分からないわ。・・・気を付けなさいカゲマサ』
「はい?」
『聖王国の聖騎士、正しくは聖王国が管理している聖堂教会管轄の聖騎士団は、モンスター狩りのプロ。ダンジョンに入ってくるならば、例え下っ端でも全力で迎撃なさい』
「下っ端でもですか?」
『下っ端は対したことないけど、下っ端から上がった情報が神罰者の耳に入ったら大変よ?』
「神罰者?」
その後俺は、聖王国の聖堂教会管轄である聖騎士団の内部について解説を受けた。
まずは、一番下っ端である聖騎士見習い。ランクはバラバラで、FからD+とバラつきがある。
次に聖騎士見習いが経験を重ねた者がなれる三等級聖騎士。ランクCレベルの強さと聖神への信仰心がなければなれないそうだ。
その次が二等級聖騎士。ランクBとなり、ベテランとされる位置。ここまでくると、精鋭と呼ばれるようになる。普段は、三等級聖騎士達を率いる隊長格。
そして一等級聖騎士。ランクAの猛者達で、二等級聖騎士を束ねる者達。二十人しかいないが、一騎当千の古強者。
最後に、神罰者。地上に姿を見せない聖神に代わり、悪に罰を下すという名目で設立された聖王国最強の者達。人数は三人と少ないが、その強さは神の如しと吟われている。多分最低でもランクSレベルはあるだろう。噂だと、魔法一つで山を割り、海を割り、天を割くのだとか。
「・・・・おっかないな」
『神罰者相手は、流石の貴方でも厳しいわ。勝つにしても苦戦するわね』
「会いたくありませんね」
『神罰者の名前は三人中二人判明しているけど、聞く?』
「聞きます」
案外知られてるんだな。俺はそう感じた。
『神罰者第三席、〈聖なる巨狼〉ニコラス・イミルコフ。彼は、狼の獣人と人間のハーフね』
「ふむ、あの国は種族や身分による差別を厳禁してましたからね。異種族間の婚姻も可能か」
俺は、メモを取りながら頷く。
『続けるわよ?もう一人は神罰者第二席、〈神雷の巫女〉マリアンナ・ミルム。彼女はエルフで魔法が得意らしいわ』
「らしい?」
『肝心な情報は、聖堂教会や聖王国が規制してるのよ。さあ、情報は渡したわ。気をつけて』
「ありがとうございました」
ナナさんは、通信を切った。そして一人俺は呟く。
「絶対来るなよ、脱走者」
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