世は無情①
◆サタリム王国領内 ナデランへの道
時は僅かに遡る。
サタリム王国軍四万が、ナデラン王国へと進軍していた最中のことだった。
「どけ!どいてくれ!」
そこに数人の兵士が駆け込んできたのである。
「何だ!何があったのだ!?」
「急ぎ伝えることがあるのだ!頼む、スイーベル様に話をさせてくれ!」
「な、何を」
「早く!」
「わ、わかった!暫し待て!」
怒鳴られた兵士は、急いで軍の中央にいるスイーベルという人物に確認を取りに行く。一分後、共を連れてやって来たのは、全身を青色の鎧で固めた騎士だった。
「急ぎの報せと聞いた。何があった?」
「はっ!私はギゼード様配下〈暴風旅団〉第三隊所属チベル・ラッゾであります!突然の」
「御託は良い。報せを言え」
「はっ!申し訳ありません!では申し上げます!先遣隊として派遣された我が〈暴風旅団〉と二万の軍でありますが・・・ありますが・・」
「・・・?どうした?」
「・・・序盤は優勢でありましたが、突如我が軍に未知の魔法が襲来。その結果・・・
我が軍の三分の二が死亡。残り三分の一は、今も尚戦っております・・・」
報告に着た兵士、チベル・ラッゾは手を握り締めながら話す。その言葉に軍の指揮官達は、一斉に顔を青くする。先遣隊とはいえ、二万以上の軍を魔法一つで三分の二を殺す魔導師が敵にいることがわかったのだ。
「な、何ということだ・・」
「ナデラン王国の切り札か!?」
「だ、だが密偵からの報告にはそんなことは」
「では何だと言うのだ!?」
指揮官達は困惑し、やがて怒鳴り声が飛び交うようになる。
「落ち着け」
そこにスイーベルが一声を掛けた。指揮官達は、表面上は沈静化する。だが、内心は不安と恐怖で一杯だった。
「ギゼードはどうした?」
「・・・ギゼード様は、魔法を放った魔導師を討ちに行きました。今も戦っていると思われます」
「そうか・・・。良し、わかった。報告感謝する」
「・・はっ!」
「第二小隊、チベルの護衛を命じる。チベルを無事王都に送り届けよ」
「はっ!しかし、本隊は」
「このまま進軍する」
「「「!?」」」
指揮官達は、コイツは何を言っている!?といった顔になる。
「す、スイーベル様!?敵は軍の三分の二を死亡させた魔導師なのですよ!?」
「だとしてもだ」
指揮官の一人が諌めようとするが、スイーベルの意思は変わらなかった。
「貴公等も知っているだろう。我が国の現状を」
その言葉を聞いて指揮官達は、顔を下に向けた。指揮官達の脳裏に思い出されるは、サタリム王国の抱える問題。砂漠地帯故に農業が行えず食糧難、食糧難故に国民の飢えが加速、交易によって手に入る食糧も全体に行き渡らず、漁業をしようとしても海には凶悪なモンスターがうようよしている。地上にいるモンスターを狩って食糧にするも、数が知れている。
「あの現状を変えるべく、国王陛下は軍を派遣した。ナデラン王国にある肥沃な農業地帯を手に入れるために」
サタリム王国の国王は、決して愚物ではない。むしろ国民のことを考えられるぐらいには思慮はあった。だが、サタリム王国の状態が悪すぎた。何処かの国の庇護下に入るという選択肢もあった。だが、サタリム王国の立地は決して良くはない。それ以前にサタリム王国国王は、自国の国民を食い物にされたくなかった。サタリムが軍事国家になったのも、国民をどうにか食わせるためにとった苦肉の策である。
「どんな強敵がいようとも、我が軍は止まることはない。止まれない。我等の肩には、祖国の命運が掛かっているのだ!」
指揮官達は、顔を上げる。そこには、不安と恐怖は無い。覚悟を決めたのだ。
その後、サタリム軍はチベル・ラッゾを王都に送り出した後、ナデラン王国国境付近に再度進軍を開始した。
そして、サタリム軍がナデラン王国国境付近に到着したその時。
「待っていたよ。早速で悪いが、死ね。【核撃爆弾】」
地上に再び、小さき太陽が発生した。
◆サタリム王国国境付近 カゲマサside
「余りにも纏まって進軍してきたので、【核撃爆弾】を放ったのだが、決着着いたかな?」
そう言って俺は、【核撃爆弾】を放った一面を確認する。地表には巨大なクレーターが存在しており、辺りの木々や山が吹き飛んでいた。
「・・・仕方無いな。一気に殺す必要があったんだし。これぐらいやらんと、〈帝将〉として嘗められるし、ナナさんに粛清されるかもだし」
そう自分に言い聞かせつつ、クレーター内を確認していく。僅かに焼け焦げた肉片や鎧の一部分が存在したが無視した。
そして確認が終わり掛けた時。
「・・お・・・ま、え・・・・か・・・・・」
「うん?」
突然の声に俺は振り返り、
「お・・まえ、かァァァァァ!!!!」
突然現れた青い騎士によって、
上半身と下半身を切り離された。
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