奴隷商会会長、そして復興開始宣言
※旧「復興開始」と統合しました。
◆神都メーカ カゲマサside
「なるほど、コイツが教皇か」
俺は、首だけとなった教皇、ゴドス・シス・ミレーリア三世を見てそう呟く。教皇にしては、随分呆気なく殺されたものだな。
「はい。・・・しかし、教皇や他の有力貴族がいない以上、この国は」
「間違いなく滅亡だな」
まあ、とっくに滅亡しているか。
それを聞いたセレスは、途方に暮れた表情になるが直ぐに引き締める。
「・・・奴隷商会を廻りましょう。そして生き残りの捜索も平行して行います」
「分かりました。セレス様」
「あいよ」
俺達は、既に廃墟と化した建物を順に廻り、生き残りを探した。メーカを北地区から東、南と見ていったが、出てくるのはどれも死体だけ。生存者のせの文字も無かった。俺は、探しているついでに魔石屋跡に入ったが、有用な魔石は無かった。
「・・・・」
「せ、セレス様。お気持ちは御察し致しますが、これ以上の捜索は無駄と判断します。一旦引き上げては?」
「・・・駄目です。せめて、西地区だけでも」
それでもセレスは諦めなかった。ひたすらに生存者を探し廻った。そして、西地区に入った時に俺の《存在感知》に反応があった。
「む?・・・おいセレス。あの建物が無性に気になるのだが、探してみないか?」
「あの建物ですか?・・・分かりました。行ってみましょう」
俺とセレス、ハンスさんの三人は、その建物に入り探索を始める。因みに建物の看板には、《サンダーソン奴隷商会メーカ店》と書かれていた。またサンダーソンかよ。
「・・・サンダーソンとやらは、エルザム内でよほど奴隷商売で儲けていたんだな」
「この国では、神都の民以外は地位が低く、他国の民には何したって良いという気風があったからな。人さらいが横行してた影響だろう」
「ハンス。・・・反乱が無くともいずれ滅亡してたんじゃないか?この国」
「そんなこと・・・・無いとは言いきれんな。周りの国々を敵に回しては圧倒的不利。かのセブンス帝国やロシフェル聖王国にも喧嘩を売っていたと聞く」
「どっちも大国じゃないか・・・」
俺は、呆れ果てたように呟く。ナナさんによると、北方大陸のロシフェル聖王国はセブンス帝国と同等の大国らしいし、どのみち終わってただろうな。
「まあ、それはさておき。さっさと探すと」
その時俺は、何か足元で踏んづけた。なにか、スイッチの様な物を。
「ん?」
「どうした?」
「今床で何かを押したような」
俺は足元を確認すると、右足が僅かに床へ押し込まれている。それを皮切りに、目の前にあった壁が自動ドアの如く開いたのだ。壁の先には、地下へと通ずる通路がある。すると、セレスが近寄ってきた。
「何かありましたか?って、これは」
「秘密の通路だな、多分。これの先にいるかもしれないぞ」
俺達は、秘密の通路を歩いていく。どうやら只の通路らしく、罠や戦闘員の姿はなかった。やがて、俺達は奥にたどり着く。
「さて、付いたぞ。・・・・おいおいおい」
「これは・・・!」
「・・・広いな」
そこは、地下に出来た広大な広場だった。広場には、牢屋が建ち並んでおり奴隷らしき姿が見受けられる。
「よくバレなかったな。こんなもの造ってたら、案外帝国軍にバレそうなものだが」
「ええ、一体どうやって」
俺とセレスが悩んでいたその時。
「それは、配下の隠匿結界のお蔭だよ」
「っ!?」
後ろから響いた声に俺達は、弾かれたように後ろを向く。そこには、一人の青年が立っていた。
「ようこそ、我がサンダーソン奴隷商会本部へ。僕は、リゲル・サンダーソン。現在のサンダーソン奴隷商会の会長さ」
その青年は、黒髪褐色肌のイケメンでアラビアンナイトのような服装をしている。背後には、護衛と思わしき二人の戦士が立っていた。
「サンダーソン奴隷商会会長ですって?貴方が?」
「はい。なんなら《鑑定》してもらっても結構ですよ?」
そう言われて俺は、鑑定を掛ける。
名前 リゲル・サンダーソン
種族 人間
職業 奴隷商人 サンダーソン奴隷商会会長
レベル 6
ランク E
スキル 交渉術 統率 洞察 観察眼
「・・・鑑定上じゃあ、コイツはリゲル・サンダーソンだ」
「か、カゲマサさん?」
「ほう。《鑑定》持ちがいたのですか。せっかく道具を用意したのですが」
リゲルは、困ったように笑う。
「・・・リゲル・サンダーソン。何故私達の目の前に現れたのですか」
「何故ですって?それは儲け話をするためでしょう」
「儲け話、ですか?」
セレスは、疑いを込めた目でリゲルを見る。セレスから見たらリゲルは、大多数の奴隷を扱う奴隷商人で悪徳商人となっているから当然か?
「まあ、疑われるのは分かっていましたが。では、率直に申し上げましょう」
リゲルは、苦笑した後真顔となる。相当真剣な案件なようだ。ある程度予想できるが。
「ゴドス・シス・ミレーリア三世の隠し子、セレス・ミレーリア。貴方にこの国の再建、その旗頭になっていただきたい」
「わ、私が?」
「ええ、そうですセレスさん。貴女を監禁という体で匿っていたのはその為。血筋もありますしね」
リゲル・サンダーソンは話す。なるほどな。何故奴隷商会の地下に居たのか気になってはいたが、まさか匿っていたとは。
「し、しかし私は、隠し子であっても只の司祭ですよ!?そんな私が一人で国を立て直すなんて」
「いやいや、誰が一人でやれと言いましたか?」
「え?」
セレスがポカンとしているなぞお構い無しにリゲルは、部下に何事か命じる。部下は頷き、奴隷の収容されている牢屋を次々と開けていった。
「私はね?貴女だけ匿っていた訳ではありません。他にも沢山いますとも」
「こ、これは・・・っ!」
リゲルは得意気に笑い、執事ハンスは目の前の光景に唖然となった。
「元宰相のリーゲ侯爵・・・フラーロ近衛騎士団副団長・・・・。他にも、教皇に歯向かったとされる優秀な役人や兵士達まで・・・・・・っ!?」
俺には誰かは分からないが、ハンスさんが唖然となる面子だ。相当凄いんだろう。すると、リーゲ侯爵と呼ばれていたガッシリとした体格の六十代男性が口を開く。
「ふ~、やっと出られたわ。感謝するぞリゲル・サンダーソン」
「いえいえ、リーゲ侯爵閣下。この国の為にやったことです。お気になさらず」
「はんっ!どうせ利益を得るためにやったんだろうが」
「ふふ、いけませんか?」
「いやっ!下手な輩よりは信用できる。なあ?フラーロ副団長」
フラーロと呼ばれた男性は、細身ながらも歴戦の戦士な如き風格を醸し出していた。
「・・・まあ、見るからに怪しい奴には任せられませんが、サンダーソン奴隷商会に不正はありませんので、大丈夫でしょう。セレス様に関しても血筋は確かですし。しかし」
ん?何だ。こっちを見て。
「私達は、まだあの御仁について知りません」
「む、確かにな。貴様何者だ!名を名乗れ!」
リーゲ侯爵は、声を張り上げる。ああ、確かに俺は部外者だ。そりゃあ怪しいよね。さてどうしたものか。
「リーゲ侯爵閣下、フラーロ副団長。どうかお静まりを」
「む?」
「何故止める?リゲル・サンダーソン」
まさかのリゲルが間に入った。
「ええ、彼は僕達の今後を左右する重要人物ですので」
「あんな冴えない奴が?」
「そうですよ。ねぇ?“帝国からの使者”さん?」
・・・ええええェェェェ!?何を言ってるんだこの褐色イケメン!?
「この国がセブンス帝国の実質上の支配下となったことは皆さんご存知の筈。彼は、その帝国から派遣されてきた使者です」
「な、なんと!?」
「・・・・そうだったんですか?」
ハンスさんは驚き、セレスは怯えた表情でこちらを見てくる。リーゲ侯爵とフラーロ副団長は、少し驚いただけだった。
「なるほど。ならば、彼から溢れる尋常じゃない気迫も納得です」
「何?儂には分からんかったぞ?」
「まあ、戦士だけが分かることなので」
一方の俺は、周囲の声が聞こえない程の混乱していた。
(アイツ、何故俺を帝国からの使者と嘘を?俺はあくまでも統治許可証だけもらっただけ。後は適当な奴にでも引っ掻けておさらばする筈だったのに!)
そんな思考に耽っているその時、予想していたのか頭内に念話が届いた。
『うふふ、カゲマサ。貴方には優秀な助っ人を用意しました。リゲル・サンダーソンには、貴方のことを既にリークしておいたから大丈夫よ。まあ、《帝将》であることと英雄だということだけど。リゲルはひとまず裏切ることは無いわ。じゃあ、エルザム復興頑張って』
と、言われてしまった。俺は文句を言いたかったが、言おうとした瞬間念話を切られた。
糞!仕方ねぇ。予定変更して、帝国の使者として振る舞い、エルザムを改造してくれる!一先ずは、差別国家からな!
「・・・・如何にも。俺は、セブンス帝国からこのエルザムの地を治めよと皇祖様に命じられた者である」
一応それっぽく言ってみたが、大丈夫だよな?・・・良し、大丈夫だな?エルザム神聖国領統治許可証も見せとくか。
「これは、皇祖帝様より与えられた統治許可証である。文句があるなら奪って見せよ」
俺は、久々に《威圧》スキルを使いながら、述べていく。
「・・・まさかの本物か。・・・これはとんだご無礼を」
「構わない、フラーロ副団長。貴方の反応は正しい」
実際俺が同じ立場なら、絶対疑っていたもの。うん、絶対に一回は疑う。
「さて、疑いも晴れましたし、早速行動を開始しましょう。国の建て直し、始動です!」
こうして、僅かに残ったエルザムの残党と俺は、エルザム復興に乗り出した。
それから時が過ぎ、1ヶ月が経過した。
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