三男坊と相談
◆地上 ダンジョン前の村 酒場 カゲマサside
地上に転移した俺は、素早く茶色の仮面と外套を纏う。そしてマヤのいる酒場に向かう。酒場には客も店員もおらず、そこには牛の獣人であり、俺の名義上奴隷のマヤとエルフのナタリア、そして小太りの男と護衛の騎士が二人いた。
「貴様!僕はエルザム神聖国ウンターラ男爵家の三男ジョイサンだぞ!?その僕の命令を聞けないのか!!」
「聞きません!私はご主人様以外の男の命令には従いません!ましてや抱かれろなどと!!」
エルザム神聖国?いや、その前にあの小太り貴族を殺、いやどうにかしなければ。
「ちっ、神に選ばれたエルザムの貴族たる僕の命令に従わんとは。所詮は獣か。もう良い、騎士達よ。神に選ばれたエルザムの貴族たる僕に逆らった罪だ!殺せェ!」
すると二人の騎士は、剣を抜き構える。
「ふん、ジョイサン様に逆らうとはな。愚かな獣め。大人しく従っていれば良いものを」
騎士の一人がそう言って、ジリジリと近付いていく。ナタリアも剣を抜き構える。
「邪魔するか!ならばそこのエルフも殺せェ!」
はい、もう我慢出来ません。大人しく引いてくれればそれで良かったけど、俺の仲間を殺すなら駄目です。許しません。俺は、そう決断して素早く騎士二人の前に回り込む。
「なっ!?」
「何者だ!?」
騎士二人は、驚きながらも剣を振るう。だが俺は、剣を躱して騎士の顔面に手を添える。
「【グラビティ】。沈んでしまえ」
そう小声で言うと、突如として騎士二人は地に伏せる。
「な、なんだ・・・っ!?」
「か、体が、重い・・・・っ!」
うん、無力化完了。さて、後はこの小太りのブタ貴族だが。
「な、なななな何者だ!?僕が誰だか分かっているのか!?」
あ~、え~っと。誰だったかな?忘れちゃった。まあ良いや。
「貴様など知らんが、俺の仲間を殺そうとしたのだ。その報いを受けてもらう」
「なっ!?僕はエルザム神聖国ウンターラ男爵家三男のジョイサン様だぞ!?」
だから知らんと言ってるだろうに。しかも男爵って、言うほどのものじゃないぞ。
「それに僕に手を出せば、本国の軍が動くぞ!!戦争になるんだぞ!!良いのか!?」
戦争ねぇ。確かに困るが、その時は大規模な魔法を連発すれば良いだろう。俺の力の源である邪神から貰った魔力もあるし。イキった行動だよな。俺もそう思う。だが止めぬ。
「関係ないさ。お前は今ここで」
「ちょっと待て」
そこに何処かで聞いた声がした。酒場の入り口に目を向けると、二人の男女がいた。あっ。
「マジーメか・・・・」
「久しぶりだな、カゲマサ。我が領の英雄よ」
マジーメ・ドミニク。俺のダンジョンがあるドミニク辺境伯領の領主であり、俺が最初に接触した貴族である。そしてもう一人の女は、マジーメの姉であるエリス・ドミニク。貴族令嬢でありながら戦闘能力は、準英雄級だそうだ。しかし、戦闘狂である。今は大人しくしているが。
「何のようだ?まさかこの豚を助けろと言うのか?」
「いや、その男は殺して構わん」
「は?」
俺は、アホみたいな声を出す。マジーメは、苦笑いを漏らした後説明を始めた。このジョイサンという貴族は、セブンス帝国に外遊中だったのだが、あまりにも自分勝手だったのだ。店の商品を勝手に持っていくし、そこらの女性を勝手に連れていこうとするし、殺そうとまでしたようだ。事態を見た帝国上層部は、秘密裏に始末すべくマジーメ・ドミニクに指令を下す。ドミニク辺境伯領に招き入れ始末しろと。
「なるほどな。道理で誰も店内にいないはずだ」
「住民には、私自ら酒場の視察をするといって出ていって貰った。さあ、人払いはすんだぞ」
「ああ」
俺は、ジョイサンに近づき手刀を構える。
「ヒッ!!」
先程の会話から自分が死ぬと分かったのだろう。顔を真っ青どころか蒼白にしているジョイサン。
「ま、待ってくれ!僕は神に選ばれた人間だぞ!!その僕を殺せば天罰が」
「だまれ、糞虫が」
俺は、手刀をジョイサンの首に捩じ込んだ。ジョイサンが抵抗するが、構わず手刀を捻り混ませる。やがて手刀が首の骨にとどき、俺は力を込めて一気に首の骨を切った。ジョイサンは、首から大量の鮮血を出していたが、やがて膝から崩れ落ち息絶えた。
俺は、ついでと言わんばかりに騎士二人を【デス】で殺しておく。
「終わったぞ」
「ああ、すまなかったな。汚れ仕事をさせてしまって」
「構わん。コイツは俺の仲間を殺そうとしたのだ。死んで当然なまで。というか、世の中の為になったんじゃないか?」
「そうか。そうかもしれんな。・・・しかし災難だったな。おい!」
マジーメが合図を出すと、ぞろぞろと部下らしき人間達が現れ三人の死体を運び、血を拭いていく。
「これで良し。ああ、そう言えばお前に相談が合ったんだ」
「相談だと?」
俺は、酒場にあった椅子を持ち出してマジーメを座らせる。
「で、相談とは?」
「ああ、実は・・・・姉貴が、またお見合いをしたんたが」
「ああ、ボコボコにしたのか」
「そうなんだよォォォォ!!」
マジーメは、膝に手を叩きつけながら今までの鬱憤を晴らすように語る。
「何だよ!俺がせっかく苦労してお見合いを設置したのに、途端に決闘して何もかも台無しにしちまってよォォォォ!!」
「あのご長女様らしいな」
俺は、朗らかに笑いながら頷く。その間にもマジーメの愚痴は続いた。あまりの剣幕にマヤとナタリアは、口出し出来ずにいる。暫くした後。
「ふぅ~、済まない。愚痴を聞いて貰って」
「うん、それは良いんだが・・・・ご長女様ヤバイぞ?」
「あっ」
マジーメは、恐る恐る後ろを向くと、まるで般若のような形相になっているエリスの姿があった。
「へぇ~?マジーメったらそんなことをねぇ」
「あ、いや、その」
「マジーメ。領都にもどったら話があるから」
「・・あっはい」
マジーメは、明らかに憔悴したようになった。気の毒に。
「おい、相談ってのはなんだ」
「あ!そうだった!実はなカゲマサ。これは姉貴にも関係する話でな?」
「え?私が?」
「まあ、婚約絡みの相談だからな。で?」
マジーメは、一端息を吸うとポツリと呟く。
「姉貴を貰ってやってくれないか?」
「は?」
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