憤怒王と揺らぎ
◆プーリ侯爵軍 本陣跡
魔道師ジメイは、混乱の最中にあった。何故なら始末した筈だったカイ・ザーバンスが自分の目の前にいるのだから。何故ジメイはカイ始末したのか。理由は簡単、自らの計画を失敗させないために邪魔となるであろう者達を公王ハマルの名の元に粛清した。その中にカイが含まれていただけである。そしてジメイは、カイが暗殺されたところを遠見の魔道具を用いて確認していた。故にカイは死んだと思い込んでしまった。
(何故、何故だッ!奴はあの時確実に始末した筈だ!って・・・・・ん?)
混乱しながらもカイを観察していたジメイは、あるものに目がいった。それは、カイの胸辺りに埋め込まれていた。それは、無色透明な玉。ジメイは、それに見覚えがあった。
「そうか・・・!そういうことかっ!カイ・ザーバンス!貴様、アンデッドに変異したなッ!?」
それは、魔石。ジメイは魔道具などを作る関係上、魔石を多用するので魔石の有無かは一目で分かる。
「は・・はっ、せ・・いか・・・いだよ。た、だ、・・・その仮・・・・初、めのい・・・・の、ちさえ・・・・つ、きそう・・・だがね」
焼けた垂れた肉片をボトボト落としながら、カイは何とか声を出す。一方のジメイは、少し落ち着きを取り戻していた。
「まさか、アンデッドになってまで私を殺しにきたのか?大した執念だ」
「い・・・や、ち・・がうッ!」
「何?じゃあ何しにきたのだ」
「・・・この・・国を、す・・・くい・・にきた!」
辛うじて吐き出された言葉を聞いたジメイは、少し考え込み嘲るような顔になった。
「・・・期待した私が馬鹿だった。せめて、私への私怨か自分を殺した国への恨みならば、私の計画の一助となったろうに。もういい。ジェイビス、殺れ。この死体共を完全に粉砕せよ」
「了解」
ジメイは、ジェイビスに後を任せてフィナロムスを始末するべく、歩き始める。
「さ・・せる、か!!」
「いか、せ・・・・・ない!」
そこに同じアンデッドであろう男女が阻む。その男女、ミルス・ドウガーとロンド・ペリークスは、最後の力を振り絞って特攻を仕掛けた。この先に行かせないために。主から受けたフィナロムスを守れという指令を遂行させるために。しかし。
「ふん、何の策もない攻撃で止められると思ったか?くだらん。【アイスロック】」
ジメイは、そんな思いなど知ったことではないと言わんばかりに、二人を氷像にしてしまった。
「そして砕けろ。【クリムゾンジャベリン】」
そして氷像に向かって灼熱の槍を投擲。そして、大き音を立てて氷像は砕け散った。いや、消滅した。あまりにも呆気ない終わり。だが、カイにはそれを見る暇はない。何故なら、現時点でジメイの最後にして最強の駒であるジェイビスを相手にしているのだから。
「はあ、まさか予想が当たるとは。道理で何度傷をつけても痛がらず、気付きもしない訳だ。アンデッドに痛覚は存在しないものな」
「・・・・っ!」
「もう声すら出せんか。・・・・・せめて我の手で葬ってやろう」
ジェイビスは、辛うじて自分の攻撃を避けていたカイを伸ばした伸骨腕で捕まえる。
「・・・ッ」
「さあ、これでお仕舞いだ。何、安心しろ。貴様のことは忘れない。我より弱いにもかかわらず、我と互角の戦いをしたのだからな」
そして、いざとどめを指そうとしたその時、ジェイビスの横を何かが猛スピードで通りすぎた。
「む?何だ?」
ジェイビスは、辺りを見回して、驚愕した。
「おいおい、嘘だろう」
そこには、赤黒いオーラを纏い、充血した目を晒しながら、今にもフィナロムス一行を殺そうとしていたジメイをぶん殴った者がいた。殴られたジメイは、殴った相手を見て驚愕と呆れを含み言葉を放つ。
「やれやれ、また君か。ジ・キラー」
「■■■■■■■■■!!!」
そう。ジメイをぶん殴ったのは、スキル《憤怒王》を発動させたキラーだった。
《憤怒王》。文字通り、怒りに関するスキル。内容としては至って単純で、己の理性と引き換えに限界以上の力を引き出す代物。キラーは、ジメイが消えた後、このスキルを使用して拘束を破壊。ジメイを殺すべく舞い戻ったのだ。
「■■■■■■■■■■!!!」
「ふん、理性の無い獣にやられる私ではない。【アイスロック】」
ジメイは、キラーを再び凍らせようと魔法を放つ。だがキラーは、拘束しようとした氷を素手で粉砕。そして、ジメイの腹に腕をめり込ませた。
「はっ?何ぐぼァァッ!?」
ジメイは、思わず血を吐き出し後退。腹を押さえながら蹲ってしまった。
「■■■■■■■■■ーーーー!!!」
だが、そんなもので手を緩める程キラーは甘くない。いや、甘くないというか、手を緩める程の理性も残っていなかった。そして、ジメイに地獄の連打が降りかかった。
また一方で魔力を制御していたジメイが倒れ込み、魔力の制御が不安定になった。よって、ジメイの代替魔力によって最大5分維持できる不壊の結界と魔封じの結界に揺らぎが生じたのだ。これにより、魔法が使えるようになり、結界を壊せるようになった。そして黒木影正は、その隙を見逃さなかった。
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