魔王じゃが転移勇者に真実を教えるのもワシの仕事の内よの
「この扉を開ければ遂に魔王グルスと対面か。しかし権力を誇示する為なのか随分と大きな扉だな」
「早々に入って来るがいい」
「くっこの声は魔王の物なのか、バレてやがる」
「漸く入って来たか、転移者にして勇者のイチローよ」
「なっ貴様! どうして俺の名前をっ! 」
「簡単な事よ。お主が城に召喚された時からワシは見ておったからの」
「何だとっ! 貴様、まさか城の人達までも手中に納めていると言うのか!? 」
「ふふふ、ワシは魔王だぞ、それくらい造作もないわ」
「くっ、ならば王国の平和いや人間の平和の為、魔王ここで死んで貰うぞっ!」
「皆同じ事を言う。来るがいい、神より授かりし力を見せてみよ」
「そうやって余裕な顔をして要られるのも今だけだ。聖剣キャリバーの切れ味を受けてみろっ! 」
「ぐっまさかワシの魔力障壁をやすやすと、少しばかり舐めておったわ」
「そんな事を言いつつ魔力を溜めているか……魔王め、一筋縄ではいかんな」
「勇者よ受けてみよ、漆黒の牢獄っ! 」
「ぐっ魔王めっ! 何だこの魔法は……何も感じない。何も聞こえない」
「ふふふ、貴様が信じる人間達の真実を見せてやろう」
「ん……何だ、ここは魔人の村か? 人間と同じ様な生活をしているんだな。何だっ! 」
「勇者よ、ワシらが何故人間を殺すか身を持って知るがいい」
「なっ何だと、魔人達が人間界に襲われている……辞めろっ! 何故女子供を殺す……何もしてないじゃないか……」
「勇者めワシらの為に涙を流すか。お人好しなものよ」
「辞めろっ! やめろっ! 何故そんな事をするっ! 何故だ……」
「戻って来たか勇者よ。これがこの世界の真実、勇者が守っているのは虐殺者どもよ」
「はぁはぁ……しかし……しかしっ! 魔族も人間を殺すでは無いか」
「勇者よ、当たり前だ。ワシら魔人のギルドは暴れる人間を殺す、殺さなければ殺されるからな」
「くっ、しかしそれならば人間も貴様達が魔物が来るからこそ、ギルドを作り町を村を守っているんだっ! 」
「ふん、そもそもの間違いがそれよ。」
「何だとっ! 」
「魔物はワシらの仲間では無い。あれは自然発生するもの、それを知らぬ人間はワシらの所為にしてワシらを襲う」
「なん……だと」
「そんな事も知らず人間は、ワシら魔族を根絶やしにしようとしておる。勇者よ、お主の正義はどこにあるのだ? 」
「そんな言葉に騙されんぞ! 」
「そんな面倒な事はせんよ。良く考えてみるがいい、今までの事を。魔物は知らんが、魔人が率先して人間を殺して居るのを見たのか? 」
「たっ確に……俺は……俺はどうすればいいっ! 」
「勇者よ、ワシらはお主を歓迎しよう。納得するまで居るがいい」
「……魔王よ、今すぐ信じるなど簡単には出来ん……だが……」
「よい、部屋を案内させよう。少しばかり休むがいい」
「あっあぁ……済まない、そうさせて貰おう」
「うむ、ゆっくり休むがいいぞ」
「あぁ」
「行ったか。しかし転移者と言うのはどうしてこうも平和ボケしておるのか、元の世界が余程平和と見える。」
「あぁ俺はどうすればいいんだ、魔王の言う事を信じたくは無いが、確かに魔人から攻めて来たのは見たことも経験した事も無い。まさか王に騙されていたのか? 俺は踊らされていたのか? だとすれば……」
「起きて来たか勇者よ」
「あぁ世話になったな。俺は少しばかり世界を見てくる。魔王よ色々考えたい事が出来た。改めて来るその時まで首を洗って待っていろ」
「ふん。好きにするがいい、ではまたな勇者よ」
「あれからもう十年か……姿を隠して旅をしたかいが有ったな、魔王の言う通りだった」
「よく戻ったな勇者よ。お主はこれからどうするのだ? 」
「あぁ俺は……」
「「魔王よ、その首貰いに来たぞっ! 」」
「前勇者よ、今代の勇者が来たようだ」
「今代の勇者だと」
「はぁ、転移者があれなのか、勇者があれなのか……余程平和な国から来たのだな……全く魔王と言うのも疲れる仕事よのう」
「おい、魔王ちゃんお前も酒飲むぞ!」
「やれやれ、困った奴らが住み着いたものよ」